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第二章

第63話:侵攻

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「竜だ、竜が来たぞ、逃げろ、逃げるんだ」
「竜だ、竜が来たぞ、戦え、戦って竜を斃せ」
「うぁああああ、逃げろ、逃げるんだ」
「魔術だ、魔術士は何をしている」
「投げ槍だ、投げ槍を放て」
「きかねええ、何をやってもムダだ、逃げろ、逃げんるんだ」

 俺はリード伯爵エブリンの言葉に助けられて即日動いた。
 民を虐げるコンラディン王国の領主を襲った。
 俺が支配している領地に隣接する、悪逆非道な領主が治める地から襲った。
 飛竜なら遠く離れた領地でも攻撃するだけなら関係ないのだが、占領した後で必要になる穀物を確実に確保するためには、隣接する領地から攻撃する必要がある。

「エリアパーフェクトスリーパー」

 俺は敵対するモノだけでなく、全ての人間を睡魔に落とした。
 少々の事があっても絶対に起きないように、強力な睡眠魔術をかけた。
 妙齢の女性を眠らせると、将兵に乱暴されるのではないかという心配もあった。
 だが、リード伯爵が直卒する第4騎士団は女性騎士が多い。
 団長が女性だからだが、お陰で強姦の心配が少なかったのだ。

 まあ、女性騎士の目を盗んで悪さをしようとした人間は皆無ではない。
 だが、俺が監視していたから、何かする前に捕まえて吊るし上げしてやった。
 救国の竜に願いを踏みにじり、団長の厳命を無視し、国の、いや、国王の名誉と顔に泥を塗ったのだ。
 どれほど権力を持った大貴族の縁者でも、その運命は決まっている。

 俺達は破竹の勢いでコンラディン王国領を侵食していった。
 ヴァロア王国領に近い大小の貴族領だけでなく、王都に近い領地も占拠した。
 その無敵の侵攻に慌てた貴族の中には、使者を送ってくる者もいた。
 同盟を結んでコンラディン王国を分割しようなどというクズは、無視して捕虜にして、ヴァロア王国の法に従って売国奴として処分してくれた。
 ヴァロア王家に臣従したいという恥知らずも、不忠者として処分してくれた。
 リード伯爵に任せると、俺の心理的負担が凄く少なくて済んだ。

「飛竜様、このまま進むとコンラディン王家の直轄領に攻め込むことになりますが、どうなさいますか」

(迂回して恥知らずな貴族領に行く事はできないか)

「深い森を通過することができれば不可能ではありませんか、とても無理です。
 軍としての態勢が整わないので、人間や魔物の敵が現れた時に対処できません」

(俺としては、苦境にあっても民を護ろうとし続けている王家と戦うのは嫌だ。
 とても危険な事だと分かっているが、通過許可の交渉をして欲しい。
 ただリード伯爵にだけ危険な真似はさせない。
 リード伯爵に行ってもらう前に、俺が直接王城に乗り込んで事前交渉をする。
 それでどうだろうか)

「私のような卑小な存在に対して配慮していただき、ありがたき幸せでございます。
 どのような危険があろうと、飛竜様の聖道をお手伝いできるのなら本望です」
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