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第二章

第76話:幕間13

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「なあ一朗、日本に帰る前にもっと魔物討伐をしとかないか」

 槍の勇者本多勇星が剣の勇者真田一朗に思い切って話しかけた。
 彼としても自分の言動が終始一貫していない事は理解していた。
 最初に戦いたくないと言いだしたのが自分なのに、今更また戦いたいと言うのは、恥ずかしい事だと思っていた。
 だが、日本に帰ったら、もう2度と真剣で戦えないと思うと、無性に魔物を斃したい、生死の緊張の中で思いっきり戦いたいと思ってしまったのだ。

「分かった、だったらこの国を出るか?
 どうせ戦うのなら、強い魔物の方がいいだろう」

 実は真田一朗も同じ思いだった。
 竜族と懇意にしている猫屋敷さんからは、日本に帰るための魔術の研究の進捗状況が毎日のように届けられている。
 だから猫屋敷さんが、自分達に危険が及ばないように慎重に実験を繰り返している事も、もう直ぐ送還魔術が完成しそうなことも分かっていた。
 だからこそ、もう真剣を振るって戦えなくなる事に寂しさも感じはじめていた。

「男って本当に子供っぽくて乱暴ね。
 でもみなみもそれでいいわよ」

 治癒の勇者霧隠みなみはどちらでもよかった。
 女医を目指していた霧隠みなみにとって、治癒の勇者の能力は理想的だったが、竜族の使う治癒魔術と快復ポーションの能力の方が自分の能力を上回っているので、この世界や自分の能力に執着心が湧かなかったのだ。

「男っぽくて乱暴だと言われても、私ももっと戦いたいわ。
 一朗や勇星はまだいいじゃない、剣や槍なんだから。
 私は魔術なのよ、日本に戻ったらもう使えない魔術なのよ。
 あんなに爽快に敵を一瞬で斃せる魔術が、もう2度と使えなくなるのよ」

 魔術の勇者矢沢ゆりが少し悔しそうな表情で話した。
 確かに魔術を得意とする矢沢ゆりは、日本に帰ったらもう2度と異世界で戦ったようには戦えなくなる。
 だがそれは真田一朗や本多勇星も同じだった。
 2人にも範囲攻撃をする勇者魔術はあった。
 それが使えなくなるのは同じだったのだが、それを口にするほど一朗はバカではなかったのだが……

「おい、おい、おい、俺達だって範囲魔術が使えなくなるのは同じだぞ。
 それに武器に魔力を込めた、破壊力抜群で痛快な技も使えなくなるんだ。
 日本に戻って爽快な思いができなくなるのは同じだぜ」

「それでも勇星は日本に帰っても得意な槍を使えるじゃない。
 槍を振るって戦ったら多少は憂さ晴らしができるじゃない。
 私にはそれもないのよ」

「だったらゆりはこの世界に残れよ。
 この世界に残って魔術を使い続ければいいだろ」

「何ですって、よくそんな事が言えるわね、この薄情者」

「おい、もう止めろ。
 俺達が喧嘩するような事じゃないぞ。
 全部夢だと思うように猫屋敷さんに言われているだろ。
 こんな事を日本に帰って話しても誰も信じてくれないぞ。
 それどころか、おかしな連中に拉致されるかもしれないんだぞ。
 猫屋敷さんの忠告を絶対に忘れるんじゃない」
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