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第一章

第32話:幕間3

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 古代氷竜アリステアは激怒していた。
 自分が民に与えた食料と塩が原因で、大恩人に迷惑をかけてしまった。
 何としてもその責任を取らなければ、古代氷竜の誇りが地に落ちる。
 それに、アリステアにはどうしても食べたい物があったのだ。
 ネコヤシキ殿が口を滑らせたすき焼きや西京焼きと言う料理。
 それを食べるためには、ネコヤシキ殿の嫌われるわけにはいかないのだ。

「我の与えた食料と塩を独占して悪事を働いた奴は誰だ。
 絶対に許さぬ、呪いをかけてナメクジにしてくれる。
 よく覚えておけ、醜く下劣なモノ共よ。
 我の与える食料と塩には、今後全て呪いをかけておく。
 悪しきモノは近づいただけでナメクジに変化すると覚えておけ!」

 アリステアは王家直轄領に近い1番大きな貴族領、伯爵領にいた。
 この地からネコヤシキ領に逃げてきた民が1番多かったからだ。
 伯爵の城館の真上に占拠した古代氷竜は、恐怖と畏怖を振りまいていた。
 アリステアがそのまま地に降りるだけで、城は圧し潰され、伯爵以下の一族家臣使用人は皆殺しになるだろう。

 いや、それだけの恐怖ではなかった。
 伯爵の影に隠れて極悪商人と結託し、領民の生き血を啜っていたモノ。
 伯爵の叔父にあたるモノが皆の前で巨大ナメクジに変化した。
 叔父だけではなく、悪事に協力したり悪事を見逃していた者も、伯爵一族家臣商人に関係なく、一斉にナメクジに変化したのだ。

「エリアウィンドウ」

 アリステアが1番弱い風魔法をナメクジ達に向かって放った。
 だが単なる風の攻撃ではなく。
 この攻撃には微量に塩を含まぜてあったのだ。
 悪人達はナメクジとなった身体を徐々に溶かされた。
 身体が溶かされる激烈な痛みに苛まれ、その場でのたうち苦しむことになる。
 
「領主、よく聞け。
 もしもう1度我の与えたモノで悪事を働けば、お前たちだけでは済まさぬ。
 この国の王侯貴族全てをナメクジにしてやるから覚悟しておけ」

 伯爵は恐怖のあまり卒倒してしまった。
 
「民にも言っておく、我の守護する北方に来るな。
 我が護るのは、元から北方に住む民だけだ。
 だが、その方どもを見捨てはせぬ。
 食料と塩を与えるから、それを南の国に売ってこい。
 売値は我が決めた値段で売るのだ。
 値段を変える事は絶対に許さん。
 その代わり、腹が減ったら肉も脂も塩も食べてよい。
 争うことなく同じ値で売るのだぞ」

 古代氷竜アリステアはそう言い残すと北へ帰って行った。
 激怒したアリステアではあったが、理性を失ってはいなかった。
 ネコヤシキを怒らさないように、よく考えていた。
 魂を融合させた時に、ネコヤシキの性格を理解していた。
 更に異世界の知識も手に入れていた。
 ネコヤシキだけが古代氷竜の知識を手に入れたわけではなかったのだ。

 アリステアはネコヤシキの知識から、委託販売制度や置き薬制度を学んでいた。
 代価を貰う事なく民に肉と脂と塩を貸し与え、それを民が運び販売する。
 売価の中から代価を支払い、残りが民の手に残る制度を取り入れたのだ。
 魔物と冷害で食糧不足となり、大陸中で食料がとても高価なっている。
 内陸部の国々では塩まで高価になっている。
 こんな状態なら、競争で売価が値崩れしない限り、委託販売を任された民は十分な利益を手に入れられるはずだった。
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