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第一章

第1話:愛する妹よ

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 今日は大切な妹、ターニャの婚約披露パーティーだ。
 ターニャは俺のような無骨で醜い姿とは似ても似つかない、華奢で美しい娘だ。
 その美しさには、王太子殿下も夢中になってしまった。
 多くの名門貴族が、娘を王妃にしようと画策しようとも、王太子殿下のターニャへの気持ちは揺るがなかった。

 多くの貴族令嬢が、身体を張って王太子を誘惑しようとしたが、そんな下劣な行為に心動かす王太子殿下ではない。
 俺の敵ではないが、王国では指折りの剣士なのだ。
 剣の強さと同じように心も強く、下劣な誘惑に負けたりはしない。
 もっとも、俺と違って地位と名誉と美貌を兼ね備えた王太子殿下だから、未亡人の貴婦人や政略結婚の貴婦人とは、結構浮名を流していた。

 まあ、王太子殿下ともあろう者が、結婚まで女性経験がないなどありえない事だ。
 俺のような醜い男でも、それなりに経験はあるのだ。
 それに、ある程度女性経験がなければ、乙女の妹を傷つけてしまうかもしれないし、思わぬ恥をかいてしまうかもしれない。
 王太子殿下ともあろう者が、正室相手に寝室で恥をかくわけにはいかない。

 それしても、主役である王太子殿下とターニャはどこに行ってしまったのだ?
 王国の特使としてザリフト皇室に赴任してから一年、今日急いで帰って来たから、まだ王太子殿下にもお会いできていないのだ。
 それどころか、妹のターニャにすら会えていない。
 これでは、せっかく勅命を出して帰国させて下さった、ダネルレ皇帝陛下の温情を無にしてしまうではないか。

 ダネルレ皇帝陛下は、父も母も大魔境の暴走に備えるために領地を離れられず、ターニャ一人で婚約披露パーティーに出なければいけない事を耳にされ、特別のはからいで俺を帰国させてくださったのだ。
 少しでも早くターニャに顔を見せて、安心させてやらなければいけない。
 王太子殿下との婚約披露など、一世一代の出来事で、とても緊張しているはずだ。
 こんな醜い顔でも、ターニャの心を落ち着けてやるくらいはできる。

 それにしても、どういうことなのだ?
 どの貴族も俺の顔を見て幽霊でも見たような表情をしやがる。
 確かに常に警戒をしていた皇国に派遣されたが、意外と皇国人にはいい奴が多く、日常生活でも社交界でも争いごとになる事はなかった。
 今回だって、普通は母国の命令がなければ帰国が許されないのに、特別待遇をしてもらって帰国できたのだ。

「ああ、すまない、私の妹、ターニャがどこにいるか知らないかな?」

「ひっいいいい、許して、許して、殺さないで!」
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