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第一章
第35話:追放
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ロマンシア王国暦215年7月1日:ベルナルディ伯爵家領都居城
「……団長、余の事がそれほど邪魔なのか?」
日々居心地が悪くなり、遂に耐え切れなくなったルーカ王が口にした。
いや、口にしてしまったと言うべきだろう。
少々ガサツで無神経なベルナルディ伯爵ヴァレリオには、絶対に口にしてはいけない質問だった。
第1騎士団団長として、命懸けで諫言を続けてきたベルナルディ伯爵は、ルーカ王の身勝手な言動に本気で怒っていたのだ。
それでも、王都を追われた哀れな王だからと、しかたなく受け入れたのだ。
「はぁ、当たり前でしょう!
俺がどれほど真剣に命懸けで何度も諫言したと思っているのです?!
それを1度も聞き入れず、阿諛追従の近臣共の言い成りに悪政を続けきたせいで、遂にガッロ公爵家を怒らせ離反させてしまった!
その挙句、実の息子が殺し合って、ガッロ公爵家を怒らせた張本人である長男に殺されかけた。
王都から逃げるのなら、俺達騎士よりも、今まで可愛がってきた近臣共の所に逃げればいいでしょう!
陛下が俺の所に無理矢理逃げてきたせいで、ガッロ公爵家に敵視されちまった!
恥知らずな陛下の所為で家臣領民まで皆殺しにされるのですよ!」
「ぐっ!
余とて卿には悪い事をしてきたと思っている」
「だったら他所に行ってくださいよ!
道連れにするのなら、国をここまで破綻させた連中にしてくれ。
国を守ろうと地位も名誉も命さえ賭けてきた者を巻き込まないでくださいよ」
「それほどの忠臣だから頼らせてもらったのだ。
何とか王国が存続するように助力してくれ」
「父上、この恥知らずで臆病な愚王の何を言っても無駄ですよ」
「無礼者、余は王だぞ!」
「はぁあ、佞臣の甘言に酔って国を失った愚王が何を言っている?」
ベルナルディ伯爵の長男カルロは父親以上にガサツで無神経だった。
何時も余計な事を言ってその場の雰囲気を悪くするような男だった。
マルティクス王子の護衛騎士見習として、王立魔術学園生徒会では警務係を務めていただけに、マルティクス王子の悪行は全て見てきた。
それだけに、ルーカ王の中にマルティクス王子に通じる身勝手さ感じ、日々対応が冷淡になっていた。
そんな性格のカルロが、この状況でルーカ王に敬意を払う訳がない。
一応敬語を使っていた父親とは違い、侮蔑と敵意を隠さない言葉遣いだった。
「そのれ、無礼討ちにしてくれる!」
「はぁあ、王都から逃げ出すのに、家臣1人ついて来なかった、全く人望のない奴が無礼討ちだと?!
笑わせんな!
返り討ちになるまえにさっさと出て行け!」
「ひぃあぁああああ!」
カルロが抜き打ちに放った大剣は、ルーカ王の顔すれすれを通った。
いや、痛みが分かる程度に薄皮を斬り、流血までさせた。
そこまでしないと追い出せないとカルロは判断したのだ。
カルロはガサツで無神経なので誤解されるが、馬鹿ではない。
賢いとは言えないが、平均的な知能は持っている。
だから、父親がルーカ王を持て余している事に気がついていた。
決して我慢強いとは言えない武断派の父親が、王が身勝手な言い分で逃げ込んできただけでなく、無神経に居座り続ける事で、我慢の限界に達している事を感じていたのだ。
今目の前で起こっている父親と王の口喧嘩が、下手をすれば王殺しに通じる事も、血を分けた親子だけに理解できた。
並の知恵があって、伯爵家の長男として育ち、騎士として鍛えられれば、王を殺す事が非常にまずい事くらい分かる。
王は殺さない方が良いが、自分が間に入って和解させられないのも分かっている。
性格的にも能力的に無理な事くらい分かる。
何より、カルロ本人がルーカ王の事を嫌いになっていた。
王だけでなく、ロマンシア王家自体を大嫌いになっていた。
だから剣で脅して追い出す事にした。
父親が斬り殺してしまうよりはマシだと考えたのだ。
更に言えば、父親よりは自分が殺した方がましだとまで思っていた。
「不忠者!
主殺しだ、王殺しだ!」
「じゃかましいわ!
次は本気で首を刎ねるぞ!」
カルロはそう言うともう1度大剣を振り下ろした。
今度はルーカ王の髪の毛をバッサリと斬り落とした。
そのまま岩床を大剣で叩いて火花を散らした。
ガッシーン!
「ひぃいいいい!
