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第一章
第19話:大公宣言
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ロマンシア王国暦215年4月2日:ガッロ大公家の居城
「大公殿下、即位おめでとうございます」
「「「「「おめでとうございます!」」」」」
ロレンツォの言葉の後を追って、参列している大陸各国の正使や家臣達が一斉に声をそろえて祝う。
壇上のマリア大公は望まぬ大公即位に半泣きだが、他の者は歓喜に震えている。
それはそうだろう、これまでは王国の陪臣騎士や陪臣徒士だったのが、これからは独立国となった大公国の直臣騎士や直臣徒士に成れるのだ。
領内での大公即位宣言は、前ガッロ公爵を隠居させた直後に行われていた。
だが、大陸各国から使者を迎えて正式なお披露目するには時間がかかる。
余りに遠方の国や、ロマンシア王国と同盟している国とまで友好関係を結ぶ気はないし、結んでもあまり意味がない。
それに、そんな国に大公即位を伝えても無視されるだけだ。
だからロマンシア王国と同盟していない国、敵対している国にだけに通達した。
彼らなら、良くも悪くもロマンシア王国内に独立国ができた事に興味を持つ。
中にはこれを好機ととらえ、ガッロ大公国と同盟を結び、ロマンシア王国に攻め込もうと考える国が現れるかもしれない。
だがロレンツォにロマンシア王国と戦争をする気はない。
戦争を起こせる状態にしておいて、抑止力にするのだ。
そうしておかないと、信じられないほどの馬鹿が戦争を始めてしまう。
馬鹿を一瞬で皆殺しにできる争いなら望むところだったが、隣国が攻め込めるほど長引く戦争をする気は全くなかった。
多くの人が苦しむ戦争を起こしてしまったら、マリアお嬢様が胸を痛められる。
マリアお嬢様が哀しむような事はできるだけしたくないロレンツォだ。
だから、経済戦争も仕掛けていない。
莫大な資金を使ってロマンシア王国の穀物を買い漁り、食糧難に陥らせる事もなく、物価高騰程度に納めて反王家の機運を盛り上げる事すらしていない。
それでも、僅かな期間で王国は物価高に陥っていた。
ここ数年で穀物と魔獣肉の供給源となっていたガッロ家と断交したのだ。
魔獣肉の供給をガッロ領に頼って近隣領だけでなく、食糧の搬入量が多い王都でも物価が高くなるのは当然の事だった。
更にガッロ大公国と領地を接する領主達は、臨戦態勢を取らなくてはいけない。
近隣領主も公爵代理から大公国宰相に成ったロレンツォが好戦的でない事は知っている
だが同時に、義妹のマリア嬢を溺愛していて、王家に激しい恨みを持っている事を、王侯貴族全員が知っているのだ。
「宰相閣下、貴国との同盟について話し合う機会を設けてもらいたいのだが」
ロマンシア王国と何度も小競り合いを繰り返す某国の使者が話しかけてきた。
誰にも分からないように内密に会談を申し込むのではなく、会場にいる全員に分かるようにそれなりの声で話しかけたことに意味がある。
「何時でも喜んで話し合いさせていただきます。
ただ、建国直後でバタバタしておりますし、ロマンシア王家には逆恨みされていますので、領地を離れる事ができません。
申し訳ないのですが、話し合いの場は国内に限らせていただきます」
ロレンツォが適当に返事をする。
2人とも本気で話しているのではない。
いや、某国の使者はある意味では本気だった。
ガッロ大公家とロマンシア王国の両国を疲弊させる気だった。
某国から見れば、ガッロ大公国も美味しい獲物でしかない。
下手に軍事同盟を組んでしまったら、ロマンシア王国を滅ぼした後で攻めにくい。
だが、こうして軍事同盟の話だけしておけば、ロマンシア王国は勝手に大公国との国境に戦力を張り付けてくれる。
自国との国境戦力も増強されるかもしれないが、元々小競り合いを繰り返していたので、常時それなりの戦力が配備されている。
今更少し戦力が増強されるくらいは誤差でしかない。
それよりは、自国と大公国に戦力を増強した分、他国の国境線に張り付けてある戦力が減るか、王都の戦力が減る事になる。
それを好機と捕らえる国があれば、先に戦争を始める国が現れるかもしれない。
できる事ならロマンシア王国を滅ぼして完全に併合してしまいたい。
だが流石にそれは不可能な話しだ。
現実的に見れば、国境線に近い領地をある程度占領するくらいだ。
だが、1番先に攻め込んだ国が1番激しい抵抗を受ける。
損害を極力減らいたいのなら、先に他の国に攻め込ませるしかない。
そのための策が、公の場で大公国との軍事同盟を話す事だった。
大公国建国宣言が行われた会場中で、そのような謀略にかかわる話がされている。
そんな状況を見たマリアお嬢様は心を痛められる。
帝王教育を受けられたから、そういう謀略も理解されている。
だが、頭で理解しているのと実際にやるのは大きく違う。
マリアお嬢様の心に大きな負担をかけている。
「大公殿下、お疲れでしたら控室で休まれますか?」
「いえ、最後までちゃんと大公の役目を果たします。
ですが、戦争の話は受け入れられません。
大公国が直接かかわらなくても、大公国を利用して戦争を有利にしようとする者が許せません。
何とか中立の立場を取れませんか?
