47 / 512
第一部 異世界建築士と獣人の少女
第46話:くさび(5/7)
しおりを挟む
「ムラタさんは紳士なの!」
……リトリィの叫びに、すさまじい罪悪感が胸を穿つ。
さっき外で押し倒してたよね俺、ごめん。あと、君のデルタ地帯に触れてた左手の指、動かしてみたくてたまらなかったですハイ。
「――今日までがんばって、いろいろがんばって、ずっとがんばって……それでやっと今日、口づけを許してもらえたんだから!
ムラタさんは紳士なの! 獣人族のわたしでも、大切にしようとしてくださってるの! それが分かるの!」
今まで、いろいろと頑張ってたのか。
何を、と言われれば……今思えば、つまり俺に対するアプローチだったのかも、ということは、うん、いろいろ思い当たるかも。昨夜の倉庫も、今日のあの数分も、その結果だったんだな。
ていうか、やっと口づけを許してもらえたって、そんな風に思っていたのか。単に俺がヘタレなだけでした、ごめん。
「そんなの、そいつがただのヘタレなだけじゃねえか! もしくはお前のことを嫌ってるか!」
「ちがうもん! この前のあの木炭庫を壊しちゃった騒ぎ、もともとアイネにぃが焼きもち焼いてムラタさんを投げ飛ばしたのが原因ってこと、もう忘れたの!?」
「焼きもちって、おまえ――」
「ムラタさんは、わたしの料理を美味しいって言ってくれたの! それだけじゃない、わたしなんかに、一緒に食べようって、言ってくれたの!!」
枕を振り回していたリトリィの手が、唐突に止まる。
鼻をすする音、そして、先ほどまでとは打って変わって、力のない声で。
「初めての晩ご飯のときなんか、うっかりいつも通りの、お客さんに出せるようなものじゃないスープ作っちゃったけど……お兄さま、その時自分がなんて言ったか覚えてる? ――『なんだ、いつもどおりか』って」
しゃくりあげる音。
「……でも、それでもムラタさんは、おいしいって。あんな……あんなスープだったのに、お代わりが欲しいって言って。何杯も、うれしそうに、おいしそうに、いっぱい食べてくださって。
――よかったらまた、一緒に食べたいんだけど、いいかな? って誘ってくださって……」
床に転がったカンテラの明かりは弱々しく、ぼんやりとしかわからない。だがそれでも、
「あれから、ずっと、お食事のたびにわたしを誘ってくださって……」
彼女の目に、大粒の涙が次々と浮かび、輝き、零れていくのが、見える。
「――それが、どんなに、うれしかったか……。お兄さまに、分かる……?
ムラタさんが、わたしを拒否したとき……どんなにつらかったか、分かる?
またおそばによんで下さったとき――あのとき、どれほどうれしかったか……お兄さまに、分かる……!?」
それに関しては、俺もアイネと同罪だろう。
リトリィの本当の思いなんて考えもせずに、彼女の気持ちを勝手な想像で分析し、勝手に落ち込み、勝手な判断で拒絶し続け――傷つけ続けた。
本当は、リトリィの断罪は、俺に向けられてしかるべきなのだ。
「いや……あの――オレは、お前に幸せになってほしくてだな……」
「幸せ……?」
リトリィの尻尾が跳ね上がる。
あ、怒った。怒らせてしまった。
「……お母さまはいつもおっしゃってた。どうせお兄さまたちが邪魔をするに決まってるから、これはって思った殿方がいたら、とにかくその人の胸に飛び込みなさいって。結果は後からついてくるからって!」
「いや、だからって急ぎすぎ……」
「ムラタさんはこの国の人じゃないの! いつか自分の国に帰ってしまう人なの! だから……だから!」
言うだけ言い切ったのか、リトリィは床に座り込み、顔を覆って、静かに肩を震わせ続ける。
アイネも、そんな彼女に何も言えなくなったようだった。
ただ、リトリィの嗚咽だけが、暗い部屋の中に響く。
彼女が、俺を特別扱いした理由。
それは、俺が現代日本で生まれ育った、そこに理由があるといえるだろう。
つまり、俺が、この世界にはびこる差別とは、無縁の人間だったということ。
リトリィは、いわゆる人間とは別の種族。街で生活していたころは、いわれのない差別を受けていたのだろう。だがそれは、決して他人事ではない。
現代日本――地球であっても、肌の色が違うだけ、出身地が違うだけ、信じる神が違うだけで、多種多様な差別が世界を覆っている。
ましてリトリィは、見た目からして人間とは異なっていて、しかも、おそらく獣人の中でも、特に動物の特徴を色濃く残した少数種族らしいのだ。獣人が当たり前にいるこの世界であったとしても、偏見と差別は、より一層厳しかったに違いない。
