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第一章
第44話:魔王は誰だ
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ロマンシア王国暦215年8月25日:ポンポニウス王国との国境線
「殿下、閣下、マルティクスが魔王を召喚しました!」
ポンポニウス王国に潜入していた密偵が息を切らせて報告に来た。
彼は任地から転移魔術を使って逃げてきたのだ。
「マルティクスだと?
奴は高位魔族を召喚した変化したと報告を受けている。
高位魔族を身に宿らせた上に、魔王まで身に纏ったと言う事なのか?」
マリア大公は何も言わないようにしていた。
全てをロレンツォに任せていた。
密偵達が逃げてこられたのも、ロレンツォが個人用の転移魔法図を密偵1人1人に配って回ったからだ。
このような状態でうかつな事を口にしたら、信頼を失ってしまう。
またポツポツ出ている甘えが、何がなく口にしてしまった言葉の中に、出てしまってはいけない。
余計な事を言うよりも、上段でドンと構えていてください。
そうロレンツォに諫言されたからだ。
「いえ、そうではありません。
高位魔族は、王都防衛のために出てきたポンポニウス王国軍を、何か特殊な魔法陣を使って壊滅させていました。
その瞬間、フードを被っていた者が顔を表して高笑いしたのです。
ポンポニウス王国だけでなく、ロマンシア王国、殿下、閣下の事まで悪し様に罵り、必ず復讐すると名乗りを上げたのでございます」
「我が国で高位魔族を召喚憑依させたのは影武者だったのか?
それとも、魔王を召喚憑依させた奴が影武者なのか?
まさか、両方とも影武者という事はないだろうが……」
「閣下、敵はポンポニウス王国の王都まで蹂躙する気でございます。
ポンポニウス王国の民を生贄にして力をつけ、その後で殿下や閣下を殺すと公言しておりました。
一刻も早く滅ぼすべきだと愚考いたします」
「いや、敵がどれだけ強くなろうと関係ない。
近隣諸国に侵攻の口実を与えてしまったら、国境の民が殺されてしまう。
それよりは、魔王をここで迎え討つ方が、我が国の犠牲者は少ない」
マリア大公は思わず口出ししそうになったが、グッと我慢した。
他国の民の命を救うために、自国の民を殺すのか!
そう叱責されたばかりだったからだ。
結局ロレンツォの方針通り、国境の軍城で敵を待ち受ける事になった。
だが、敵が来るまで何もしなかったわけではない。
自重を放棄して使いだした転移魔法陣と転移魔法図を使って、近隣諸国にマルティクスと邪法集団による魔王召喚を通告したのだ。
更に自分達の通告だけでは信用度が低いと、ポンポニウス王国の王都にいる各国の大使や密偵まで転移で運び、魔王召喚が実際に行われたと報告させたのだ。
魔王と上位魔族1魔は、僅か4日でポンポニウス王国の主要都市を壊滅させた。
魔法陣を使って人々を殺し、魔王の力に変えていた。
そんな魔王が満を持してマリア大公とロレンツォを殺しにやってきたのだ。
「魔王や魔族を身に宿らせるとは、何と愚かな事でしょう。
そのような考えだから、国を滅ぼすような愚行を繰り返すのです」
魔王の前に立ちはだかったマリア大公が、舌鋒鋭くマルティクスを批判する。
「愚かはお前だ、矮小な人間の雌よ。
魔王が人間に支配されるはずがないだろう。
人間の身に宿ったのではなく、人間の身を奪ったのだ。
我だけではない、偉大な魔族は矮小な人間に支配されたりはしない」
「そうですか、マルティクスも邪法集団も愚かだったのですね。
1つ聞かせてください。
2人ともマルティクスを名乗っていましたが、どちらが本物なのです」
「ふん、人間の頼みなど聞かぬ。
矮小な人間の記憶など絶対に読まぬ。
これ以上話す気はない、死ね」
魔王はそう言うなり強大な魔力の塊を放ってきた。
魔法陣で命を奪って自分の力にするのではなく、マリア大公を滅ぼそうとした。
マリア大公の態度と口上に何か危険を感じたのだろう。
それは正解だった。
ロレンツォは魔王が使った魔法陣を解析し終わっていた。
魔王の魔法陣を逆手にとって、破魔聖光魔術を送り込む準備をしていた。
ギャキィン!
