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第一章
第43話:高位魔族
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ロマンシア王国暦215年8月21日:ポンポニウス王国との国境線
マリア大公が決断したことで、予想通りマルティクスに手を貸していた元貴族士族が一斉に密告をした。
ロレンツォは完全に自重を放棄した。
マリア大公を護る為に、魔王ですら入れない結界を王城に張ったのだ。
それも、3重に張ったのだから心配性が過ぎる。
更に王国内の主要都市や国境付近に作っておいた転移魔法陣を使いだした。
王国各地から集まるマルティクスの情報を確認するために飛び回りもした。
マルティクスは愚者だが、協力している邪法集団は優秀なようで、間一髪の差で逃げられてしまってばかりだった。
だが、そのお陰で助かった事もある。
本当なら再臣従を認めなければいけない二重の裏切者達が、邪法集団によって虐殺されたのだ。
しかしとても心配な事もあった。
裏切って処刑された連中は、明らかに生贄にされていた。
それに加えて、哀しい事に、表に出ない誘拐や人身売買が行われていた。
被害者達を生贄にした痕跡があったのだ。
マルティクスと邪法集団を追うのが最優先だが、誘拐や人身売買も見逃せない。
貴重な密偵達や、通常の警察部隊を総動員して組織の壊滅に動いた。
幸か不幸か、誘拐や人身売買を行っていたのは、裏切者として生贄にされた元貴族士族だったので、もうこれ以上無辜の民が生まれる事はないだろう。
人手を割いた影響ではないだろうが、その後も逃げられ続けた。
それでも、徐々に追い詰めているという確かな感触があったのだが……
「殿下、閣下、ポンポニウス王国との国境線で高位魔族が暴れています」
「なんですって?!
マルティクスの策謀ですか?!」
一瞬で状況を理解したマリア大公がロレンツォに確認する。
「恐らくですが、追い詰められた邪法集団が考えたのでしょう。
自分達に憑依させたのではなく、我が国とポンポニウス王国の民に憑依させ、戦争を始めさせる気です」
「何とか近隣諸国との戦争を避けられそうでしたのに!」
マリア大公は悔しそうだった。
「戦争による死傷を魔王召喚の生贄にする気でしょう」
「止められませんか?」
「私が直接乗り込んで叩きます。
殿下は城でお待ちください」
「嫌です。
私は貴男の傀儡ではありません。
王の暴挙を止めるための諫言だと言うでしょうが、認められません。
貴男なら私を護りながらマルティクス達を成敗できるでしょう?」
「……やれますが、危険は少しでも減らいたいです」
「駄目です、絶対に許しません。
私も戦場に行ってお飾りの主君でない事を示します。
そして近隣諸国の王を招き、堂々と女王に戴冠します」
「そこまで申されるのでしたら、ヤコブの時のように、実際に戦っていただく事になりますが、それでも宜しいですか?」
「構いません、戦いを回避するために必要な事は全てやります」
「分かりました、万全の準備を整えさせていただきます」
そのようなやり取りがあって、マリア大公はロレンツォ以下200人の側近達を率いてポンポニウス王国との国境付近に転移した。
直卒したのは護衛騎士、親衛騎士、戦闘侍女、侍女だが、国境には騎士団を中核に傭兵団や冒険者クランで編制した国境警備軍はいる。
「団長、伝書鳥や旗振り通信である程度の状況は把握しているが、くわしい話を聞かせてくれ」
「はい、宰相閣下。
お知らせしていた通り、マルティクスが潜伏していると密告のあった農家に押し入ったのですが、捕らえる前に魔族に変化してしまったのです」
「マルティクスがか?
信じられん!
ここまできて、魔王召喚を諦めて上位魔族で妥協するか?
上位魔族では、数を頼んでも勝てない事は分かっているはずだ?
まあ、いい、分からない事に拘っていても無駄だ。
それで、味方の死傷者はどれくらいだ?」
「死者54人、重軽傷者合わせて371人です。
ですが、即死した54人を除いて全員の回復が終わっております」
「その後の追撃はなかったのか?」
「はい、そのままポンポニウス王国に入り、国境の城砦や村々を襲っています」
「少し時間はかかったが、その日の内に来たのだぞ?
伝書鳥が王都まで来る時間を考えても、2日は経っていないはずだ。
何故1番憎い我が国ではなくポンポニウス王国に向かったのだ?