主殺しだ、王殺しだ!」
ルーカ王は喚きながら逃げ出した。
本当に誰1人後を追う者がいない。
着の身着のまま、身に付けた宝飾品以外何もない状態で逃げ出した。
ベルナルディ伯爵家だからこの程度で済んだのだろう。
これが下手な家なら、マリア大公への手土産にしようとルーカ王を生きたまま捕らえるか、自家に不利な事を口にされないように殺した後で手土産にされていた。
貴族家の当主や一門が見逃したとしても、家臣や領民が手柄にしようと殺す。
手柄にするのは危険と判断する知恵のある者なら、殺して身に付けている国宝級の宝飾品を奪う。
その何も起こらないのは、ガサツで無神経で周りの雰囲気が悪くなるくらい余計な事を口にする者が多いベルナルディ一族だが、性根はきれいだからだ。
「よくやってくれた。
お前が追い出してくれていなかったら、危うく殺してしまう所だった」
「父上を主殺し王殺しにはできませんから。
それで、家はどうするのです?
マリア嬢に降伏する気ですか?」
「戦う事もなく降伏するのは俺の騎士としての誇りに反する。
とはいえ、家臣領民を俺の意地に巻き込むわけにもいかん。
情けないが、降伏するしかあるまい」
「父上、俺は自分より弱い奴に仕える気はありません。
もうあんな思いをするのは真っ平です。
領地を捨てて、心から仕えられる主君を探しませんか?」
「マリア嬢では主として不足だと言いたいのか?」
「はい!」
「はっきり言い過ぎだ。
だが、お前の言う事ももっともだ」
「では一緒に主を探す旅出でましょう」
「まあ、まて、この国にも我らが仕えるに相応しい者がいるかもしれない」
「父上、ロレンツォの事を言っているのですか?」
「ああ、そうだ、1度も戦いに応じてくれなかったが、学園で1学年から6学年まで無敗を誇った、伝説の生徒会長だからな」
「マルティクスが王家の威光で無能なのに生徒会長に成れたように、ガッロ公爵家の威光で生徒会長に成れたのかもしれません」
「マルティクスの場合は低学年の間は生徒会副会長が仕切っていた。
ロレンツォは1学年から全て自分で仕切っていたと聞いている。
それが嘘でないと思えるのは、冒険者としても数々の実績を誇っているからだ。
国を出る前にロレンツォ実力を確かめておくべきだ。
何年も大陸中を探し回って、最後に戻って来てロレンツォを確かめるような事になるのは嫌だからな」
「だったら領地を賭けた決闘でも申し込みますか?」
「……団長、余の事がそれほど邪魔なのか?」
日々居心地が悪くなり、遂に耐え切れなくなったルーカ王が口にした。
いや、口にしてしまったと言うべきだろう。
少々ガサツで無神経なベルナルディ伯爵ヴァレリオには、絶対に口にしてはいけない質問だった。
第1騎士団団長として、命懸けで諫言を続けてきたベルナルディ伯爵は、ルーカ王の身勝手な言動に本気で怒っていたのだ。
それでも、王都を追われた哀れな王だからと、しかたなく受け入れたのだ。
「はぁ、当たり前でしょう!
俺がどれほど真剣に命懸けで何度も諫言したと思っているのです?!
それを1度も聞き入れず、阿諛追従の近臣共の言い成りに悪政を続けきたせいで、遂にガッロ公爵家を怒らせ離反させてしまった!
その挙句、実の息子が殺し合って、ガッロ公爵家を怒らせた張本人である長男に殺されかけた。
王都から逃げるのなら、俺達騎士よりも、今まで可愛がってきた近臣共の所に逃げればいいでしょう!
陛下が俺の所に無理矢理逃げてきたせいで、ガッロ公爵家に敵視されちまった!
恥知らずな陛下の所為で家臣領民まで皆殺しにされるのですよ!」
「ぐっ!
余とて卿には悪い事をしてきたと思っている」
「だったら他所に行ってくださいよ!
道連れにするのなら、国をここまで破綻させた連中にしてくれ。
国を守ろうと地位も名誉も命さえ賭けてきた者を巻き込まないでくださいよ」
「それほどの忠臣だから頼らせてもらったのだ。
何とか王国が存続するように助力してくれ」
「父上、この恥知らずで臆病な愚王の何を言っても無駄ですよ」
「無礼者、余は王だぞ!」
「はぁあ、佞臣の甘言に酔って国を失った愚王が何を言っている?」
ベルナルディ伯爵の長男カルロは父親以上にガサツで無神経だった。
何時も余計な事を言ってその場の雰囲気を悪くするような男だった。
マルティクス王子の護衛騎士見習として、王立魔術学園生徒会では警務係を務めていただけに、マルティクス王子の悪行は全て見てきた。
それだけに、ルーカ王の中にマルティクス王子に通じる身勝手さ感じ、日々対応が冷淡になっていた。
そんな性格のカルロが、この状況でルーカ王に敬意を払う訳がない。
一応敬語を使っていた父親とは違い、侮蔑と敵意を隠さない言葉遣いだった。
「そのれ、無礼討ちにしてくれる!」
「はぁあ、王都から逃げ出すのに、家臣1人ついて来なかった、全く人望のない奴が無礼討ちだと?!
