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第1章

第32話:凍結高酒精ビールと凍結高酒精ワイン

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1年目冬

「村長、儂らも醸造酒を凍らせる方法を試すが、村長もこれまで造った酒で試してくれ、凍結させたら氷と酒精に分かれるか試してくれ」

 今回は何もかも後手に分回ってしまっている。
 誰よりも心配性なので、いつもは何でも前もって思いつく。
 今回はお酒を凍結させる事も、造った後で凍らせる事も思いつかなかった。

「分かった、直ぐにやってみる」

 俺は地下街に行って試したが、酒造妖精に手伝ってもらった。
 家事妖精から酒造妖精に転職した、酒造りに高いプライドを持つ妖精たちだ。
 そんな妖精たちに魔術で酒を凍らせてもらうのだ。

「凍らせる魔術を変える事はできるか?」

「どう変えるのですか?」

「凍らせる温度を0度からマイナス100度まで色々変えてくれ。
 凍らせる温度だけでなく、凍るまでの時間も変えてくれ」

「分かりました、美味しい酒を造るためなら何でもします」

 1番酒精の低いエールやラガーから試してもらった。
 エールもラガーも凍った。
 凍るのは水分だけで、アルコールは凍らなかった。

 エールやラガーの甘みや旨味が凝縮され、美味しい凍結酒になった。
 ただ、糖質だと思う成分が分離されてしまった。

 凍るまでの時間によって、白いふわふわとした綿状になる場合と、茶色いカスのようになる場合があった。

 もしかしたら糖質の違いによって変わるのかもしれない。
 試しに、氷になった水が溶けるまで待ってみた。
 綿状もカスも再エールやラガーに溶ける事はなかった。

「ヴァルタル、エールとラガーは、凍らせて酒精を強くできた。
 俺では正確な酒精を測れない、試飲してみてくれ」

「分かった、先に試飲はしたのだな、どんな味だった?」

「麦芽の味はしっかりと残っている。
 麦の甘みが良く分かって飲みやすいが、酒精はかなり強い。
 酒精の強い焼酎よりもはるかに酒精が強い。
 酒精の強いウオッカくらいだと思う。
 あ、ヴァルタルが造った非常識な酒精のウオッカは別にしてだぞ!」

「ほう、それは楽しみだな。
 あれは村長が話してくれたウオッカを再現したかっただけだ。
 そのまま飲んで美味しいウオッカを造るならあそこまではしない。
 おっ、本当に麦の甘さと麦芽の風味が際立っている!
 恐らくだが、酒精は60度よりも高いだろう。
 エールやラガーでは頼りなさ過ぎると思っていたが、これなら美味く飲める!」

「ああ、俺もこの方法で酒精の強い酒が造れるなら楽だと思った。
 妖精に魔術で凍らせてもらったが、冬場に醸造してからカマクラでゆっくり凍らせるだけで、極上の高酒精エールやラガーが造れる」

「そうか、今直ぐカマクラで造るのか?」

「ああ、酒造妖精が造ってくれるそうだ。
 俺は清酒で同じ事ができるか試してみる」

 俺はヴァルタルと別れて再び地下街に行った。
 カマクラで凍結麦酒を試作する酒造妖精以外の酒造妖精に、手伝ってもらった。
 もう何度も手伝ってもらっているので、サクサクとできた。

「上手く凍りませんね」

 酒造妖精が不思議そうに言う。
 彼女の言うように、俺が知っている凍結酒のように表面が氷にならない。
 シャーベットを溶かしたよう状態になるだけだ。

 シャーベット部分だけを取りのぞければ、凍結高酒精エールやラガーのように、蒸留する事なく高アルコール度数の清酒になる。

「この凍った水の部分だけを取り除いて、酒精の部分だけを残す事はできるか?」

「無理です、できません。
 そんな事ができたら、もっと前に酒精の強い酒が造れています」

「そうだな、その通りだな。
 そのまま清酒を使って凍らせる温度と凍らせる時間を変えてみてくれ」

「分かりました、試します」

 俺は半数の酒造妖精に清酒の実験を続けてもらった。
 残る半数の酒造妖精にブドウワインで凍結実験をする事にした。

 ワインの中でもブドウを選んだのは、1番多くの備蓄があったからだ。
 人間の世界で数多く出回っているのは、リンゴを使ったワイン、シードルだ。

 だが、貴重で高価だと思われているのはブドウのワインなので、この村に住んでいる者はリンゴワインよりもブドウワインを飲みたがる。
 だからリンゴワインの量は他の果物のワインよりも少ない。

「水を凍らせる事はできましたが、残った酒精が濁り過ぎです」

「そうだな、清酒ではこんな濁りはできなかったのだが、汚すぎるな」

「はい、どれほど酒精が強くても飲みたいとは思えません」

「だがこれは実験だ、試飲しない訳にはいかない」

「そうですね、試飲します」

 俺と酒造妖精は、凍らなかった赤ワインの酒精を試飲してみた。
 赤ワインの雑味が濃縮されてしまっていて、とても美味しいとは言えなかった。
 
 酒精は凍結高酒精エールや凍結高酒精ラガーと同じくらい強くなっていた。
 だが元の赤ワインにあったフレッシュな果実感がなくなっていた。
 香りや甘味は強くなっているが、その分酸味が弱くなっていた。

 それだけならいいのだが、渋味はもちろん、何とも言えない雑味がでている。
 それも元の赤ワインの方が美味しいと感じるくらい嫌な雑味だった。

「こんなに不味くしてしまうのは酒にも果物にも失礼だ!」

 俺は思わず強く口にしていた。

「はい、私も村長と同じ気持ちです」

「ヴァルタルに試飲させると怒るだろうが、試飲させるしかない。
 嫌な事はさっさと済ませるぞ」

「はい、私もその方が良いと思います」

「口直しに清酒を凍らせたものを忘れるな、あれはとんでもなく美味い!」
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