そうか、ポンポニウス王国が侵攻準備をしていた軍を生贄に使う気だな!」
ターニングポイントだと感じたロレンツォは、つい独り言で自問自答した。
滅多にない事だが、それだけ重要な局面なのだ。
マリア大公とロレンツォ宰相が、あらゆる手段を使って近隣諸国との戦争を回避しようとした事で、敵対しているのはポンポニウス王国だけとなっていた。
ポンポニウス王国もやられっぱなしではなく、活発に動いていた。
王家だけでなく有力貴族を使った婚姻政策を進め、軍事同盟や和平条約を締結し、ロマンシア王国との戦いに集中できるようにした。
それはマリア大公とロレンツォ宰相も同じだった。
近隣諸国には、マリア大公とロレンツォ宰相を使った婚姻政策を行った。
特にマリア大公は、王配だけでなく、男の公妾まで受けいれる覚悟を示した。
まあ、ロレンツォの事だから、マリアに意に沿わない事は絶対にさせない。
王配と男公妾には魔法で幻を見せるだけで、実際には指1本触れさせない。
「ポンポニウスの民を助ける訳にはいかないのですね?」
高位魔族の殺される無辜の民の事を思い、思わずマリア大公がつぶやく。
ロレンツォがマリアお嬢様を護ると使い事になった無償の愛だが、状況を分かっていない身勝手な想いである事も確かだ。
他国の民を助けようとすれば、軍を率いて侵攻する事になる。
内政干渉どころの話ではない。
友好関係を結んでいる国が相手でも戦争につながる行為だ。
まして何時宣戦布告をするか分からない敵対国に行えば、開戦の良い口実にされてしまう。
「お気持ちは分かりますが、そのような事をすれば、ポンポニウス王国だけでなく、他の国にまで侵攻の口実を与えてしまいます。
これまでの努力が無に帰すだけでなく、他国の民のために我が国の民が殺されてしまう事になります」
「分かっているのですが、つい、何とかしてくれると思ってしまったのです。
ですがこのような考えは甘えでしかないですね。
また悪い癖が出てしまいました。
聞き流してください」
「はい、聞かなかった事にさせて頂きます」
そのような会話を聞かされていた側近達は、何を今更という心境だった。
甘えだ、悪い癖だと言うのなら、大公がここに来ている事自体がそうだった。
普通の王なら絶対にこんな危険な所に来ないし、宰相も行かさない。
「敵は必ず戻ってきます。
その時のために準備をしてまいります。
一旦城に戻られますか?」
「いえ、親征したと言うのに、何の成果もなく帰るのは良くないでしょう?」
「難しい所ですが、ややここに残った方がよいでしょう。
分かりました、防御結界を張りますので、ここでお待ちください」
ロレンツォは国境を守る城にも王城と同じ防御結界を3重に張った。
その後で国境の最前線に向かい、魔王がやって来ても大丈夫な準備をした。
マリア大公が決断したことで、予想通りマルティクスに手を貸していた元貴族士族が一斉に密告をした。
ロレンツォは完全に自重を放棄した。
マリア大公を護る為に、魔王ですら入れない結界を王城に張ったのだ。
それも、3重に張ったのだから心配性が過ぎる。
更に王国内の主要都市や国境付近に作っておいた転移魔法陣を使いだした。
王国各地から集まるマルティクスの情報を確認するために飛び回りもした。
マルティクスは愚者だが、協力している邪法集団は優秀なようで、間一髪の差で逃げられてしまってばかりだった。
だが、そのお陰で助かった事もある。
本当なら再臣従を認めなければいけない二重の裏切者達が、邪法集団によって虐殺されたのだ。
しかしとても心配な事もあった。
裏切って処刑された連中は、明らかに生贄にされていた。
それに加えて、哀しい事に、表に出ない誘拐や人身売買が行われていた。
被害者達を生贄にした痕跡があったのだ。
マルティクスと邪法集団を追うのが最優先だが、誘拐や人身売買も見逃せない。
貴重な密偵達や、通常の警察部隊を総動員して組織の壊滅に動いた。
幸か不幸か、誘拐や人身売買を行っていたのは、裏切者として生贄にされた元貴族士族だったので、もうこれ以上無辜の民が生まれる事はないだろう。
人手を割いた影響ではないだろうが、その後も逃げられ続けた。
それでも、徐々に追い詰めているという確かな感触があったのだが……
「殿下、閣下、ポンポニウス王国との国境線で高位魔族が暴れています」
「なんですって?!
