よい異世界召喚に巻き込まれましたが、殺された後でした。

克全

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第二章

第65話:幕間10

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「父王陛下、私は間違ってないですか。
 肉親の情に囚われて、不利な条約を結んでしまったのではないですか。
 教えてください、父王陛下」

 どれほど心を込めて何度話しかけても、毒に犯された父上は返事をしてくれない。
 父上だけでなく、母上も全く反応してくださらない。
 もうあきらめなければいけない事は分かっています。
 主治医も治癒術士も、見知らぬ毒は治せないと言っています。
 このままではあと半年の命だと言われています。
 表向きはともかく、内心では私も半ば諦めていました、昨日までは。

 昨日急に噂の飛竜が王城に直接やってきました。
 噂が本当ならば、無理無体な事は言ってこないだろうと期待していました。
 噂を信じ、飛竜の情に縋るなど、1国の責任者失格なのは分かっています。
 ですが今のこの国状況では、噂を信じ飛竜の情に縋るしかなかったのです。
 噂が嘘で、飛竜が非情なら、王家が滅ぶだけの事です。
 噂を信じ情に縋っても縋らなくても、結果は同じなのです。
 ならば情に縋って少しでも民が飢えから解放される道を選ぶしかありません。

 それなのに飛竜は、甘い考えをしていた私の条件以上に極甘な条件を、いえ、私の心を誘惑するような条件を提示してきたのです。
 私の心は千々に乱れてしまいました。
 命じられればこの身を飛竜に捧げ汚される覚悟までしていた私が、何も考えられなくなるくらい予想外の誘惑でした。

 飛竜の出した条件は、王家直轄領の通過許可だけでした。
 それ以上の条件は何1つありませんでした。
 私だけでなく、その場にいた家臣も信じられずに唖然としていました。
 それなのに、対価に与えられる条件が信じられないくらい好条件でした。
 なんと、父上と母上を完治させてくれると言うのです。
 医師も治癒術士も治せないと言い切った毒を、完全に癒すと言い切ったのです。

 私はその条件を受け入れてしまいました。
 最初に考えていた、民に対する食料支援と民の病を癒す中級快復薬の支援を願わずに、両親の治癒を優先してしまったのです。
 私はとても身勝手な人間です。
 国を背負って立つ資格などないのです。

 でも、本当に飛竜は約束を守ってくれるでしょうか。
 噂を信じれば、古代氷竜は身体の欠損すら癒す魔術を使えるそうです。
 それだけでなく、身体の欠損を完璧に癒す快復ポーションすら作ると聞きました。
 でも、それは古代氷竜のはなしです。
 飛竜が同じことをできるという者もいれば、できないと言う者もいます。
 できるとしても、領地を通過する権利だけで本当に使ってくれるでしょうか。

「殿下、摂政殿下。
 飛竜様の使者が城門前にやって来ております。
 本人はヴァロア王国の第4騎士団団長で、援軍の総大将で、ヴァロア王家から全権を預けられているとも言っております。
 本当にそのような者を城内に入れてもよろしいのでしょうか。
 聞いておられますか殿下、摂政殿下」
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