差別は良くない、人類みな平等。
現代日本において、十二年間でそのように教育されてきた俺も、彼女の肢体を初めて見たときには強烈な違和感を覚えたし、犬そのものに近い顔を見たときは、畏怖すら覚えた。
これは、一対一だったからというのもあるだろう。もし、俺が街の中で、人間の集団に所属した状態で、たまたま彼女に気づいたというのなら、おそらく興味本位で――もっと言うなら珍獣を見る思いで彼女を凝視したか、あるいは避けていたか。
ベスティアールという言葉は知らなくとも、無意識に、あるいは意識的に、彼女のことを「自分とは違う存在」だとして、差別的に扱っていたかもしれない。
リトリィはおそらく、この家に来て、初めて平穏を手に入れたのだ。あのハンマーのような拳の持ち主である親方。あの男を父とし、その奥さんを母とし、うるさく過保護な兄貴たちとともに暮らす、差別されない生活。
ベスティアールという差別語を、父と母以外で初めて言わなかった人間が俺、ということは、来訪する客たちも、彼女の姿を見れば、顔を背けてそう言ってたに違いない。あるいは、表立って言わなくとも、彼女を避けて通る、などというのが日常的に行われていたのだろう。
彼女にとってはそれが当たり前のことだったのだろうが、けれどもその当たり前は、常に彼女の胸の奥をえぐり続けていたに違いない。
たとえ、今は自分を過保護なまでに大切にしてくれる兄であっても、かつては自分に心無い差別語を投げつけた。ならばその差別心は、口に出さないだけで、もしかしたら、親方、奥方も持っているかもしれない――おそらくそういう恐怖を、心の奥底に、常に持っていたのだ。
そう考えると、アイネが以前言っていた「奥方の厳しい躾」に、泣きながらでも食らいついていたというその行動に納得ができる。虐待を受けていた子供の、特徴的な行動パターンだ。愛を失いたくない、そのために気に入られたくて必死になる、あのパターン。
アイネは、彼女が王城の城下町の路地裏で、好色者に体を売ることで日々の糧を得ていたらしい、というようなことを言っていた。
差別されていた獣人をあえて好む輩だ。彼女への扱いなど、推して知るべしだっただろう。
新しい父と母に捨てられてしまったら、また、かつての過酷な生活に逆戻りになるかもしれない。そう考えたら、彼女は、必死にならざるを得なかったのだ。たとえ親方や奥方に、そのような意識が毛の先ほどもなかったとしても、だ。
こうしてみると、彼女が俺に執着する理由が見えてくる。
彼女は俺を、「男性的に魅力ある存在」として見ているわけではないのだ。
そりゃそうだ。優しいだけの男なら掃いて捨てるほどいるに決まってるし、しかも俺の場合、優しいんじゃなく、女性経験のなさによる単なるヘタレ。
そんな俺に、男性的な魅力? ないない、あるわけがない。
ならば、そのような好意は、利益をもたらす相手の方ではなく、得られる利益や結果のほうに向けられている、そう考えるべきだ。
つまり彼女は、差別なく――単に知らなかったからというだけなのだが――自分を受け入れてくれるだろう俺を通して、「差別されない平穏な生活」という、得難い利益に執着をしている、ということなのだろう。
彼女が打算的だと非難したいのではない。彼女自身はとても純粋で、とても素敵な女性だという評価は変わらない。むしろ、過酷な半生を経験してなお、これほどまでに相手のことを思いやり、相手の安寧を共に喜ぶことができ、鍛冶師という目標を高く掲げて邁進しようとしているのだ。尊敬の念すら沸き起こってくる。
ただ、彼女が妙に俺に肩入れしてくれる、その行動の理由とその心理を考えたとき、無意識であったとしても、先に挙げたような意識が底流にあるという推測は成り立つ。
つまり彼女はきっと、平穏をくれる誰かを欲しているだけなのだ。
スープを一緒に食おうと誘われた、一緒に畑仕事をした、俺の屋根修理に付き合った、などによる、一種の吊り橋効果によるただの錯覚。
――それでも、彼女は俺を慕ってくれている。俺もその想いに乗っかって、何が悪いというんだろう。俺だって、彼女のことを、好きになったんだ。たとえ彼女の想いが――俺の想いが、ただの勘違いだったとしても。
うん、大学の卒業要件に全く関係のない単位だったが、興味本位で心理学をいくつか勉強しておいてよかった。モテなくとも、相手の心理をある程度分析し、推察することができる。自分が置かれた状況を、冷静にかつ客観的に分析できるようにしてしまう……!