笑わせんな!
返り討ちになるまえにさっさと出て行け!」
「ひぃあぁああああ!」
カルロが抜き打ちに放った大剣は、ルーカ王の顔すれすれを通った。
いや、痛みが分かる程度に薄皮を斬り、流血までさせた。
そこまでしないと追い出せないとカルロは判断したのだ。
カルロはガサツで無神経なので誤解されるが、馬鹿ではない。
賢いとは言えないが、平均的な知能は持っている。
だから、父親がルーカ王を持て余している事に気がついていた。
決して我慢強いとは言えない武断派の父親が、王が身勝手な言い分で逃げ込んできただけでなく、無神経に居座り続ける事で、我慢の限界に達している事を感じていたのだ。
今目の前で起こっている父親と王の口喧嘩が、下手をすれば王殺しに通じる事も、血を分けた親子だけに理解できた。
並の知恵があって、伯爵家の長男として育ち、騎士として鍛えられれば、王を殺す事が非常にまずい事くらい分かる。
王は殺さない方が良いが、自分が間に入って和解させられないのも分かっている。
性格的にも能力的に無理な事くらい分かる。
何より、カルロ本人がルーカ王の事を嫌いになっていた。
王だけでなく、ロマンシア王家自体を大嫌いになっていた。
だから剣で脅して追い出す事にした。
父親が斬り殺してしまうよりはマシだと考えたのだ。
更に言えば、父親よりは自分が殺した方がましだとまで思っていた。
「不忠者!
主殺しだ、王殺しだ!」
「じゃかましいわ!
次は本気で首を刎ねるぞ!」
カルロはそう言うともう1度大剣を振り下ろした。
今度はルーカ王の髪の毛をバッサリと斬り落とした。
そのまま岩床を大剣で叩いて火花を散らした。
ガッシーン!
「ひぃいいいい!
主殺しだ、王殺しだ!」
ルーカ王は喚きながら逃げ出した。
本当に誰1人後を追う者がいない。
着の身着のまま、身に付けた宝飾品以外何もない状態で逃げ出した。
ベルナルディ伯爵家だからこの程度で済んだのだろう。
これが下手な家なら、マリア大公への手土産にしようとルーカ王を生きたまま捕らえるか、自家に不利な事を口にされないように殺した後で手土産にされていた。
貴族家の当主や一門が見逃したとしても、家臣や領民が手柄にしようと殺す。
手柄にするのは危険と判断する知恵のある者なら、殺して身に付けている国宝級の宝飾品を奪う。
その何も起こらないのは、ガサツで無神経で周りの雰囲気が悪くなるくらい余計な事を口にする者が多いベルナルディ一族だが、性根はきれいだからだ。
「よくやってくれた。
お前が追い出してくれていなかったら、危うく殺してしまう所だった」
「父上を主殺し王殺しにはできませんから。
それで、家はどうするのです?
マリア嬢に降伏する気ですか?」
「戦う事もなく降伏するのは俺の騎士としての誇りに反する。
とはいえ、家臣領民を俺の意地に巻き込むわけにもいかん。
情けないが、降伏するしかあるまい」
「父上、俺は自分より弱い奴に仕える気はありません。
もうあんな思いをするのは真っ平です。
領地を捨てて、心から仕えられる主君を探しませんか?」
「マリア嬢では主として不足だと言いたいのか?」
「はい!」
「はっきり言い過ぎだ。
だが、お前の言う事ももっともだ」
「では一緒に主を探す旅出でましょう」
「まあ、まて、この国にも我らが仕えるに相応しい者がいるかもしれない」
「父上、ロレンツォの事を言っているのですか?」
「ああ、そうだ、1度も戦いに応じてくれなかったが、学園で1学年から6学年まで無敗を誇った、伝説の生徒会長だからな」
「マルティクスが王家の威光で無能なのに生徒会長に成れたように、ガッロ公爵家の威光で生徒会長に成れたのかもしれません」
「マルティクスの場合は低学年の間は生徒会副会長が仕切っていた。
ロレンツォは1学年から全て自分で仕切っていたと聞いている。
それが嘘でないと思えるのは、冒険者としても数々の実績を誇っているからだ。
国を出る前にロレンツォ実力を確かめておくべきだ。
何年も大陸中を探し回って、最後に戻って来てロレンツォを確かめるような事になるのは嫌だからな」
「だったら領地を賭けた決闘でも申し込みますか?」
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