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第二章

第72話:人海戦術

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 俺とサクラ、それにアリステアが獲り配る食料はこの世界の大きな転機となった。
 魔物に殺される人数は変わらないが、少なくとも食料を求めて人間同士が殺し合う事だけは防げるようになった。
 農民としての生産も職人としての生産もしていない人間、特に竜に逆らって捕虜になった人間を労働力として活用した。

 荒地を耕して農地に変え、用水路を曳いて水田にできるようにもした。
 今までは耕作できなかった地も、ジャガイモなら栽培できた。
 連作は厳しいが、改良穀草式農法にすれば、ジャガイモ飢饉を心配せずに安心して食糧を生産することができる。
 補助的にアリステアが集めてくれた糞スライムと家禽を活用した、穀物に頼らない養鳥鳥卵の生産も成功しそうだった。

 食物を保存するための方法も覚えさせた。
 塩が大量にある前提なのだが、塩干法、梅干しやなれずしを教えた。
 俺の奥底にある記憶をアリステアが拾い出してくれたからこそやれた事だ。
 その知識にアリステアの英知を加え、魔術も複合させた保存食を開発した。
 人間の英知で下準備した食糧に魔術を加えて、100年以上保存できる栄養満点の兵糧を開発したのだ。

 魚介類を主食にする前提で、手元にある穀物は酒や味噌に加工した。
 この世界の食文化を進化させたいという理想と、自分が美味しいモノを食べたいという欲に、アリステアの底抜けの食欲が加わって、一気に進めてしまった。
 捕虜に技術を身につけさせたいという理想もあったが、基本は食欲の暴走だった。
 その暴走が数十の味噌と数百の酒を開発させた。
 酒に関しては全く興味がなかったのだが、アリステアを止める事ができなかった。
 あの野郎は、俺から得た知識を総動員して酒造りを進めやがったのだ。

 酒を大量に醸造する代わりに、世界中から多くのモノを集めさせた。
 北方、ヴァロア王国領、コンラディン王国領で効率よく栽培できる、穀物や野菜や果樹を集めてさせた。
 1番魔力を使ってもらったのは、海水を集めて塩を作る事だった。
 俺達がいなくなってもこの一帯が塩に困らないように、北方の山に莫大な量の岩塩を埋めておくことにしたからだ。
 必要になったら石炭や泥炭のように掘り出してくれればいい。

 全ては余剰人員を食わせる事ができるから可能になった事だ。
 どれほど英邁な者でも、食わせられない人間を抱える事はできない。
 自分が責任を持って養える人間以外は殺すか見捨てるかしかない。
 それは、個人なら家族だし、国王なら国民になる。
 それが嫌なら心を鬼にして他人から略奪するしかない。
 隣人や隣国に押し入って食料を奪うのだ。
 それが俺たちが狩るクジラ肉とサメ肉にクラーケンのお陰で解消されたのだ。

 海の食物連鎖を壊す気は毛頭ない。
 だからどの種族であろうと全滅させるような狩り方は絶対にしない。
 巨大なクジラとサメ、イカとタコを獲った分、彼らが食用にしていた魚介類を間引く意味でも、大中小の魚も獲った。
 更にはオキアミのようなプランクトンや、ワカメやコンブのような海草も集めた。
 効率が悪くても特定の種を滅亡せせるわけにはいかないのだ。
 やるべき事をやって、統治も任せられるようになったら、隠棲するのだ。
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