戦争を引きおこさないようにできませんか」
「大公殿下の願いに応えられない非才を申し訳なく思います。
ロマンシア王家は殿下に対する敵意を隠そうともしていません。
殿下に対して行った非道を全てエルザ嬢に押し付け、マルティクスに罪はないと幽閉を解いたのです。
しかもマルティクスは、エルザ嬢を殺さなければいけなくなったのは、殿下が毒を飲まされたと王家を偽った所為だとまで言っているのです。
ガッロ大公家とロマンシア王家は、倶に天を戴く事のできない、不俱戴天の仇となったのです」
ロレンツォもできる限り戦争を回避する方法を考えた。
マリアお嬢様を自殺に追い込んだマルティクス達を皆殺しにした上で、戦争を回避する方法を必死で考えたが、そんな都合の良い方法はなかった。
復讐を諦めるのなら、戦争を回避する方法はある。
だが復讐だけは止められなかった。
復讐も、相手に復讐だと分からせた上で殺さなければいけない。
暗殺でいいのなら、対外戦争を引き起こすことなく復讐できる。
だが、苦しむ事のない安楽な死など絶対に選べない。
そんな死では復讐とは言えない。
だから対外戦争の被害を最小限にする復讐方法を選んだのだ。
「……分かりました、お義兄様でもどうしようもないと言われるのですね」
「はい、私が手を出さないようにしても、向こうが先に仕掛けてきます」
「本当ですね、だったらお義兄様からは絶対に手を出さないと約束してください」
「はい、約束します。
絶対に私から手を出しません」
「大公殿下、即位おめでとうございます」
「「「「「おめでとうございます!」」」」」
ロレンツォの言葉の後を追って、参列している大陸各国の正使や家臣達が一斉に声をそろえて祝う。
壇上のマリア大公は望まぬ大公即位に半泣きだが、他の者は歓喜に震えている。
それはそうだろう、これまでは王国の陪臣騎士や陪臣徒士だったのが、これからは独立国となった大公国の直臣騎士や直臣徒士に成れるのだ。
領内での大公即位宣言は、前ガッロ公爵を隠居させた直後に行われていた。
だが、大陸各国から使者を迎えて正式なお披露目するには時間がかかる。
余りに遠方の国や、ロマンシア王国と同盟している国とまで友好関係を結ぶ気はないし、結んでもあまり意味がない。
それに、そんな国に大公即位を伝えても無視されるだけだ。
だからロマンシア王国と同盟していない国、敵対している国にだけに通達した。
彼らなら、良くも悪くもロマンシア王国内に独立国ができた事に興味を持つ。
中にはこれを好機ととらえ、ガッロ大公国と同盟を結び、ロマンシア王国に攻め込もうと考える国が現れるかもしれない。
だがロレンツォにロマンシア王国と戦争をする気はない。
戦争を起こせる状態にしておいて、抑止力にするのだ。
そうしておかないと、信じられないほどの馬鹿が戦争を始めてしまう。
馬鹿を一瞬で皆殺しにできる争いなら望むところだったが、隣国が攻め込めるほど長引く戦争をする気は全くなかった。
多くの人が苦しむ戦争を起こしてしまったら、マリアお嬢様が胸を痛められる。
マリアお嬢様が哀しむような事はできるだけしたくないロレンツォだ。
だから、経済戦争も仕掛けていない。
莫大な資金を使ってロマンシア王国の穀物を買い漁り、食糧難に陥らせる事もなく、物価高騰程度に納めて反王家の機運を盛り上げる事すらしていない。
それでも、僅かな期間で王国は物価高に陥っていた。
ここ数年で穀物と魔獣肉の供給源となっていたガッロ家と断交したのだ。
魔獣肉の供給をガッロ領に頼って近隣領だけでなく、食糧の搬入量が多い王都でも物価が高くなるのは当然の事だった。
更にガッロ大公国と領地を接する領主達は、臨戦態勢を取らなくてはいけない。
近隣領主も公爵代理から大公国宰相に成ったロレンツォが好戦的でない事は知っている
だが同時に、義妹のマリア嬢を溺愛していて、王家に激しい恨みを持っている事を、王侯貴族全員が知っているのだ。
「宰相閣下、貴国との同盟について話し合う機会を設けてもらいたいのだが」