ああ、そうだ、大っ嫌いだ! 心理学なんか大っ嫌いだバーカ! ちきしょーめ!
「……おい、ムラタ! おめぇ、黙ってないでなんとか言え」
自分自身の分析癖にセルフ脳内ツッコミを入れていた俺を、アイネがにらみつけてくる。
どうも、リトリィの嗚咽のみが響くこの時間に、耐えられなくなったようだ。
早く何か声をかけろ。目と口元で催促をしてくるアイネに応えてやる義理などない。だが、泣いている女の子を放置するのは、気分として最悪だ。
まして、リトリィの好意は、きっかけ自体は吊り橋効果的な勘違いが生んだものなのだろうが、俺に対して向けられているのだ。一緒に食事をしようと誘う、たったそれだけで涙をこぼすほど喜び、俺を支え続け、励まし、そして今しがたも強く抱擁し合った女性だ。
今はまず、その涙をとめてやりたい。
……リトリィの叫びに、すさまじい罪悪感が胸を穿つ。
さっき外で押し倒してたよね俺、ごめん。あと、君のデルタ地帯に触れてた左手の指、動かしてみたくてたまらなかったですハイ。
「――今日までがんばって、いろいろがんばって、ずっとがんばって……それでやっと今日、口づけを許してもらえたんだから!
ムラタさんは紳士なの! 獣人族のわたしでも、大切にしようとしてくださってるの! それが分かるの!」
今まで、いろいろと頑張ってたのか。
何を、と言われれば……今思えば、つまり俺に対するアプローチだったのかも、ということは、うん、いろいろ思い当たるかも。昨夜の倉庫も、今日のあの数分も、その結果だったんだな。
ていうか、やっと口づけを許してもらえたって、そんな風に思っていたのか。単に俺がヘタレなだけでした、ごめん。
「そんなの、そいつがただのヘタレなだけじゃねえか! もしくはお前のことを嫌ってるか!」
「ちがうもん! この前のあの木炭庫を壊しちゃった騒ぎ、もともとアイネにぃが焼きもち焼いてムラタさんを投げ飛ばしたのが原因ってこと、もう忘れたの!?」
「焼きもちって、おまえ――」
「ムラタさんは、わたしの料理を美味しいって言ってくれたの! それだけじゃない、わたしなんかに、一緒に食べようって、言ってくれたの!!」
枕を振り回していたリトリィの手が、唐突に止まる。
鼻をすする音、そして、先ほどまでとは打って変わって、力のない声で。
「初めての晩ご飯のときなんか、うっかりいつも通りの、お客さんに出せるようなものじゃないスープ作っちゃったけど……お兄さま、その時自分がなんて言ったか覚えてる? ――『なんだ、いつもどおりか』って」
しゃくりあげる音。
「……でも、それでもムラタさんは、おいしいって。あんな……あんなスープだったのに、お代わりが欲しいって言って。何杯も、うれしそうに、おいしそうに、いっぱい食べてくださって。
――よかったらまた、一緒に食べたいんだけど、いいかな? って誘ってくださって……」
床に転がったカンテラの明かりは弱々しく、ぼんやりとしかわからない。だがそれでも、
「あれから、ずっと、お食事のたびにわたしを誘ってくださって……」
彼女の目に、大粒の涙が次々と浮かび、輝き、零れていくのが、見える。
「――それが、どんなに、うれしかったか……。お兄さまに、分かる……?
