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第一章
第4話:本当に大切なモノ
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「なるほど、よく分かった。
ボスヴィルの考え方も、クリステルの心の声も理解した。
その上で二人に確かめておきたい事がある」
「「はい、父上」」
「まずボスヴィル、お前が一番大切にしているモノはなんだ」
「私が一番大切にしているのは貴族の誇りです」
「うむ、それはとても大切な事だな。
では重ねて聞く、その貴族の矜持とは、爵位の低い貴族の罠に自ら嵌りに行く事なのか、それとも勝つためには爵位の低い貴族に頭を下げることができるモノなのか」
「……自分は勝つためであってもバカン伯爵に頭は下げられません」
「勝つために頭を下げられないようでは公爵家の跡継ぎにはできないと言っても、考えを変える事はできないか」
「……できません、今嘘をついてしまって、後で公爵家を危機に陥らせることになってはいけませんので、考えを変える事はできないとしか言えません」
「そうか、分かった、それでは公爵家の私の後継者失格だ。
ボスヴィルには何か身を立てる方法を考えてやる」
「はい、申し訳ありません、父上。
ありがとうございます、父上」
「ではクリステル、お前が一番大切にしているモノはなんだ」
「私の一番大切にしている事は……」
(命よ、命というのよ、何よりも大切なモノは命なのよ。
地位や誇りも命があってこそよ。
地位や誇りも死んでしまったら何の意味もないのよ。
公爵令嬢でなくなっても命はなくならないわ。
命がなくなったら、公爵令嬢でもなくなるのよ。
ただの死体、骸になるだけなのよ、さあ、命だと言いなさい)
「父上、助けてください、父上、心の声が私を責めるのです。
兄上と同じように、貴族の誇り、公爵令嬢の誇りだと言いたいのです。
言いたいのに、心の声が言わせてくれないのです。
心の声が私を責め立てるのです。
私は何と答えればいいのですか。
私はどうすればいいのですか、教えてください、父上」
「うむ、ではクリステルの心の声が何と言っているか私の教えるのだ」
★★★★★★
「そうか、クリステルの心の声が一番正しいようだ。
何事も命があってこそだ。
恥を忍んでも生き延びるからこそ、逆転することができる。
最後の最後まであきらめないからこそ、戦で逆転できるのだ。
ボスヴィルもよく聞いておくのだぞ。
敵国の総大将が伯爵だからと言って、頭を下げれば罠に嵌めることができるのに、公爵の地位に拘って頭を下げず、謀略に失敗して国を滅ぼしたとしたら、それは王家王国を支えるべき公爵として正しい行いだろうか?
違うであろう。
王家を護る藩屛たる公爵家の人間ならば、相手が自分よりも地位の低い伯爵であろうと、頭を下げてでも罠に嵌めなければならぬ。
今回も同じだぞ、ボスヴィル、クリステル。
いや、もっと重大な危機に陥っているのかもしれないのだぞ。
バカン伯爵は娘を使ってブルードネル王太子殿下を籠絡した。
その下心は王国で我が家に成り代わって権力を振る事なのか、それとも後々王位を簒奪するためなのか、何も分かっていないのだ。
この状態でバカン伯爵の仕掛けに乗るわけにはいかん。
まずはバカン伯爵が何を企んでいるのか確かめるのだ。
王太子を操るバカン伯爵に我が家を攻撃する口実を与えない事だ。
分かったな」
「「はい、父上」」
ボスヴィルの考え方も、クリステルの心の声も理解した。
その上で二人に確かめておきたい事がある」
「「はい、父上」」
「まずボスヴィル、お前が一番大切にしているモノはなんだ」
「私が一番大切にしているのは貴族の誇りです」
「うむ、それはとても大切な事だな。
では重ねて聞く、その貴族の矜持とは、爵位の低い貴族の罠に自ら嵌りに行く事なのか、それとも勝つためには爵位の低い貴族に頭を下げることができるモノなのか」
「……自分は勝つためであってもバカン伯爵に頭は下げられません」
「勝つために頭を下げられないようでは公爵家の跡継ぎにはできないと言っても、考えを変える事はできないか」
「……できません、今嘘をついてしまって、後で公爵家を危機に陥らせることになってはいけませんので、考えを変える事はできないとしか言えません」
「そうか、分かった、それでは公爵家の私の後継者失格だ。
ボスヴィルには何か身を立てる方法を考えてやる」
「はい、申し訳ありません、父上。
ありがとうございます、父上」
「ではクリステル、お前が一番大切にしているモノはなんだ」
「私の一番大切にしている事は……」
(命よ、命というのよ、何よりも大切なモノは命なのよ。
地位や誇りも命があってこそよ。
地位や誇りも死んでしまったら何の意味もないのよ。
公爵令嬢でなくなっても命はなくならないわ。
命がなくなったら、公爵令嬢でもなくなるのよ。
ただの死体、骸になるだけなのよ、さあ、命だと言いなさい)
「父上、助けてください、父上、心の声が私を責めるのです。
兄上と同じように、貴族の誇り、公爵令嬢の誇りだと言いたいのです。
言いたいのに、心の声が言わせてくれないのです。
心の声が私を責め立てるのです。
私は何と答えればいいのですか。
私はどうすればいいのですか、教えてください、父上」
「うむ、ではクリステルの心の声が何と言っているか私の教えるのだ」
★★★★★★
「そうか、クリステルの心の声が一番正しいようだ。
何事も命があってこそだ。
恥を忍んでも生き延びるからこそ、逆転することができる。
最後の最後まであきらめないからこそ、戦で逆転できるのだ。
ボスヴィルもよく聞いておくのだぞ。
敵国の総大将が伯爵だからと言って、頭を下げれば罠に嵌めることができるのに、公爵の地位に拘って頭を下げず、謀略に失敗して国を滅ぼしたとしたら、それは王家王国を支えるべき公爵として正しい行いだろうか?
違うであろう。
王家を護る藩屛たる公爵家の人間ならば、相手が自分よりも地位の低い伯爵であろうと、頭を下げてでも罠に嵌めなければならぬ。
今回も同じだぞ、ボスヴィル、クリステル。
いや、もっと重大な危機に陥っているのかもしれないのだぞ。
バカン伯爵は娘を使ってブルードネル王太子殿下を籠絡した。
その下心は王国で我が家に成り代わって権力を振る事なのか、それとも後々王位を簒奪するためなのか、何も分かっていないのだ。
この状態でバカン伯爵の仕掛けに乗るわけにはいかん。
まずはバカン伯爵が何を企んでいるのか確かめるのだ。
王太子を操るバカン伯爵に我が家を攻撃する口実を与えない事だ。
分かったな」
「「はい、父上」」
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