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第2章

28話

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「ノア、もう一度愛して」

「駄目ですよ。
 大公妃殿下。
 あまり激しくすると、腹の子に触りますよ」

「もう。
 意地悪言わないで」

「大切な私達の子供ですよ。
 流れるようなことがあれば、大公の位も流れてしまいますよ」

「そうね。
 絶対に流す訳にはいかないわね」

 帝国に亡命しているオットー・ハーンの妻ハンナ・ハーンは不義をしていた。
 同じように亡命しているノア・シューベルトと情を通じているのだ。
 だがそれは、愛だの恋だのと言ったモノではない。
 性欲のはけ口ではあったが、それ以上の目的があった。

 大公の位に執着するハンナ・ハーンは、子種のない夫オットー・ハーンに隠れて浮気し、不義密通で子供を儲けることにしたのだ。
 大公家の血を受け継いでいない子を産み、その子を大公の位につけ、大公后の位につこうと画策したのだ。

 オットーが上手くやれば、大公妃として贅沢三昧が出来る。
 オットーが失敗しても、不義密通の子を押し立てて、自らが女摂政の位につき、大公国の政を独裁することが出来る。
 ハンナに貞操と言う意識はなかった。
 ただ己の欲望があるだけだった。

 一方ノアには欲望と復讐があった。
 元々ハンナとは大公国にいた頃から不義密通を重ねていた。
 レーナのようなやせっぽちで幼い畜生腹になど興味がなかった。
 ハンナのような豊満な美女が好みだった。

 それに、子供の出来にくい大公家の性質を考えれば、ハンナに自分の子を産ませておけば、自分の子が大公家を継ぐ可能性もあった。
 だから、精力的にハンナを誘惑した。
 子供ができたら大公后に成れると入れ知恵もした。

 その御陰もあって、ハンナの愛人となれた。
 だが、ハンナと帝国に近づきすぎたことで、実家が滅んでしまった。
 今は帝国の御情けで細々と暮らすまでに落ちぶれていた。
 大公家の対抗馬に予定されているハーン夫婦とは、明らかに待遇が違った。

 このままでは切り捨てられると恐れたノアは、何としてでもハンナを妊娠させる必要があった。
 だから、大公国にいた頃よりも頻繁に不義密通に励んだ。
 オットーの眼を盗んでの不義密通は、ノアとアンナを燃え上がらせた。
 濃密な逢瀬が、ハンナを妊娠させた。

 大公家はもちろん帝室の眼も盗んで、自分の子を大公の位に付けられるとノアは考えていた。
 だが、帝室も帝国もノアとハンナの不義密通を知っていた。
 知ったうえで好きにさせていた。
 二人の不義密通の子供など、単なるコマでしかない。

 純粋に謀略を仕掛けるのなら、帝王陛下とハンナの間に出来た子供に大公家を継がす方法もある。
 だが帝室も帝国政府も、そんな小細工をする気がなかった。
 オットーを使って大公国を降伏させ、その後でオットーとハンナを殺し、帝王陛下の子供に大公位に付ければいいと考えていたのだ。
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