ムラタさんが、わたしを拒否したとき……どんなにつらかったか、分かる?
またおそばによんで下さったとき――あのとき、どれほどうれしかったか……お兄さまに、分かる……!?」
それに関しては、俺もアイネと同罪だろう。
リトリィの本当の思いなんて考えもせずに、彼女の気持ちを勝手な想像で分析し、勝手に落ち込み、勝手な判断で拒絶し続け――傷つけ続けた。
本当は、リトリィの断罪は、俺に向けられてしかるべきなのだ。
「いや……あの――オレは、お前に幸せになってほしくてだな……」
「幸せ……?」
リトリィの尻尾が跳ね上がる。
あ、怒った。怒らせてしまった。
「……お母さまはいつもおっしゃってた。どうせお兄さまたちが邪魔をするに決まってるから、これはって思った殿方がいたら、とにかくその人の胸に飛び込みなさいって。結果は後からついてくるからって!」
「いや、だからって急ぎすぎ……」
「ムラタさんはこの国の人じゃないの! いつか自分の国に帰ってしまう人なの! だから……だから!」
言うだけ言い切ったのか、リトリィは床に座り込み、顔を覆って、静かに肩を震わせ続ける。
アイネも、そんな彼女に何も言えなくなったようだった。
ただ、リトリィの嗚咽だけが、暗い部屋の中に響く。
彼女が、俺を特別扱いした理由。
それは、俺が現代日本で生まれ育った、そこに理由があるといえるだろう。
つまり、俺が、この世界にはびこる差別とは、無縁の人間だったということ。
リトリィは、いわゆる人間とは別の種族。街で生活していたころは、いわれのない差別を受けていたのだろう。だがそれは、決して他人事ではない。
現代日本――地球であっても、肌の色が違うだけ、出身地が違うだけ、信じる神が違うだけで、多種多様な差別が世界を覆っている。
ましてリトリィは、見た目からして人間とは異なっていて、しかも、おそらく獣人の中でも、特に動物の特徴を色濃く残した少数種族らしいのだ。獣人が当たり前にいるこの世界であったとしても、偏見と差別は、より一層厳しかったに違いない。
差別は良くない、人類みな平等。
現代日本において、十二年間でそのように教育されてきた俺も、彼女の肢体を初めて見たときには強烈な違和感を覚えたし、犬そのものに近い顔を見たときは、畏怖すら覚えた。
これは、一対一だったからというのもあるだろう。もし、俺が街の中で、人間の集団に所属した状態で、たまたま彼女に気づいたというのなら、おそらく興味本位で――もっと言うなら珍獣を見る思いで彼女を凝視したか、あるいは避けていたか。
ベスティアールという言葉は知らなくとも、無意識に、あるいは意識的に、彼女のことを「自分とは違う存在」だとして、差別的に扱っていたかもしれない。
リトリィはおそらく、この家に来て、初めて平穏を手に入れたのだ。あのハンマーのような拳の持ち主である親方。あの男を父とし、その奥さんを母とし、うるさく過保護な兄貴たちとともに暮らす、差別されない生活。
ベスティアールという差別語を、父と母以外で初めて言わなかった人間が俺、ということは、来訪する客たちも、彼女の姿を見れば、顔を背けてそう言ってたに違いない。あるいは、表立って言わなくとも、彼女を避けて通る、などというのが日常的に行われていたのだろう。
彼女にとってはそれが当たり前のことだったのだろうが、けれどもその当たり前は、常に彼女の胸の奥をえぐり続けていたに違いない。
たとえ、今は自分を過保護なまでに大切にしてくれる兄であっても、かつては自分に心無い差別語を投げつけた。ならばその差別心は、口に出さないだけで、もしかしたら、親方、奥方も持っているかもしれない――おそらくそういう恐怖を、心の奥底に、常に持っていたのだ。
そう考えると、アイネが以前言っていた「奥方の厳しい躾」に、泣きながらでも食らいついていたというその行動に納得ができる。虐待を受けていた子供の、特徴的な行動パターンだ。愛を失いたくない、そのために気に入られたくて必死になる、あのパターン。