魔王が放った魔力の塊がはじき返された!
ロレンツォはあらゆる可能性を考えて対抗策を準備していた。
その1つに魔力反射の魔術があった。
ただ、単なる魔力反射魔術ではない。
普通の魔力反射魔術では、魔王の強大な魔力を弾けずに圧し潰される。
また、呪いや邪気が加わっているから、弾く事ができても死ぬ。
ロレンツォがダンジョンの奥深くで手に入れた、先史魔術文明時代の魔導書を参考に、聖魔術と前世の知識と創造力を総動員して創り出した新魔術だった。
ギャアアアアア!
魔王の断末魔だった。
このままでも魔王を滅する事ができる。
だが、魔力反射魔術だけで魔王を斃しては地味すぎる。
それではマリア大公を世界の救世主にするには押しが弱い。
「世界を滅ぼす魔王は絶対に倒さなければいけません。
神々から授かった聖なる大魔術で髪1本、爪1つ残さずに滅ぼして差し上げます。
破魔聖光二重陣」
ギャアアアアア!
魔王と上位魔族の2魔を捕らえるほどの巨大魔法陣が浮かんだ。
地面と天空にある2つの魔法陣で魔王と上位魔族を捕らえる。
周囲に眩いばかりの光を放って、魔王と上位魔族を浄化していく。
浄化の光は、この場だけでなく南北両大陸にまで広がった。
特に近隣諸国では目を開けていられないくらいの眩さだった。
何か尋常ではない事が起きていると、誰にでも分かる異常事態だった。
「お見事でした、殿下。
このままポンポニウス王国に侵攻して民を救いましょう」
「宰相?!」
「放置してしまうと、欲にまみれた近隣諸国の草刈り場になってしまいます。
民が奴隷にされてしまいます。
今なら我が国に逆らう者はいません。
治めるべき王や領主がいる地に侵攻していただくわけではなりません。
国、貴族、盗賊に蹂躙される無主の地を治めて、民を救っていただきたいのです」
「…‥最初からここまで考えていたのですね?」
「殿下の宰相でございますから、殿下の名声を高めつつ、民が安寧に暮らせるように、常に考えております」
「殿下、閣下、マルティクスが魔王を召喚しました!」
ポンポニウス王国に潜入していた密偵が息を切らせて報告に来た。
彼は任地から転移魔術を使って逃げてきたのだ。
「マルティクスだと?
奴は高位魔族を召喚した変化したと報告を受けている。
高位魔族を身に宿らせた上に、魔王まで身に纏ったと言う事なのか?」
マリア大公は何も言わないようにしていた。
全てをロレンツォに任せていた。
密偵達が逃げてこられたのも、ロレンツォが個人用の転移魔法図を密偵1人1人に配って回ったからだ。
このような状態でうかつな事を口にしたら、信頼を失ってしまう。
またポツポツ出ている甘えが、何がなく口にしてしまった言葉の中に、出てしまってはいけない。
余計な事を言うよりも、上段でドンと構えていてください。
そうロレンツォに諫言されたからだ。
「いえ、そうではありません。
高位魔族は、王都防衛のために出てきたポンポニウス王国軍を、何か特殊な魔法陣を使って壊滅させていました。
その瞬間、フードを被っていた者が顔を表して高笑いしたのです。
ポンポニウス王国だけでなく、ロマンシア王国、殿下、閣下の事まで悪し様に罵り、必ず復讐すると名乗りを上げたのでございます」
「我が国で高位魔族を召喚憑依させたのは影武者だったのか?
それとも、魔王を召喚憑依させた奴が影武者なのか?
まさか、両方とも影武者という事はないだろうが……」
「閣下、敵はポンポニウス王国の王都まで蹂躙する気でございます。
ポンポニウス王国の民を生贄にして力をつけ、その後で殿下や閣下を殺すと公言しておりました。
一刻も早く滅ぼすべきだと愚考いたします」
「いや、敵がどれだけ強くなろうと関係ない。
近隣諸国に侵攻の口実を与えてしまったら、国境の民が殺されてしまう。
それよりは、魔王をここで迎え討つ方が、我が国の犠牲者は少ない」
マリア大公は思わず口出ししそうになったが、グッと我慢した。
他国の民の命を救うために、自国の民を殺すのか!
