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第一章

コックス視点

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 リリアン殿から、ムクが何を騒いでいるか確認するように命じられました。
 リリアン殿は、私を騎士に任じて下さったシーモア公爵様から厚い信頼を受ける戦闘侍女隊長です。

 リリアン殿は、王妃になられる筈だったグレイス様を一番に仕えていらっしゃいます。
 私も数々の修羅場をくぐった冒険者ですが、一目で勝てないと分かりました。
 生存本能が激しく逆らうなと訴えるのです。
 魔犬と絆を結んだお陰なのか、そういう嗅覚が強いのです。
 その力のお陰で、今迄生き残ることができたのです。

 グレイス様が願い、リリアン殿が認めた事は、絶対に成し遂げないといけません。
 リリアン殿は、グレイス様の邪魔になると判断されたら、どれほど権力を持った高位高官であろうと、悪辣卑怯な手段を講じてでも排除されるはずです。

 本当ならリリアン殿のような人とは係わるべきではありません。
 ですがもう係わってしましました。
 ここで逃げたら、裏切り者として地の果てまで追いかけられるでしょう。
 グレイス様に忠誠を尽して役に立つことを証明するしかありません。
 それに、グレイス様は仕え甲斐のある御主君です。

 なんと言ってもグレイス様は魔犬と絆を結ばれました。
 獣や魔獣を力で従わせるのではなく、慈愛の心で絆を結ばれたのです。
 これほどの信用は他にはありません。
 信用信頼できるグレイス様の役に立つことができれば、リリアン殿を恐れる必要はないでしょう。

 ですが困った事に、リリアン殿の命令を果たすのが困難になりました。
 ムクを追跡していると、狼の群れが襲いかかってきたという声がしました。
 最悪なのは、ムクがその方向に向かっている事です。
 ムクは、狼の群れが接近するのを察知して迎撃に向かったのかもしれません。
 その場合は、私と私の魔犬が偵察しているのに狼の群れを見逃した事になります。

 リリアン殿の反応が怖いです。
 まあ、言い訳できない訳ではありません。
 ムクは、私が絆を結んだ魔犬三匹の中では一番優秀な魔犬でした。
 お嬢様に献上する以上、劣った魔犬を選択する訳にはいかなかったのです。
 だから私と私の魔犬が見逃した狼を、見つける事ができるのも当然なのです。

 それほど優秀な魔犬ですから、並みの狼に後れを取る事はありません。
 通常種の狼が、よくいる六頭程の群れで襲ってきても、簡単に喰い殺すでしょう。
 ですが、銀狼のような大型種が、傑出したリーダーに指揮されている場合は、四十頭を超える群れを率いている事があります。

 万が一そのような大きな群れが、強力なリーダーに統率されていたら?
 ムクであろうと手傷を負うかもしれません!
 万が一ムクが手傷を負えば、お嬢様も強い痛みに苛まれる事になります!
 その時のリリアン殿の反応と報復が何所に向かうのか?
 私は絶対に確かめたくないです!
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