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第一部 異世界建築士と獣人の少女
第61話:思慕(7/7)
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夜明けとともに目を覚ます。
この世界に来て、今ではそれが当たり前となった。
窓は雪で埋まってしまっているが、その雪を通し、うすぼんやりと明るくなってきているのが分かる。
「お目覚めですね」
傍らで、俺の腕を枕にして微笑むリトリィに、俺は、彼女が一晩、ここにいてくれたことを悟った。
一瞬、夢の続きかと思ってしまったが、起き上がろうとしてうっかり左腕を突き、体重をかけて起き上がろうとしたものだから、すさまじい激痛に再びベッドに倒れる。昨日の出来事の続き――現実の朝だということを嫌でも思い知らされる。
ついでに、リトリィの首の下から引き抜いた右腕は、当初は完全マヒ状態で全く感覚が無かったのが、今度はすさまじい痺れ状態へと移行完了。傍らで微笑んでいる少女に対してかっこ悪いところを見せたくないがために必死で耐えているが、もう転げまわって悶絶したい……!
腕枕の朝チュンってあこがれてたけど、正しい知識なしにやるもんじゃないことを、現在進行形で思い知らされる。
左腕の激痛と右腕のビリビリのダブルパンチはさすがになんとも洒落にならない。ああ、生きているよ俺! ていうか、世のリア充男性諸君! 腕枕しても俺が痺れない方法を今すぐ教えろください。
「寝顔、可愛かったです」
さらにはこちらの致命傷ポイントをよ~く理解し俺を悶絶させんとするがごとく、ふふ、と微笑むリトリィは、以前の、あの愛おしい彼女だ。もちろん、控えめなだけがリトリィじゃない。彼女は頑固なところもあるし、こちらの言葉尻をとらえてユーモアある皮肉を返したりもする。
古来、女性は太陽だったという。つまり絶対の存在であり、一度握られたらもう、敵わないということだ。ナニを握られたかって? もちろん主導権ですよナニを想像したんです?
リトリィはゆっくり身を起こすと、手首に巻いていたリボンをほどき、髪を結び始める。腰まである長い髪の先端を背中あたりで束ね、後ろ手ながら器用にくるくると巻き、見慣れた形に結ぶ。
深夜の水浴びは死ぬほど冷たく凍えたが、彼女の毛並みは、おかげで血糊のあともなく、美しさを保っている。胸から下腹にかけては金ではなく銀の体毛だが、どこにもシミは見当たらない。綺麗に落ちて、本当に良かった。
そして胸を張るようにしてリボンを結ぶ間、うっすらと差し込む光を背景にして、形の良い張りのある豊かな乳房が浮かび上がるが、まったく隠そうともしない。兄のアイネに対しては隠していたから、これもリトリィなりの線引きなのだろう。
つまり俺という存在は、リトリィにとって、ありのままを見られてもいい相手ということだ。
なんとも光栄なことだ。こんな扱い、日本ではありえなかった。
――いや、ちがう。そのような扱いを得ることができるほど、俺は女性に対して努力を払ってこなかったのだ。
リトリィだって、意味もなく俺を選んだわけじゃない。俺が彼女を、一女性として紳士的に(ここ重要!)扱ってきたこと、そして恩を返そうと努力をしたことが、彼女の心を射止めたのだと、彼女自身が言っていた。
相手から好かれようと思ったら、相手が喜ぶことは何かをよく見定めて、それが互いのためになると判断できれば即座に精進あるべし、だ。
そして、彼女がどうあっても俺を好いてくれるというのなら、俺も彼女の想いに応えていくことにするだけだ。昨夜、彼女を懐に抱きながら、決めたことだ。
リボンを結び終わり、具合を確かめると、リトリィはまた、俺の懐にもぐりこんできた。裸身を冷気にさらしたせいか、その肌はひんやりとしていたが、しかしふかふかの毛並みはすぐにぬくもりを蘇らせる。
「……ムラタさん、あったかいです」
そう言って、胸元に横顔をこすりつける。
もう薄明けだということは、もうすぐ食事だということだ。食事の準備をしないといけないのでは、と聞くと、彼女はいたずらっぽく、昨日全て済ませておきましたから、もうすこしこのままでと、離れようとしなかった。
用意周到なことだ。
……いや、最悪、命を投げ出す思いでここに来たはずだから、実質、最後の仕事のつもりだったのだろう。
そのような心理状態から、今の、この甘えモード。本当に、怪我をしたのが俺だけでよかったと思う。
とはいえ、このままにしておいたら、そのうちアイネが怒鳴り込んできそうだ。
少しからかうつもりで言ってみる。
それは再び、自爆に繋がってしまうのだが。
「いいのか? 仕事をほったらかして、俺なんかにかまけてて」
「はい。ムラタさんのお世話をするのも、わたしのおしごとですから」
そう言うと、俺の胸に這わせていた右の手のひらを俺に見せ、それを裏返し、その手のひらを、ゆっくりとなめてみせる。
いたずらっぽい笑みを浮かべ、上目遣いで。
ぐほぁッ! それ昨夜、手についたあれを、俺に見せるようになめてみせたときの仕草――!!