アイネは、彼女が王城の城下町の路地裏で、好色者に体を売ることで日々の糧を得ていたらしい、というようなことを言っていた。
差別されていた獣人をあえて好む輩だ。彼女への扱いなど、推して知るべしだっただろう。
新しい父と母に捨てられてしまったら、また、かつての過酷な生活に逆戻りになるかもしれない。そう考えたら、彼女は、必死にならざるを得なかったのだ。たとえ親方や奥方に、そのような意識が毛の先ほどもなかったとしても、だ。
こうしてみると、彼女が俺に執着する理由が見えてくる。
彼女は俺を、「男性的に魅力ある存在」として見ているわけではないのだ。
そりゃそうだ。優しいだけの男なら掃いて捨てるほどいるに決まってるし、しかも俺の場合、優しいんじゃなく、女性経験のなさによる単なるヘタレ。
そんな俺に、男性的な魅力? ないない、あるわけがない。
ならば、そのような好意は、利益をもたらす相手の方ではなく、得られる利益や結果のほうに向けられている、そう考えるべきだ。
つまり彼女は、差別なく――単に知らなかったからというだけなのだが――自分を受け入れてくれるだろう俺を通して、「差別されない平穏な生活」という、得難い利益に執着をしている、ということなのだろう。
彼女が打算的だと非難したいのではない。彼女自身はとても純粋で、とても素敵な女性だという評価は変わらない。むしろ、過酷な半生を経験してなお、これほどまでに相手のことを思いやり、相手の安寧を共に喜ぶことができ、鍛冶師という目標を高く掲げて邁進しようとしているのだ。尊敬の念すら沸き起こってくる。
ただ、彼女が妙に俺に肩入れしてくれる、その行動の理由とその心理を考えたとき、無意識であったとしても、先に挙げたような意識が底流にあるという推測は成り立つ。
つまり彼女はきっと、平穏をくれる誰かを欲しているだけなのだ。
スープを一緒に食おうと誘われた、一緒に畑仕事をした、俺の屋根修理に付き合った、などによる、一種の吊り橋効果によるただの錯覚。
――それでも、彼女は俺を慕ってくれている。俺もその想いに乗っかって、何が悪いというんだろう。俺だって、彼女のことを、好きになったんだ。たとえ彼女の想いが――俺の想いが、ただの勘違いだったとしても。
うん、大学の卒業要件に全く関係のない単位だったが、興味本位で心理学をいくつか勉強しておいてよかった。モテなくとも、相手の心理をある程度分析し、推察することができる。自分が置かれた状況を、冷静にかつ客観的に分析できるようにしてしまう……!
ああ、そうだ、大っ嫌いだ! 心理学なんか大っ嫌いだバーカ! ちきしょーめ!
「……おい、ムラタ! おめぇ、黙ってないでなんとか言え」
自分自身の分析癖にセルフ脳内ツッコミを入れていた俺を、アイネがにらみつけてくる。
どうも、リトリィの嗚咽のみが響くこの時間に、耐えられなくなったようだ。
早く何か声をかけろ。目と口元で催促をしてくるアイネに応えてやる義理などない。だが、泣いている女の子を放置するのは、気分として最悪だ。
まして、リトリィの好意は、きっかけ自体は吊り橋効果的な勘違いが生んだものなのだろうが、俺に対して向けられているのだ。一緒に食事をしようと誘う、たったそれだけで涙をこぼすほど喜び、俺を支え続け、励まし、そして今しがたも強く抱擁し合った女性だ。
今はまず、その涙をとめてやりたい。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

幼馴染は何故か俺の顔を隠したがる
れおん
恋愛
世間一般に陰キャと呼ばれる主人公、齋藤晴翔こと高校2年生。幼馴染の西城香織とは十数年来の付き合いである。
そんな幼馴染は、昔から俺の顔をやたらと隠したがる。髪の毛は基本伸ばしたままにされ、四六時中一緒に居るせいで、友達もろくに居なかった。
一夫多妻が許されるこの世界で、徐々に晴翔の魅力に気づき始める周囲と、なんとか隠し通そうとする幼馴染の攻防が続いていく。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる