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第三章

107話

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「御嬢様、家臣の採用や軍用テントを前倒しにしてよろしいですか?」

「資金は大丈夫なのですか?」

「商人に足元を見られないように、競売量や販売量を絞ります。
 今まで蓄えた現金を投入したします。
 販売先も購入先も、遠方の王都やシーモア公爵を中心にすれば、商人に足元を見られることを防げます。
 家臣の採用も、自前の装備を持っている現役冒険者を中心に考えれば、直ぐに砂漠魔境に投入できます」

「分かりました。
 直ぐに手配してください」

 難民の流入が止まりません。
 デビルイン城やシーモア城に残っていた戦闘侍女や侍女、魔犬母子の到着が少しでも遅ければ、大混乱が起きていたでしょう。
 ですが運よく間に合ってくれました。
 幼い子供が多いとはいえ、母魔犬を加えれば六倍に増えたのです。
 純粋な戦力的には三倍相当でしょう。

 これはヘンリー様達を欺瞞するのに好都合でした。
 ヘンリー様達には戦い続けた親魔犬と子魔犬の強さの差など分かりません。
 中級精霊達にも協力してもらって、遠方の砂漠魔境でも狩りをしてもらいました。
 御陰で続々と押し寄せる難民の食糧だけは確保できました。
 商人や近隣領主から購入する穀物価格より安価な獣肉や魔獣肉は、全部犯罪者奴隷や難民の食糧にしました。

「領主達のやることは悪辣非道です!
 不用な年寄りや子供を武器で脅して我が領に追いやるなんて!
 正式に抗議すべきです!」

 正義感の強いオーロラが珍しく怒って吐き捨てています。
 私も心の大部分ではそう思います。
 ですが、領主として、魔犬の群れのリーダーとして、限られた食糧で領民や群れの仲間を生き延びさせるために、弱いモノを切り捨てる決断をしなければいけないのも理解できてしまうのです。

 私は中級精霊達や魔犬達がいるから、誰一人切り捨てないですみますが、彼らと知り合う前にこの砂漠領を拝領していたら、五百人以上の領民は切り捨てることになっていたでしょう。

 ですが、だからといって、何の抗議もしないわけではありません。
 私が保護し、教育を施し、自分が生きていく以上の生産力を持つように育て上げてから、身勝手に領民返還を言ってくる可能性があるのです。
 老人は無理ですが、子供達は確実にそうなります。
 だから、保護した難民の所有権は私に変える手続きをする必要があります。
 そのためにも、王都のヘンリー様達に強く訴えなければいけません。

「分かっていますよ。
 近隣領主には、難民を受け入れるなら、奴隷として所有権を主張し王家王国にその手続きをすると通達してください。
 老人でも役に立たないわけではありません。
 煉瓦を焼かせるなり、魔犬達が狩った魔獣を運ばせるなり、適当に仕事を与えてください」
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