小悪魔だ、小悪魔がここにいる!
やはり……やはり男という生き物は、女性には勝てないのか……ッ!
女は怖い。
冗談抜きで、今さらながら思う。
彼女は俺に捨てられることを恐怖していた、俺はそのように認識していた。
だが違う、そうじゃなかった。
彼女は意識的に、あるいは無意識的にそのような姿を見せ続けることで、俺を虜にし、ついには篭絡に成功してしまったのだ。
しいて言うなら、俺が、彼女の支配に無駄に抗い続け、そして、見事に陥落してしまったのだ。
さながら、アリジゴクに落ちた蟻のように。
では、それは不快か?
それは否だ。
日本に帰る手掛かりを探しつつ、という前提は崩れないが。
搦め捕られた喜び、とでも言おうか。
知恵比べに負けたすがすがしさ、とでも言おうか。
彼女を守り、支える生き方に、シフトチェンジした。
それだけだ。
この世界に来て、今ではそれが当たり前となった。
窓は雪で埋まってしまっているが、その雪を通し、うすぼんやりと明るくなってきているのが分かる。
「お目覚めですね」
傍らで、俺の腕を枕にして微笑むリトリィに、俺は、彼女が一晩、ここにいてくれたことを悟った。
一瞬、夢の続きかと思ってしまったが、起き上がろうとしてうっかり左腕を突き、体重をかけて起き上がろうとしたものだから、すさまじい激痛に再びベッドに倒れる。昨日の出来事の続き――現実の朝だということを嫌でも思い知らされる。
ついでに、リトリィの首の下から引き抜いた右腕は、当初は完全マヒ状態で全く感覚が無かったのが、今度はすさまじい痺れ状態へと移行完了。傍らで微笑んでいる少女に対してかっこ悪いところを見せたくないがために必死で耐えているが、もう転げまわって悶絶したい……!
腕枕の朝チュンってあこがれてたけど、正しい知識なしにやるもんじゃないことを、現在進行形で思い知らされる。
左腕の激痛と右腕のビリビリのダブルパンチはさすがになんとも洒落にならない。ああ、生きているよ俺! ていうか、世のリア充男性諸君! 腕枕しても俺が痺れない方法を今すぐ教えろください。
「寝顔、可愛かったです」
さらにはこちらの致命傷ポイントをよ~く理解し俺を悶絶させんとするがごとく、ふふ、と微笑むリトリィは、以前の、あの愛おしい彼女だ。もちろん、控えめなだけがリトリィじゃない。彼女は頑固なところもあるし、こちらの言葉尻をとらえてユーモアある皮肉を返したりもする。
古来、女性は太陽だったという。つまり絶対の存在であり、一度握られたらもう、敵わないということだ。ナニを握られたかって? もちろん主導権ですよナニを想像したんです?
