よい異世界召喚に巻き込まれましたが、殺された後でした。

克全

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第二章

第62話:睡眠魔術

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「戦いは我ら騎士や兵士にお任せください、飛竜様。
 これ以上飛竜様を人間の争いに煩わせたりはしません。
 どうか飛竜様は民を養いお導き下さい」

 俺が占拠したコンラディン王国領に援軍に来た部隊の代表、赤毛で大柄で筋肉質ながら、女性としてもとても魅力的なリード伯爵エブリンが、飛竜に憑依した俺に恭しく話しかけてくれる。
 そこまで言ってくれるのなら、俺もこれ以上逃げるわけにはいかない。
 俺はほんの少しだけ覚悟を決めた。

 自分の手を穢す事はできないが、人の手を借りてなら殺れる。
 本当に卑怯で汚い人間だと自分でも思う。
 だが、他に方法がないのも確かなのだ。
 急がなければコンラディン王国の民が殺され続けるのだ。
 俺が時間を浪費している間にも、民は魔物を誘導する囮にされ、魔物に殺される。
 家族や恋人を人質に取られ、無理矢理囮にされる人が殺され続けるのだ。

(リード伯爵、ならば俺も覚悟を決めよう。
 俺が逡巡している間にも多くの無辜の民が殺されてしまう。
 俺にはまだ人間を殺す覚悟はない。
 だが、睡眠魔術で敵を眠らせる事はできる。
 卑怯な事は重々承知しているが、俺が眠らせた敵を殺してくれるか。
 民を害するモノ達を殺してくれるか、リード伯爵)

 俺は覚悟を決めた卑怯な願いを心話で伝えた。

「飛竜様の苦悩と覚悟、確かに受け止めさせていただきました。
 飛竜様の想いを踏みにじらないように、敵を殺すことなく捕縛いたします。
 王侯貴族のしきたりで、捕虜とした者は身代金を取る事ができます。
 身代金を払ってもらえない者は、重労働で得た金で自らを解放できます。
 その前提で殺さず捕縛いたしますから、何の心配もなされないでください。
 ただ、裁判をしてあまりに悪事の酷いモノは、ヴァロア王国の法に従って公正公平に罰を与えますので、それは飛竜様の責任ではありません」

 リード伯爵が俺の事を思って大きな譲歩をしてくれた。
 大量の難民は俺が養うからヴァロア王国の負担にはならないが、捕虜はヴァロア王国が食料を与えなければいけない。
 後々身代金を取る予定だとはいっても、本当に支払われるか分からないのに。

 それに、どれほど金銀財宝を手に入れても、購入する食料がなければ宝の持ち腐れで、何の役にも立たない。
 実際にはアリステアから食料を供与してもらう心算であろうが、大変な覚悟だ。
 それに、全権を預けられたリード伯爵とはいえ、あまりに王の方針から逸脱した事はやれないのに、王よりも俺に配慮してくれているように思う。

(分かった、そこまで覚悟をしてくれるのなら、俺も戦い以外の協力をしよう。
 これまで通り難民と援軍に食料を提供するだけでなく、捕虜になった王侯貴族と将兵の食料も提供する。
 これまでのようにサメや魚だけでなく、アリステア様に頼んで肉も用意してもらうから、好きな物を好きなだけ食べてくれ)

 見え透いた嘘だと見抜かれているかもしれないが、アリステアと飛竜は直接的には関係ないという前提にしている。
 飛竜が所属している属性竜や亜竜のグループと古代氷竜アリステアは、交流はあるものの別グループとしているのだ。
 だからクジラ肉はアリステアが配る食料で、サメ肉は飛竜が配る食料にしているのだが、騙されてはくれないだろうな。

「ありがたき幸せでございます、飛竜様」
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