マルティクスの策謀ですか?!」
一瞬で状況を理解したマリア大公がロレンツォに確認する。
「恐らくですが、追い詰められた邪法集団が考えたのでしょう。
自分達に憑依させたのではなく、我が国とポンポニウス王国の民に憑依させ、戦争を始めさせる気です」
「何とか近隣諸国との戦争を避けられそうでしたのに!」
マリア大公は悔しそうだった。
「戦争による死傷を魔王召喚の生贄にする気でしょう」
「止められませんか?」
「私が直接乗り込んで叩きます。
殿下は城でお待ちください」
「嫌です。
私は貴男の傀儡ではありません。
王の暴挙を止めるための諫言だと言うでしょうが、認められません。
貴男なら私を護りながらマルティクス達を成敗できるでしょう?」
「……やれますが、危険は少しでも減らいたいです」
「駄目です、絶対に許しません。
私も戦場に行ってお飾りの主君でない事を示します。
そして近隣諸国の王を招き、堂々と女王に戴冠します」
「そこまで申されるのでしたら、ヤコブの時のように、実際に戦っていただく事になりますが、それでも宜しいですか?」
「構いません、戦いを回避するために必要な事は全てやります」
「分かりました、万全の準備を整えさせていただきます」
そのようなやり取りがあって、マリア大公はロレンツォ以下200人の側近達を率いてポンポニウス王国との国境付近に転移した。
直卒したのは護衛騎士、親衛騎士、戦闘侍女、侍女だが、国境には騎士団を中核に傭兵団や冒険者クランで編制した国境警備軍はいる。
「団長、伝書鳥や旗振り通信である程度の状況は把握しているが、くわしい話を聞かせてくれ」
「はい、宰相閣下。
お知らせしていた通り、マルティクスが潜伏していると密告のあった農家に押し入ったのですが、捕らえる前に魔族に変化してしまったのです」
「マルティクスがか?
信じられん!
ここまできて、魔王召喚を諦めて上位魔族で妥協するか?
上位魔族では、数を頼んでも勝てない事は分かっているはずだ?
まあ、いい、分からない事に拘っていても無駄だ。
それで、味方の死傷者はどれくらいだ?」
「死者54人、重軽傷者合わせて371人です。
ですが、即死した54人を除いて全員の回復が終わっております」
「その後の追撃はなかったのか?」
「はい、そのままポンポニウス王国に入り、国境の城砦や村々を襲っています」
「少し時間はかかったが、その日の内に来たのだぞ?
伝書鳥が王都まで来る時間を考えても、2日は経っていないはずだ。
何故1番憎い我が国ではなくポンポニウス王国に向かったのだ?
そうか、ポンポニウス王国が侵攻準備をしていた軍を生贄に使う気だな!」
ターニングポイントだと感じたロレンツォは、つい独り言で自問自答した。
滅多にない事だが、それだけ重要な局面なのだ。
マリア大公とロレンツォ宰相が、あらゆる手段を使って近隣諸国との戦争を回避しようとした事で、敵対しているのはポンポニウス王国だけとなっていた。
ポンポニウス王国もやられっぱなしではなく、活発に動いていた。
王家だけでなく有力貴族を使った婚姻政策を進め、軍事同盟や和平条約を締結し、ロマンシア王国との戦いに集中できるようにした。
それはマリア大公とロレンツォ宰相も同じだった。
近隣諸国には、マリア大公とロレンツォ宰相を使った婚姻政策を行った。
特にマリア大公は、王配だけでなく、男の公妾まで受けいれる覚悟を示した。
まあ、ロレンツォの事だから、マリアに意に沿わない事は絶対にさせない。
王配と男公妾には魔法で幻を見せるだけで、実際には指1本触れさせない。
「ポンポニウスの民を助ける訳にはいかないのですね?」
高位魔族の殺される無辜の民の事を思い、思わずマリア大公がつぶやく。
ロレンツォがマリアお嬢様を護ると使い事になった無償の愛だが、状況を分かっていない身勝手な想いである事も確かだ。
他国の民を助けようとすれば、軍を率いて侵攻する事になる。
内政干渉どころの話ではない。
友好関係を結んでいる国が相手でも戦争につながる行為だ。
まして何時宣戦布告をするか分からない敵対国に行えば、開戦の良い口実にされてしまう。
「お気持ちは分かりますが、そのような事をすれば、ポンポニウス王国だけでなく、他の国にまで侵攻の口実を与えてしまいます。
これまでの努力が無に帰すだけでなく、他国の民のために我が国の民が殺されてしまう事になります」
「分かっているのですが、つい、何とかしてくれると思ってしまったのです。
ですがこのような考えは甘えでしかないですね。
また悪い癖が出てしまいました。
聞き流してください」
「はい、聞かなかった事にさせて頂きます」
そのような会話を聞かされていた側近達は、何を今更という心境だった。
甘えだ、悪い癖だと言うのなら、大公がここに来ている事自体がそうだった。
普通の王なら絶対にこんな危険な所に来ないし、宰相も行かさない。
「敵は必ず戻ってきます。
その時のために準備をしてまいります。
一旦城に戻られますか?」
「いえ、親征したと言うのに、何の成果もなく帰るのは良くないでしょう?」
「難しい所ですが、ややここに残った方がよいでしょう。
分かりました、防御結界を張りますので、ここでお待ちください」
ロレンツォは国境を守る城にも王城と同じ防御結界を3重に張った。
その後で国境の最前線に向かい、魔王がやって来ても大丈夫な準備をした。
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