リトリィはゆっくり身を起こすと、手首に巻いていたリボンをほどき、髪を結び始める。腰まである長い髪の先端を背中あたりで束ね、後ろ手ながら器用にくるくると巻き、見慣れた形に結ぶ。
深夜の水浴びは死ぬほど冷たく凍えたが、彼女の毛並みは、おかげで血糊のあともなく、美しさを保っている。胸から下腹にかけては金ではなく銀の体毛だが、どこにもシミは見当たらない。綺麗に落ちて、本当に良かった。
そして胸を張るようにしてリボンを結ぶ間、うっすらと差し込む光を背景にして、形の良い張りのある豊かな乳房が浮かび上がるが、まったく隠そうともしない。兄のアイネに対しては隠していたから、これもリトリィなりの線引きなのだろう。
つまり俺という存在は、リトリィにとって、ありのままを見られてもいい相手ということだ。
なんとも光栄なことだ。こんな扱い、日本ではありえなかった。
――いや、ちがう。そのような扱いを得ることができるほど、俺は女性に対して努力を払ってこなかったのだ。
リトリィだって、意味もなく俺を選んだわけじゃない。俺が彼女を、一女性として紳士的に(ここ重要!)扱ってきたこと、そして恩を返そうと努力をしたことが、彼女の心を射止めたのだと、彼女自身が言っていた。
相手から好かれようと思ったら、相手が喜ぶことは何かをよく見定めて、それが互いのためになると判断できれば即座に精進あるべし、だ。
そして、彼女がどうあっても俺を好いてくれるというのなら、俺も彼女の想いに応えていくことにするだけだ。昨夜、彼女を懐に抱きながら、決めたことだ。
リボンを結び終わり、具合を確かめると、リトリィはまた、俺の懐にもぐりこんできた。裸身を冷気にさらしたせいか、その肌はひんやりとしていたが、しかしふかふかの毛並みはすぐにぬくもりを蘇らせる。
「……ムラタさん、あったかいです」
そう言って、胸元に横顔をこすりつける。
もう薄明けだということは、もうすぐ食事だということだ。食事の準備をしないといけないのでは、と聞くと、彼女はいたずらっぽく、昨日全て済ませておきましたから、もうすこしこのままでと、離れようとしなかった。
用意周到なことだ。
……いや、最悪、命を投げ出す思いでここに来たはずだから、実質、最後の仕事のつもりだったのだろう。
そのような心理状態から、今の、この甘えモード。本当に、怪我をしたのが俺だけでよかったと思う。
とはいえ、このままにしておいたら、そのうちアイネが怒鳴り込んできそうだ。
少しからかうつもりで言ってみる。
それは再び、自爆に繋がってしまうのだが。
「いいのか? 仕事をほったらかして、俺なんかにかまけてて」
「はい。ムラタさんのお世話をするのも、わたしのおしごとですから」
そう言うと、俺の胸に這わせていた右の手のひらを俺に見せ、それを裏返し、その手のひらを、ゆっくりとなめてみせる。
いたずらっぽい笑みを浮かべ、上目遣いで。
ぐほぁッ! それ昨夜、手についたあれを、俺に見せるようになめてみせたときの仕草――!!
小悪魔だ、小悪魔がここにいる!
やはり……やはり男という生き物は、女性には勝てないのか……ッ!
女は怖い。
冗談抜きで、今さらながら思う。
彼女は俺に捨てられることを恐怖していた、俺はそのように認識していた。
だが違う、そうじゃなかった。
彼女は意識的に、あるいは無意識的にそのような姿を見せ続けることで、俺を虜にし、ついには篭絡に成功してしまったのだ。
しいて言うなら、俺が、彼女の支配に無駄に抗い続け、そして、見事に陥落してしまったのだ。
さながら、アリジゴクに落ちた蟻のように。
では、それは不快か?
それは否だ。
日本に帰る手掛かりを探しつつ、という前提は崩れないが。
搦め捕られた喜び、とでも言おうか。
知恵比べに負けたすがすがしさ、とでも言おうか。
彼女を守り、支える生き方に、シフトチェンジした。
それだけだ。
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