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第一章
第22話:骨肉の争い
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ロマンシア王国暦215年4月18日:ガッロ大公国公城宰相執務室
「お義兄様、フェデリコ殿下がマルティクス殿下に殺されたというのは本当ですか?!」
ロレンツォが宰相執務室で急ぎの書類を決裁していると、顔色を変えたマリア女大公殿下が多くの家臣を引き連れてやってきた。
家臣の半数が女性の護衛騎士だ。
ロレンツォの執務室であろうと油断する事のない女性護衛騎士達は素晴らしい。
だからこそロレンツォも安心して執務に集中できる。
ロレンツォはマリアお嬢様が何よりも大切なので、以前からマリアお嬢様の側近育成には力を入れていた。
その中でも特に力を入れていたのだ、直接マリアお嬢様の命を守る女性護衛騎士を育成する事であった。
これまでも武芸を嗜む女性はいた。
そんな女性が、男性騎士ではついて行けない場所で女主人を護るのだ。
戦闘侍女と呼ばれ、普段から武芸の鍛錬をしていた。
だがそんな戦闘侍女でも、本職の男性騎士と対等に戦える者はいなかった。
だから侍女職兼任の戦闘侍女ではなく、護衛専任の女性護衛騎士を育成した。
不本意な結婚を強いられる貧乏士族の娘を、戦闘侍女として全員召し抱え、潤沢な予算を注ぎ込み戦闘訓練を繰り返す事で、実力のある女性騎士を育成した。
そんな者達がマリアお嬢様の御側を守る事で、女性騎士に憧れる士族子女を増やすし、士族が豊かになっても女性騎士の供給が絶えないようにしたのだ。
「はい、フェデリコはマルティクスに殺されました」
「フェデリコ殿下は常にマルティクスを立てておられました。
そんなフェデリコ殿下を殺してしまわれるなんて、何があったのですか?」
「我が国との争いを避けたいフェデリコは、マルティクスを廃嫡にするように王や王妃に訴えたのです」
「まさか、それが原因で弟を殺したというのですか?」
「はい、フェデリコは近隣諸国が同盟を結んで攻め込んで来る事や、我が国が領民を根こそぎ動員して攻めあがる事を恐れたのでしょう。
そんな事に成ったらロマンシア王家が断絶する事になりますから。
ですが、愚かで身勝手なマルティクスには周囲の状況など関係ありません。
自分の王位継承を邪魔する者として、同母の弟を殺したのです」
「お義兄様はロマンシア王国に攻め込まないと約束してくださいました。
その事を伝えてくださらなかったのですか?」
「大公殿下に自殺を強要したマルティクスはもちろん、マルティクスに罰も与えないロマンシア王家に教えてやる義理などありません」
「まさか、こうなる事を予測してなにも伝えられなかったのですか?!」
「はい、人の皮を被った悪魔など、親兄弟で殺し合えばいいのです。
今はまだマルティクスが弟妹を殺しただけですが、これからは父親や父親の愛妾を次々と殺してくでしょう」
「止めさせてください!
そのような生き地獄を引き起こすような事は止めさせてください!」
「大公殿下、私がやらせている訳ではありませんので、止めようがございません。
人の皮を被った悪魔の行いが止められるのなら、大公殿下に毒を飲ませるような凶行は止められました」
「ですが、お義兄様なら何とかできるのではありませんか?」
「残念ながら無理でございます、大公殿下。
王都と公都は遠く離れており、早馬を昼夜関係なく走らせても三日はかかります。
もう既にルーカ王達は殺されている頃です」
「そんな!」
心優しいマリアお嬢様は親兄弟が殺し合う事に胸を痛めていた。
それが自分に自殺を強要した元婚約者とその家族でもだ。
だが、ロレンツォが居なければガッロ公爵家でも同じ事が行われていた。
実際ガッロ公爵家の跡目を巡っては激しい暗闘があった。
公爵家の傍流家臣の多くは、マリアお嬢様をマルティクス第1王子に輿入れさせて、外戚として王家に影響力を持ちたいと思っていた。
だが同時に、公爵家の跡目も狙っていたのだ。
公爵家の血が入っていない譜代家臣は、マリアお嬢様の次男を当主に迎えようと考えていたが、傍流家臣は自分達の子供に跡を継がせたかった。
だから代理とは言え、目障りなロレンツォに何度も刺客を放っていた。
ロレンツォは、自分に刺客を放たれるくらいなら大して気にもしない。
直接襲ってきた連中を叩き殺すだけだ。
だが、当代のガッロ公爵、マリアお嬢様の父親であるダヴィデの子供を生んだ連中は、事もあろうにマリアお嬢様を子供の生めない体にしようとした。
しかも、余りにも身勝手な事に、王国を継ぐ長男は生ませるが、次男以降を産めないようにする気だった。
長男を生んだ直後に不妊にすべく、毒薬や呪いを準備していた。
だからロレンツォは同じことをやり返した。
ダヴィデが手を付けた女はもちろん、女の実家家族が子供を作れないようにした。
何も特別な事をした訳ではない。
女性の場合は卵管を閉塞させて排卵できないようにした。
男性の場合は精管を欠損させて、精子が精巣から出られないようにしただけだ。
本当ならダヴィデの愛妾はもちろん、既に生まれている子供も殺してしまいたいと思ったロレンツォだが、それだけはぐっとこらえた。
まだ幼い子供達には罪がない。
何より、半分とは言えマリアお嬢様と血が繋がっている。
後で殺した事がバレてしまったら、マリアお嬢様に憎まれてしまう。
マリアお嬢様を護るためにどうしても必要ならば、憎まれる事もいとわない。
弟妹を殺す事もためらわないロレンツォだが、できる事なら嫌われたくない。
そこで選んだのが、ダヴィデ達を辺境の砦に幽閉する事だった。
惰弱で欲深いダヴィデは必ず酒池肉林の贅沢三昧を繰りかえす。
出入りの商人には欲望を満たす事の出来る強力な媚薬を渡してある。
ロレンツォが直接手を下さなくても、間もなく死んでくれる。
「大公殿下、マルティクスが弟妹を信じられずに殺すのは、本人の性格がどうしようもなく悪いからです。
殿下が悪いわけでもなければ、私がやらせたわけでもありません。
あえて責任があると言えるとしたら、そのような性格に育てた両親です」
「それはそうでしょうが……」
「大公殿下には、マルティクスよりも前に責任を感じなければいけない者達がいる事、お分かりになっておられますか?」
「成りたくて成った大公ではありませんが、分かっております。
これでも国王を支えるように帝王学を叩き込まれています」
「その通りでございます、殿下。
殿下は王妃になるための教育を受けられておられました。
優し過ぎるところはあられますが、常に努力されて優秀な成績をとられていた。
支えるべきマルティクスが、ろくでもない男だという事も知っておられました。
それでも多くの家臣や国民を守る心算だったのでしょう?
大公家の家臣や国民だけなら数が減って楽になったのではありませんか?
嘘の泣き言で私を騙せると思わないでください」
「騙す心算などありませんし、嘘を言っている訳でもありません。
学んで答えを口にするのと、実際にやる事の難しさが違うだけです。
あの日まではやれると思っていましたが、思い上がりでした。
殿下に死を迫られて……楽になれると死を選んでしまいました。
私はお兄様が思ってくださっているほど強くないのです。
それに、王妃として陰から国王陛下を支えて家臣国民を護るのと、大公として矢面に立って家臣国民を護るのとでは心の負担が違います」
「大丈夫でございます。
臣が死ぬまでお支えいたします。
王妃となられたマリアお嬢様だとお手伝いできませんでしたが、大公に成っていただけたのです。
死ぬまで殿下を支えさせていただきますので、ご安心ください」
「お義兄様、フェデリコ殿下がマルティクス殿下に殺されたというのは本当ですか?!」
ロレンツォが宰相執務室で急ぎの書類を決裁していると、顔色を変えたマリア女大公殿下が多くの家臣を引き連れてやってきた。
家臣の半数が女性の護衛騎士だ。
ロレンツォの執務室であろうと油断する事のない女性護衛騎士達は素晴らしい。
だからこそロレンツォも安心して執務に集中できる。
ロレンツォはマリアお嬢様が何よりも大切なので、以前からマリアお嬢様の側近育成には力を入れていた。
その中でも特に力を入れていたのだ、直接マリアお嬢様の命を守る女性護衛騎士を育成する事であった。
これまでも武芸を嗜む女性はいた。
そんな女性が、男性騎士ではついて行けない場所で女主人を護るのだ。
戦闘侍女と呼ばれ、普段から武芸の鍛錬をしていた。
だがそんな戦闘侍女でも、本職の男性騎士と対等に戦える者はいなかった。
だから侍女職兼任の戦闘侍女ではなく、護衛専任の女性護衛騎士を育成した。
不本意な結婚を強いられる貧乏士族の娘を、戦闘侍女として全員召し抱え、潤沢な予算を注ぎ込み戦闘訓練を繰り返す事で、実力のある女性騎士を育成した。
そんな者達がマリアお嬢様の御側を守る事で、女性騎士に憧れる士族子女を増やすし、士族が豊かになっても女性騎士の供給が絶えないようにしたのだ。
「はい、フェデリコはマルティクスに殺されました」
「フェデリコ殿下は常にマルティクスを立てておられました。
そんなフェデリコ殿下を殺してしまわれるなんて、何があったのですか?」
「我が国との争いを避けたいフェデリコは、マルティクスを廃嫡にするように王や王妃に訴えたのです」
「まさか、それが原因で弟を殺したというのですか?」
「はい、フェデリコは近隣諸国が同盟を結んで攻め込んで来る事や、我が国が領民を根こそぎ動員して攻めあがる事を恐れたのでしょう。
そんな事に成ったらロマンシア王家が断絶する事になりますから。
ですが、愚かで身勝手なマルティクスには周囲の状況など関係ありません。
自分の王位継承を邪魔する者として、同母の弟を殺したのです」
「お義兄様はロマンシア王国に攻め込まないと約束してくださいました。
その事を伝えてくださらなかったのですか?」
「大公殿下に自殺を強要したマルティクスはもちろん、マルティクスに罰も与えないロマンシア王家に教えてやる義理などありません」
「まさか、こうなる事を予測してなにも伝えられなかったのですか?!」
「はい、人の皮を被った悪魔など、親兄弟で殺し合えばいいのです。
今はまだマルティクスが弟妹を殺しただけですが、これからは父親や父親の愛妾を次々と殺してくでしょう」
「止めさせてください!
