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第一章
第11話:幕間1
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王宮の最奥に建国王アーサーが重要な執務を行う部屋がある。
絶対に外敵の侵入を許さないようにして、王太子と一緒にこの国の先行きを決めるために設けられた部屋だ。
「国王陛下、このままでは民に餓死者が出てしまいます」
苦しそうな表情をした王太子が建国王に話しかけている。
「そうか、備蓄している兵糧を民に配るしかないな」
建国王も苦しげな表情を浮かべながら答えた。
「しかし陛下、それでは将兵の食事を減らす事になります。
将兵には命懸けの戦いをさせています。
中にはその食事が最後の食事になる者もいるのです。
食事だけは美味しいモノを腹一杯食べさせてやらねばなりません」
王太子の言う事はもっともな事だった。
「それは分かっている、分かっているが、民を餓死させるわけにはいかない。
我らが民のために戦っているという、理想の問題だけではない。
勇者殿達が、民を飢えさせる我らをどんな目で見るかという事も考えなければならんのだ、我が愛する息子よ」
建国王が跡継ぎになる王太子に、包み隠すことなく本音を口にした。
「申し訳ありません、父王陛下。
勇者殿達の事を失念しておりました。
これからは勇者殿達の目も計算に入れるようにいたします」
王太子は心から反省して頭を下げていた。
偉大な建国王である父の力になりたい。
老齢となった父の負担を少しでも軽くしたい。
もう中年となっている王太子の、偽りのない気持ちだった。
戦いに関しては、13歳で初陣を飾ってからずっと父を助けて戦ってきた。
だから戦闘や戦術に関しては、十分父王の助けになれると王太子も自負していたが、国を治める政治に関してはまだ手助けできていないと反省していた。
「勇者殿達は、とても心の優しい方々だ。
恐らく全く縁も所縁もない巻き込まれただけの同郷人のために、我らと交渉されたし、我らのためにも命懸けで戦ってくださっている」
建国王は異世界から召喚した勇者達の事情と性格をほぼ見抜いていた。
「はい、まだ弱い魔物としか戦っていただいていませんが、一緒に戦う騎士や兵士のために惜しみなく魔術を使ってくださているとサイモンから報告を受けています。
わずかな戦いで、驚くほど早くレベルが上がっているとも聞いております」
王太子は少し安心するような話し方になっていた。
「だからこそ、そんな勇者殿達に、民を虐げる国だと思われるわけにはいかぬ。
そんな風に思われたら、手助けしていただけないかもしれない。
新たな王になりたいモノに唆されるかもしれないのだ。
そんな事になったら、魔物の被害だけでなく内戦まで始まってしまう。
それに、亡き王妃なら絶対に民を飢えさせたりはしないからな」
建国王が愛する妻を思い出しながら哀し気な口調で話した。
「……はい、母上なら絶対に民を飢えさせませんでした」
王太子も同じように母を思い出して哀しそうな口調になっていた。
「だが、だからと言って、将兵を飢えさえるわけにはいかない事も分かっているから、国宝を売りに出してでも食糧を輸入するのだ。
民に配る食糧も、将兵が十分食べられる量を残したうえでの話だ。
難しい計算になるが、そうするしかないのだよ」
「はい、何とか食糧を掻き集めます」
「将兵には今まで以上の負担をかけることになるが、狩りをしてもらう。
少しでも多くの肉を自給してもらうのだ」
「分かりました。
各兵団の団長に、魔物討伐と狩りの日程調整を命じます」
「……民にも、狩りを奨励してくれ。
厳しい事情を隠すことなく伝え、少しでも作物を作るように伝えるのだ」
「承りました、父王陛下」
絶対に外敵の侵入を許さないようにして、王太子と一緒にこの国の先行きを決めるために設けられた部屋だ。
「国王陛下、このままでは民に餓死者が出てしまいます」
苦しそうな表情をした王太子が建国王に話しかけている。
「そうか、備蓄している兵糧を民に配るしかないな」
建国王も苦しげな表情を浮かべながら答えた。
「しかし陛下、それでは将兵の食事を減らす事になります。
将兵には命懸けの戦いをさせています。
中にはその食事が最後の食事になる者もいるのです。
食事だけは美味しいモノを腹一杯食べさせてやらねばなりません」
王太子の言う事はもっともな事だった。
「それは分かっている、分かっているが、民を餓死させるわけにはいかない。
我らが民のために戦っているという、理想の問題だけではない。
勇者殿達が、民を飢えさせる我らをどんな目で見るかという事も考えなければならんのだ、我が愛する息子よ」
建国王が跡継ぎになる王太子に、包み隠すことなく本音を口にした。
「申し訳ありません、父王陛下。
勇者殿達の事を失念しておりました。
これからは勇者殿達の目も計算に入れるようにいたします」
王太子は心から反省して頭を下げていた。
偉大な建国王である父の力になりたい。
老齢となった父の負担を少しでも軽くしたい。
もう中年となっている王太子の、偽りのない気持ちだった。
戦いに関しては、13歳で初陣を飾ってからずっと父を助けて戦ってきた。
だから戦闘や戦術に関しては、十分父王の助けになれると王太子も自負していたが、国を治める政治に関してはまだ手助けできていないと反省していた。
「勇者殿達は、とても心の優しい方々だ。
恐らく全く縁も所縁もない巻き込まれただけの同郷人のために、我らと交渉されたし、我らのためにも命懸けで戦ってくださっている」
建国王は異世界から召喚した勇者達の事情と性格をほぼ見抜いていた。
「はい、まだ弱い魔物としか戦っていただいていませんが、一緒に戦う騎士や兵士のために惜しみなく魔術を使ってくださているとサイモンから報告を受けています。
わずかな戦いで、驚くほど早くレベルが上がっているとも聞いております」
王太子は少し安心するような話し方になっていた。
「だからこそ、そんな勇者殿達に、民を虐げる国だと思われるわけにはいかぬ。
そんな風に思われたら、手助けしていただけないかもしれない。
新たな王になりたいモノに唆されるかもしれないのだ。
そんな事になったら、魔物の被害だけでなく内戦まで始まってしまう。
それに、亡き王妃なら絶対に民を飢えさせたりはしないからな」
建国王が愛する妻を思い出しながら哀し気な口調で話した。
「……はい、母上なら絶対に民を飢えさせませんでした」
王太子も同じように母を思い出して哀しそうな口調になっていた。
「だが、だからと言って、将兵を飢えさえるわけにはいかない事も分かっているから、国宝を売りに出してでも食糧を輸入するのだ。
民に配る食糧も、将兵が十分食べられる量を残したうえでの話だ。
難しい計算になるが、そうするしかないのだよ」
「はい、何とか食糧を掻き集めます」
「将兵には今まで以上の負担をかけることになるが、狩りをしてもらう。
少しでも多くの肉を自給してもらうのだ」
「分かりました。
各兵団の団長に、魔物討伐と狩りの日程調整を命じます」
「……民にも、狩りを奨励してくれ。
厳しい事情を隠すことなく伝え、少しでも作物を作るように伝えるのだ」
「承りました、父王陛下」
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