5 / 111
第一章
4話
しおりを挟む
私の願いを聞いたリリアンは、最初は頑として拒みました。
私はリリアンの眼をしっかりと見て、何度も真摯に話しました。
その度に拒んでいたリリアンも、最後には折れてくれました。
私が王太子殿下を愛しているからこそ、婚約を解消する為に殿下に相応しい婚約者候補を探す事を、渋々承諾してくれました。
何度も反論されました。
私こそが王太子殿下の妃に相応しいとリリアンは言ってくれますが、前世の結末を知っている私には、絶対にうなずけない事です。
だから病気と記憶喪失を理由に、正妃教育に耐えられないと話しました。
前世と今生の正妃教育を考えれば、間違った考えではありません。
それでもリリアンは、
「御病気が癒えるまで休めばすみます」
と言ってくれました。
だから私は言ったのです。
「このまま無理をすれば、私は死んでしまうわ。
リリアンは私が死んでもいいの?」
卑怯な一言だったと思います。
ですがそう言わないと、リリアンは引いてくれなかったでしょう。
だから言ってしまいました。
でも半分は本気でした。
今のこの身体で、前世と同じ正妃教育に耐えられるとは思いません。
記憶にある今生の正妃教育も、同じくらい厳しいモノです。
私の心からの叫びを聞いて、リリアンはハッとしていました。
そして直ぐに謝ってくれました。
「申し訳ありません。
御嬢様こそ王太子殿下の御妃に相応しいと思っておりますが、それは御嬢様が御元気で御幸せでいてくださってこそでございます。
御嬢様の心身に御負担をおかけするくらいでしたら、早々に婚約を解消した方が宜しいと思います」
そう謝ってくれたのです。
そして直ぐに私の願い通り、王太子殿下の妃候補に相応しい令嬢の調査に入ってくれました。
シーモア公爵家には、優秀な密偵が数多くいます。
父上も母上も、私の想いを汲み取ってくださいました。
ですが直ぐに王宮に婚約解消願いを出したわけではありませんでした。
シーモア公爵家はゴードン王家を護る藩屏です。
何事も次善の策を準備するまで動くわけには参りません。
私が王太子殿下の婚約を辞退するのなら、相応しい候補者を推挙すべきなのです。
そしてそれが、シーモア公爵家の影響力を次代に残す一つの策でもあるのです。
それに父上様と母上様には、一つの心配があったでしょう。
口には出しませんが、リリアンも心配していた事でしょう。
七日七晩も高熱で生死の淵を彷徨っていたのです。
私は子供を産めない身体になっているかもしれません。
王太子殿下の正妃となっても、子供を産めなければ立場がありません。
嫁いでも王子を産めなければ、国王陛下や王妃殿下から冷たい眼で見られることになります。
まして側妃が王子を産めば、私は王宮内で寂しく余生を過ごすことになります。
それくらいなら、シーモア公爵家に残してやった方が幸せかもしれない。
父上と母上は、私が頑強に婚約を解消したいと言うのを聞いて、そう想像しているはずです。
私はリリアンの眼をしっかりと見て、何度も真摯に話しました。
その度に拒んでいたリリアンも、最後には折れてくれました。
私が王太子殿下を愛しているからこそ、婚約を解消する為に殿下に相応しい婚約者候補を探す事を、渋々承諾してくれました。
何度も反論されました。
私こそが王太子殿下の妃に相応しいとリリアンは言ってくれますが、前世の結末を知っている私には、絶対にうなずけない事です。
だから病気と記憶喪失を理由に、正妃教育に耐えられないと話しました。
前世と今生の正妃教育を考えれば、間違った考えではありません。
それでもリリアンは、
「御病気が癒えるまで休めばすみます」
と言ってくれました。
だから私は言ったのです。
「このまま無理をすれば、私は死んでしまうわ。
リリアンは私が死んでもいいの?」
卑怯な一言だったと思います。
ですがそう言わないと、リリアンは引いてくれなかったでしょう。
だから言ってしまいました。
でも半分は本気でした。
今のこの身体で、前世と同じ正妃教育に耐えられるとは思いません。
記憶にある今生の正妃教育も、同じくらい厳しいモノです。
私の心からの叫びを聞いて、リリアンはハッとしていました。
そして直ぐに謝ってくれました。
「申し訳ありません。
御嬢様こそ王太子殿下の御妃に相応しいと思っておりますが、それは御嬢様が御元気で御幸せでいてくださってこそでございます。
御嬢様の心身に御負担をおかけするくらいでしたら、早々に婚約を解消した方が宜しいと思います」
そう謝ってくれたのです。
そして直ぐに私の願い通り、王太子殿下の妃候補に相応しい令嬢の調査に入ってくれました。
シーモア公爵家には、優秀な密偵が数多くいます。
父上も母上も、私の想いを汲み取ってくださいました。
ですが直ぐに王宮に婚約解消願いを出したわけではありませんでした。
シーモア公爵家はゴードン王家を護る藩屏です。
何事も次善の策を準備するまで動くわけには参りません。
私が王太子殿下の婚約を辞退するのなら、相応しい候補者を推挙すべきなのです。
そしてそれが、シーモア公爵家の影響力を次代に残す一つの策でもあるのです。
それに父上様と母上様には、一つの心配があったでしょう。
口には出しませんが、リリアンも心配していた事でしょう。
七日七晩も高熱で生死の淵を彷徨っていたのです。
私は子供を産めない身体になっているかもしれません。
王太子殿下の正妃となっても、子供を産めなければ立場がありません。
嫁いでも王子を産めなければ、国王陛下や王妃殿下から冷たい眼で見られることになります。
まして側妃が王子を産めば、私は王宮内で寂しく余生を過ごすことになります。
それくらいなら、シーモア公爵家に残してやった方が幸せかもしれない。
父上と母上は、私が頑強に婚約を解消したいと言うのを聞いて、そう想像しているはずです。
1
お気に入りに追加
852
あなたにおすすめの小説
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
駄作ラノベのヒロインに転生したようです
きゃる
恋愛
真面目な私がふしだらに――!?
『白銀の聖女』と呼ばれるシルヴィエラは、修道院の庭を掃除しながら何げなく呟いた。「はあ~。温かいお茶といちご大福がセットで欲しい」。その途端、彼女は前世の記憶を思い出す……だけでは済まず、ショックを受けて青ざめてしまう。
なぜならここは『聖女はロマンスがお好き』という、ライトノベルの世界だったから。絵だけが素晴らしく内容は駄作で、自分はその、最低ヒロインに生まれ変わっている!
それは、ヒロインのシルヴィエラが気絶と嘘泣きを駆使して、男性を次々取り替えのし上がっていくストーリーだ。まったく面白くなかったため、主人公や作者への評価は最悪だった。
『腹黒女、節操なし、まれに見る駄作、聖女と言うより性女』ああ、思い出すのも嫌。
ラノベのような生き方はしたくないと、修道院を逃げ出したシルヴィエラは……?
一生懸命に生きるヒロインの、ドタバタコメディ。ゆる~く更新する予定です。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ
悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。
残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。
そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。
だがーー
月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。
やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。
それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる