上 下
8 / 111
第一章

7話

しおりを挟む
 リリアンの話は私の想像通りでした。
 マナーズ男爵家のスカーレット嬢が王太子殿下に近づいていました。
 哀しい事ですが、前世と同じ事が起こりそうです。
 私が前世と違って病弱なので、違う流れになるかと思いましたが、残念ながらスカーレット嬢に関しては同じでした。

「それで、殿下はどう思っていらっしゃるの」

「それが……」

「本当の事を聞かせて。
 私は婚約を辞退するのですから、殿下とスカーレット嬢が仲良くしていても気にすることはないのよ。
 大切な事は、スカーレット嬢の御人柄が殿下に相応しいかどうかなのよ」

「はい、分かりました。
 スカーレット嬢はとても魅力的な方のようで、殿下も魅かれておられるようです。
 スカーレット嬢の御人柄は、まだよくわかりません。
 直ぐに公爵家の全力をもって調べさせて頂きます」

 前世の私の乏しい知識では、スカーレット嬢が悪だとは断言できません。
 ですが私の知る限りでは、とても善とは言えません。
 それに、少なくとも、殿下には不幸でした。
 スカーレット嬢と結ばれる事で、早く亡くなられたのは確かです。

 殿下の御心に逆らう事になりますが、仲を裂かなければなりません。
 スカーレット嬢には悪いですが、殿下と結ばせるわけにはいかないのです。
 いえ、スカーレット嬢はともかく、後々民を虐げるマナーズ男爵の影響だけは、なくさないといけません。

「リリアン。
 スカーレット嬢の御人柄を徹底的に調べてください。
 それと、マナーズ男爵の事も、徹底的に調べてください。
 殿下の妃になるというのなら、実家の行状が特に大切になります」

「承りました。
 ですが御嬢様、男爵家が王太子殿下の妃を出すなど、不可能ではありませんか?」

 確かにリリアンの言う通りです。
 男爵家は貴族の中でも最下級です。
 長女であろうと、正室として嫁げるのは伯爵家までです。
 ですが私は、前世でその常識を覆した事を知っているのです。

「ええ、それは分かっているわ。
 でもね、恋とは常識では考えられない事を引き起こすものよ。
 だからね、下手に反対するよりは、最初から側妃や妾妃として迎えるように、祝福して差し上げた方がいいと思うのよ」

「左様でございましたか」

「私から王妃殿下に御手紙を書くわ。
 スカーレット嬢の事とマナーズ男爵の事、家だけではなくて、王家にも事前に調べて頂いておけば、問題が起きにくいと思うのよ。
 反対するにしても、条件付きで認めるにしても、殿下の御心が冷静なうちに、調べておくべきだと思うのよ」

「承りました。
 代筆させていただきます」
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

駄作ラノベのヒロインに転生したようです

きゃる
恋愛
 真面目な私がふしだらに――!? 『白銀の聖女』と呼ばれるシルヴィエラは、修道院の庭を掃除しながら何げなく呟いた。「はあ~。温かいお茶といちご大福がセットで欲しい」。その途端、彼女は前世の記憶を思い出す……だけでは済まず、ショックを受けて青ざめてしまう。 なぜならここは『聖女はロマンスがお好き』という、ライトノベルの世界だったから。絵だけが素晴らしく内容は駄作で、自分はその、最低ヒロインに生まれ変わっている! それは、ヒロインのシルヴィエラが気絶と嘘泣きを駆使して、男性を次々取り替えのし上がっていくストーリーだ。まったく面白くなかったため、主人公や作者への評価は最悪だった。 『腹黒女、節操なし、まれに見る駄作、聖女と言うより性女』ああ、思い出すのも嫌。 ラノベのような生き方はしたくないと、修道院を逃げ出したシルヴィエラは……? 一生懸命に生きるヒロインの、ドタバタコメディ。ゆる~く更新する予定です。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...