そう叱責されたばかりだったからだ。
結局ロレンツォの方針通り、国境の軍城で敵を待ち受ける事になった。
だが、敵が来るまで何もしなかったわけではない。
自重を放棄して使いだした転移魔法陣と転移魔法図を使って、近隣諸国にマルティクスと邪法集団による魔王召喚を通告したのだ。
更に自分達の通告だけでは信用度が低いと、ポンポニウス王国の王都にいる各国の大使や密偵まで転移で運び、魔王召喚が実際に行われたと報告させたのだ。
魔王と上位魔族1魔は、僅か4日でポンポニウス王国の主要都市を壊滅させた。
魔法陣を使って人々を殺し、魔王の力に変えていた。
そんな魔王が満を持してマリア大公とロレンツォを殺しにやってきたのだ。
「魔王や魔族を身に宿らせるとは、何と愚かな事でしょう。
そのような考えだから、国を滅ぼすような愚行を繰り返すのです」
魔王の前に立ちはだかったマリア大公が、舌鋒鋭くマルティクスを批判する。
「愚かはお前だ、矮小な人間の雌よ。
魔王が人間に支配されるはずがないだろう。
人間の身に宿ったのではなく、人間の身を奪ったのだ。
我だけではない、偉大な魔族は矮小な人間に支配されたりはしない」
「そうですか、マルティクスも邪法集団も愚かだったのですね。
1つ聞かせてください。
2人ともマルティクスを名乗っていましたが、どちらが本物なのです」
「ふん、人間の頼みなど聞かぬ。
矮小な人間の記憶など絶対に読まぬ。
これ以上話す気はない、死ね」
魔王はそう言うなり強大な魔力の塊を放ってきた。
魔法陣で命を奪って自分の力にするのではなく、マリア大公を滅ぼそうとした。
マリア大公の態度と口上に何か危険を感じたのだろう。
それは正解だった。
ロレンツォは魔王が使った魔法陣を解析し終わっていた。
魔王の魔法陣を逆手にとって、破魔聖光魔術を送り込む準備をしていた。
ギャキィン!
魔王が放った魔力の塊がはじき返された!
ロレンツォはあらゆる可能性を考えて対抗策を準備していた。
その1つに魔力反射の魔術があった。
ただ、単なる魔力反射魔術ではない。
普通の魔力反射魔術では、魔王の強大な魔力を弾けずに圧し潰される。
また、呪いや邪気が加わっているから、弾く事ができても死ぬ。
ロレンツォがダンジョンの奥深くで手に入れた、先史魔術文明時代の魔導書を参考に、聖魔術と前世の知識と創造力を総動員して創り出した新魔術だった。
ギャアアアアア!
魔王の断末魔だった。
このままでも魔王を滅する事ができる。
だが、魔力反射魔術だけで魔王を斃しては地味すぎる。
それではマリア大公を世界の救世主にするには押しが弱い。
「世界を滅ぼす魔王は絶対に倒さなければいけません。
神々から授かった聖なる大魔術で髪1本、爪1つ残さずに滅ぼして差し上げます。
破魔聖光二重陣」
ギャアアアアア!
魔王と上位魔族の2魔を捕らえるほどの巨大魔法陣が浮かんだ。
地面と天空にある2つの魔法陣で魔王と上位魔族を捕らえる。
周囲に眩いばかりの光を放って、魔王と上位魔族を浄化していく。
浄化の光は、この場だけでなく南北両大陸にまで広がった。
特に近隣諸国では目を開けていられないくらいの眩さだった。
何か尋常ではない事が起きていると、誰にでも分かる異常事態だった。
「お見事でした、殿下。
このままポンポニウス王国に侵攻して民を救いましょう」
「宰相?!」
「放置してしまうと、欲にまみれた近隣諸国の草刈り場になってしまいます。
民が奴隷にされてしまいます。
今なら我が国に逆らう者はいません。
治めるべき王や領主がいる地に侵攻していただくわけではなりません。
国、貴族、盗賊に蹂躙される無主の地を治めて、民を救っていただきたいのです」
「…‥最初からここまで考えていたのですね?」
「殿下の宰相でございますから、殿下の名声を高めつつ、民が安寧に暮らせるように、常に考えております」
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