ロマンシア王国と何度も小競り合いを繰り返す某国の使者が話しかけてきた。
誰にも分からないように内密に会談を申し込むのではなく、会場にいる全員に分かるようにそれなりの声で話しかけたことに意味がある。
「何時でも喜んで話し合いさせていただきます。
ただ、建国直後でバタバタしておりますし、ロマンシア王家には逆恨みされていますので、領地を離れる事ができません。
申し訳ないのですが、話し合いの場は国内に限らせていただきます」
ロレンツォが適当に返事をする。
2人とも本気で話しているのではない。
いや、某国の使者はある意味では本気だった。
ガッロ大公家とロマンシア王国の両国を疲弊させる気だった。
某国から見れば、ガッロ大公国も美味しい獲物でしかない。
下手に軍事同盟を組んでしまったら、ロマンシア王国を滅ぼした後で攻めにくい。
だが、こうして軍事同盟の話だけしておけば、ロマンシア王国は勝手に大公国との国境に戦力を張り付けてくれる。
自国との国境戦力も増強されるかもしれないが、元々小競り合いを繰り返していたので、常時それなりの戦力が配備されている。
今更少し戦力が増強されるくらいは誤差でしかない。
それよりは、自国と大公国に戦力を増強した分、他国の国境線に張り付けてある戦力が減るか、王都の戦力が減る事になる。
それを好機と捕らえる国があれば、先に戦争を始める国が現れるかもしれない。
できる事ならロマンシア王国を滅ぼして完全に併合してしまいたい。
だが流石にそれは不可能な話しだ。
現実的に見れば、国境線に近い領地をある程度占領するくらいだ。
だが、1番先に攻め込んだ国が1番激しい抵抗を受ける。
損害を極力減らいたいのなら、先に他の国に攻め込ませるしかない。
そのための策が、公の場で大公国との軍事同盟を話す事だった。
大公国建国宣言が行われた会場中で、そのような謀略にかかわる話がされている。
そんな状況を見たマリアお嬢様は心を痛められる。
帝王教育を受けられたから、そういう謀略も理解されている。
だが、頭で理解しているのと実際にやるのは大きく違う。
マリアお嬢様の心に大きな負担をかけている。
「大公殿下、お疲れでしたら控室で休まれますか?」
「いえ、最後までちゃんと大公の役目を果たします。
ですが、戦争の話は受け入れられません。
大公国が直接かかわらなくても、大公国を利用して戦争を有利にしようとする者が許せません。
何とか中立の立場を取れませんか?
戦争を引きおこさないようにできませんか」
「大公殿下の願いに応えられない非才を申し訳なく思います。
ロマンシア王家は殿下に対する敵意を隠そうともしていません。
殿下に対して行った非道を全てエルザ嬢に押し付け、マルティクスに罪はないと幽閉を解いたのです。
しかもマルティクスは、エルザ嬢を殺さなければいけなくなったのは、殿下が毒を飲まされたと王家を偽った所為だとまで言っているのです。
ガッロ大公家とロマンシア王家は、倶に天を戴く事のできない、不俱戴天の仇となったのです」
ロレンツォもできる限り戦争を回避する方法を考えた。
マリアお嬢様を自殺に追い込んだマルティクス達を皆殺しにした上で、戦争を回避する方法を必死で考えたが、そんな都合の良い方法はなかった。
復讐を諦めるのなら、戦争を回避する方法はある。
だが復讐だけは止められなかった。
復讐も、相手に復讐だと分からせた上で殺さなければいけない。
暗殺でいいのなら、対外戦争を引き起こすことなく復讐できる。
だが、苦しむ事のない安楽な死など絶対に選べない。
そんな死では復讐とは言えない。
だから対外戦争の被害を最小限にする復讐方法を選んだのだ。
「……分かりました、お義兄様でもどうしようもないと言われるのですね」
「はい、私が手を出さないようにしても、向こうが先に仕掛けてきます」
「本当ですね、だったらお義兄様からは絶対に手を出さないと約束してください」
「はい、約束します。
絶対に私から手を出しません」
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