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第二章

58話

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 休暇から戻ったコックスの表情がさえません。
 実家で何か嫌な事でもあったのでしょうか?
 それもと、休暇ではなかったのでしょうか?
 私も以前とは変わっています。
 何も知らず家族や家臣の言葉を鵜呑みにするだけの、世間知らずではないのです。

 侍女や戦闘侍女の中には、特に鋭い殺気を身にまとう者がいます。
 絆を結んだムク達の御陰で、その事を感じられるようになりました。
 コックスの鬱屈が、それに関係しているのかもしれません。
 少々気になりましたが、余計な事を聞かない方がいいでしょう。

 公爵令嬢である私が知らない方がいい事もあると、理解できるようになりました。
 世の中には表と裏があるというのも、何となく分かるようになりました。
 生き戻る前は、全て家臣任せて、暗殺を防いだと耳にしても、何の実感もありませんでした。

 ですが領地に帰る途中、戦闘侍女しかいない状況で刺客に備える事で、実際に命の危険を感じる事ができました。
 生き戻る前の長い幽閉生活があったからこそ、命の大切さと生き様の大切さが、理解できたのだと思います。

 そして何より一番大きかったのは、ムク達が他の生き物を殺す度に、その感覚がまざまざと感じられるのです。
 他の生き物を殺す時に牙が肉に喰い込む嫌な感じ。
 死の直前にピクピクと動く身体の反応。
 自分が生き物を殺したという実感。

 そんな事を重ねる事で、命の重みを感じるとともに、生き物は他の生き物を命を喰らって生きている事が、ようやく理解出来た気がします。
 言葉で表せと言われたら、正確に伝えられませんが、以前とは違う自分がいます。

 何も分からずに、単に言葉として刺客を排除してくださいと言葉にするのではなくなりました。
 その言葉には、命懸けで刺客に挑む家臣と、殺される刺客。
 もしかしたら、私が知らない間に死んでしまう家臣。
 その命の重みを感じながら、それでも命令を口にできる自分がいます。
 余計な事は聞かなくても、慰撫の言葉はかけておくべきですね。

「コックス。
 その顔を見ると、休暇が休暇にならなかったのかもしれませんね。
 身体に不調があるのなら、遠慮せずに休んでください。
 コックスの御陰で、私は健康になれました。
 コックスがいなければ、未だに王都で寝込んでいた事でしょう。
 今度は私がコックスの為に役に立つときです。
 必要ならば、ムクをコックスに返しましょう」

「お気遣いありがとうございます。
 しかしながら、全ては私の不調法です。
 体調管理ができなかった私の責任です。
 御嬢様の御気持ちだけいただきます」

 他の戦闘侍女の手前、遠慮しているのでしょうか?
 それとも、何か心に思うことがあるのでしょうか?
 リリアンが何か言いたげですね。

「何かあるのですか、リリアン」
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