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3話

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「え~と、その~」

「どうか、どうか、どうかお許しください、アルテイシア嬢!
 騙したお金は帳消しにさせていただきます!
 この通り、侯爵家当主が地に頭をつけてわびさせていただきます。
 ですから、ですからお許しください!」

 王太子殿下も無茶過ぎます!
 直接交渉しろと言われても!
 貧乏子爵家の娘に、有力侯爵家当主と対等に渡り合う力なんかありません!
 こうして心では舌を出して嘲笑いながら、形だけ頭を下げられて終わりです。
 この程度のわびで、身を売ってでも家を護ろうとした私の想いは、踏みにじられて終わりです。

「この程度か?
 腹の中で舌を出して嘲笑い、形だけ頭を下げて終わりか?
 この期に及んでまだ私を騙せると馬鹿にしたのだな!
 衛兵!
 この場でこの糞野郎を殺せ!」

 あ!
 試されていたのはドロヘダ侯爵だったのですね!
 本当に反省しているのか、それともまだ叛意を隠しているのか、確かめられたのですね!

「ドロヘダ侯爵に味方する者は剣を抜いてかかってこい!
 余が直々の斬り殺してくれる!
 王家に忠誠を誓う者は、余に従ってドロヘダ侯爵を斬り殺せ!」

「ヒィィィィイ!」

 あ、本気です!
 今度は本気でドロヘダ侯爵が恐れています。
 先ほども恐れていると思っていましたが、今の表情と声を聴いて、先ほどまでが演技だったと今気がつきました。
 王太子殿下は、最初から演技だと気がつかれておられたのでしょうね。
 だから罠を張って追い込まれたのでしょうね。
 あの罠を仕掛けたことで、もう誰もドロヘダ侯爵を庇えなくなります。

 ドロヘダ侯爵が、一斉に襲い掛かった貴族たちにタコ殴りにされています。
 見る間に顔が腫れあがっています。
 あ、手足が変な方向に曲がっています。
 このまま殺されてしまうのではないでしょうか?

「アルテイシア嬢。
 話があるのだが、今いいだろうか?」

「はい、大丈夫でございます、リアム王太子殿下!」

「今回の件は偶然ではあるが、アルテイシア嬢のお陰で、王家に叛意を持つ者をあぶりだし、処罰することができた。
 お陰でドロヘダ侯爵家とソモンド伯爵家を取り潰し、その領地を私の台所領にすることができた。
 そこで偶然とはいえ協力してくれたアルテイシア嬢にお礼がしたい。
 ああ、最初に言っておこう。
 ドロヘダ侯爵に騙されて背負った借金は無効だ。
 あの件に協力した貴族士族も商人も取り潰す。
 そのうえで犯罪の賠償金は三倍返済が定法だ。
 その金はドロヘダ侯爵領を接収した余が払って遣わす」

 え?
 あの賠償金が無効なのですか!
 助かります!
 我が家の数十年分の年収に匹敵する賠償金がなくなります!

 え?
 あの賠償金の三倍のお金をいただけるのですか?!
 後で嘘だと言ったら恨みますよ。
 我が家の年収の百年分以上になるのではありませんか?

 え?
 他にも欲しいモノをくれるというのですか?
 何か裏があったりしません?
 変なお願いをしたら、眼をつけられるかもしれません。
 なにを欲しいと言えば、眼をつけられないすむでしょうか?
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