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第二章

第55話:勘違い

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 俺は飛竜の屍に憑依すると、空を飛んで目的地に向かった。
 古代氷竜アリステアが人間の身体を見守ってくれているので何の心配もない。
 問題があるとすれば、俺が高所恐怖症だという事だけだ。
 早く目的の貴族領に行かなければいけないので、しかたなく飛竜の屍を選んだが、高く飛ぶのが怖いので、地上すれすれを移動するしかなかった。
 
 超高速移動ほど早くはないが、早馬とは比較にならないくらい高速で移動することができるので、真田君達が我慢の限界を超える前に現場に着くことができた。
 俺が現場で最初にやった事は、魔物をぶち殺す事だった。
 問題になっている貴族など何時でも殺すことができる。
 貴族を殺している間に、民が魔物に殺されてしまう方が大問題だからだ。

 俺が直接魔物と戦うのはこれが初めてだった。
 多少は心理的に抵抗があるかと思ったが、全く問題なく斃せた。
 俺の竜体が気に食わないのか、ワラワラ集まってくる魔物をひたすら叩き潰した。
 咬み殺すのは心理的に気持ち悪かったので、身体に比べれば比較的小さく短い両腕だけで斃した。

 だが両腕だけでは無数に集まってくる魔物に対処しきれず、人間の身体の時には使った事のない、尻尾も使って魔物をぶち殺すことにした。
 最初はぎこちない使い方だったが、何度も使っているうちに徐々に慣れて来て、両腕よりもはるかに多くの魔物を1度にぶち殺せるようになった。
 腕は竜体によじ登ってくる魔物にだけ使うようにして、尻尾で薙ぎ払い、両足で踏み潰す方が効率的だと分かったのは、2時間ほど魔物を殺し続けた後だった。

 結局、目的地周辺の魔物をあらかた殺すのに半日もかかってしまった。
 命の危険を感じるような事は全くなかったが、竜体に無数の魔物が這い上ってくるのは、虫唾が走るくらい気持ちが悪かった。
 頭だけで分かっていた真田君達の苦労が、僅かだが本当に分かった気がした。
 1度手助けするのも2度手助けするのも、そう変わりがないと思うので、これからは定期的に魔物潰しをしてあげる心算だが、先にやらなければいけない事がある。

 俺は魔物を斃してからこの地の領主がいる城を襲った。
 色々考えたのだが、何も言わずにひたすら城を壊した。
 下手に話すと古代氷竜アリステアとの関係や、ヴァロア王国との関係を疑われてしまうかもしれないので、何も言わずに壊しまくった。
 中心にある城を半分壊したころに、領主と家臣達が逃げだした。

 俺は結局ヘタレで、人間を殺すことができなかった。
 見えない所から遠距離魔術を放てば殺せたかもしれないが、竜に憑依しているとはいえ、手足で直接人間を殺すのは心理的に抵抗感が強すぎた。
 そこまではよかったのだが、問題は領民だった。

「おお、古代氷竜アリステア様じゃ。
 古代氷竜アリステア様が私達を哀れに想い助けに来て下れたぞ」
「ありがとうございます、アリステア様」
「私達も北の楽園にお連れください」
「子供達が腹を空かせております、どうか食べ物をお恵み下さい」

 こんな小さい身体の飛竜なのに、アリステアと勘違いしている。
 これはどうすればいいのだろうか…… 
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