そのような生き地獄を引き起こすような事は止めさせてください!」
「大公殿下、私がやらせている訳ではありませんので、止めようがございません。
人の皮を被った悪魔の行いが止められるのなら、大公殿下に毒を飲ませるような凶行は止められました」
「ですが、お義兄様なら何とかできるのではありませんか?」
「残念ながら無理でございます、大公殿下。
王都と公都は遠く離れており、早馬を昼夜関係なく走らせても三日はかかります。
もう既にルーカ王達は殺されている頃です」
「そんな!」
心優しいマリアお嬢様は親兄弟が殺し合う事に胸を痛めていた。
それが自分に自殺を強要した元婚約者とその家族でもだ。
だが、ロレンツォが居なければガッロ公爵家でも同じ事が行われていた。
実際ガッロ公爵家の跡目を巡っては激しい暗闘があった。
公爵家の傍流家臣の多くは、マリアお嬢様をマルティクス第1王子に輿入れさせて、外戚として王家に影響力を持ちたいと思っていた。
だが同時に、公爵家の跡目も狙っていたのだ。
公爵家の血が入っていない譜代家臣は、マリアお嬢様の次男を当主に迎えようと考えていたが、傍流家臣は自分達の子供に跡を継がせたかった。
だから代理とは言え、目障りなロレンツォに何度も刺客を放っていた。
ロレンツォは、自分に刺客を放たれるくらいなら大して気にもしない。
直接襲ってきた連中を叩き殺すだけだ。
だが、当代のガッロ公爵、マリアお嬢様の父親であるダヴィデの子供を生んだ連中は、事もあろうにマリアお嬢様を子供の生めない体にしようとした。
しかも、余りにも身勝手な事に、王国を継ぐ長男は生ませるが、次男以降を産めないようにする気だった。
長男を生んだ直後に不妊にすべく、毒薬や呪いを準備していた。
だからロレンツォは同じことをやり返した。
ダヴィデが手を付けた女はもちろん、女の実家家族が子供を作れないようにした。
何も特別な事をした訳ではない。
女性の場合は卵管を閉塞させて排卵できないようにした。
男性の場合は精管を欠損させて、精子が精巣から出られないようにしただけだ。
本当ならダヴィデの愛妾はもちろん、既に生まれている子供も殺してしまいたいと思ったロレンツォだが、それだけはぐっとこらえた。
まだ幼い子供達には罪がない。
何より、半分とは言えマリアお嬢様と血が繋がっている。
後で殺した事がバレてしまったら、マリアお嬢様に憎まれてしまう。
マリアお嬢様を護るためにどうしても必要ならば、憎まれる事もいとわない。
弟妹を殺す事もためらわないロレンツォだが、できる事なら嫌われたくない。
そこで選んだのが、ダヴィデ達を辺境の砦に幽閉する事だった。
惰弱で欲深いダヴィデは必ず酒池肉林の贅沢三昧を繰りかえす。
出入りの商人には欲望を満たす事の出来る強力な媚薬を渡してある。
ロレンツォが直接手を下さなくても、間もなく死んでくれる。
「大公殿下、マルティクスが弟妹を信じられずに殺すのは、本人の性格がどうしようもなく悪いからです。
殿下が悪いわけでもなければ、私がやらせたわけでもありません。
あえて責任があると言えるとしたら、そのような性格に育てた両親です」
「それはそうでしょうが……」
「大公殿下には、マルティクスよりも前に責任を感じなければいけない者達がいる事、お分かりになっておられますか?」
「成りたくて成った大公ではありませんが、分かっております。
これでも国王を支えるように帝王学を叩き込まれています」
「その通りでございます、殿下。
殿下は王妃になるための教育を受けられておられました。
優し過ぎるところはあられますが、常に努力されて優秀な成績をとられていた。
支えるべきマルティクスが、ろくでもない男だという事も知っておられました。
それでも多くの家臣や国民を守る心算だったのでしょう?
大公家の家臣や国民だけなら数が減って楽になったのではありませんか?
嘘の泣き言で私を騙せると思わないでください」
「騙す心算などありませんし、嘘を言っている訳でもありません。
学んで答えを口にするのと、実際にやる事の難しさが違うだけです。
あの日まではやれると思っていましたが、思い上がりでした。
殿下に死を迫られて……楽になれると死を選んでしまいました。
私はお兄様が思ってくださっているほど強くないのです。
それに、王妃として陰から国王陛下を支えて家臣国民を護るのと、大公として矢面に立って家臣国民を護るのとでは心の負担が違います」
「大丈夫でございます。
臣が死ぬまでお支えいたします。
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