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第一章
第12話:苦心惨憺
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ロマンシア王国暦215年2月8日王都ガッロ公爵邸
ロレンツォは頭を悩ませていた。
側近達には自信満々に言ったが、自分が係わった事をマリアお嬢様に悟られずに、譜代と王家を根絶やしにするのはとても難しかった。
ロレンツォが直接王家を滅ぼす事はもちろん、公爵家の戦力も使えない。
友好的な貴族家を使う事も、冒険者を使う事もできない
迂回して資金や武器を渡して謀叛させたとしても、マリアお嬢様に気付かれてしまう事は明らかだった。
第3王子のヤコブなら謀叛を起こしてもおかしくはないのだが、前後の事件を考えれば、ロレンツォが係わっていると疑われるのは避けられない。
ヤコブの謀叛が成功した後で、ロレンツォがヤコブを殺したら、口封じしたのだと噂されるだろう。
「根絶やしは諦めるか?」
「マリアお嬢様に悟られないように、根絶やしを諦められますか?
分離独立程度に止められますか?
ですが分離独立に止められても、内乱で民が苦しむような事になれば、お嬢様は胸を痛められますよ」
ロレンツォが内政や謀略の為に王都に置いている最側近だけあって、ひと言漏らしただけでロレンツォの考えを悟っていた。
「そうだな、公爵家の民さえ幸せならいい。
そんな風に考えられるマリアお嬢様ではないからな。
全ての人々に幸せになってもらいたい。
そう心から願っておられるからな」
「お嬢様の為に我慢されるのは嫌なのですか?」
「……マリアお嬢様の為ならどんな事だって我慢できる。
だが、お嬢様に自殺を強要したマルティクスだけは絶対に許せない!」
「でしたら、適当な落としどころを探されてはいかがですか?」
「落としどころだと?!
形だけの幽閉で我慢しろと言うのか?!
それも1年も待たずに恩赦で無罪放免だぞ!
マリアお嬢様をフェデリコの側妃にする屈辱を我慢しろ言うのか!」
「閣下、何時もの冷静さを失っておられます」
「……分かった、マリアお嬢様を哀しませないように交渉をしろと言うのだな」
「はい、民が苦しまない方法ならお嬢様も哀しまれません。
直接直ぐに報復するのではなく、時間をかけて徐々に苦しませるのです。
もう既にマルティクスは信望を失っている。
そう申されたのは閣下です。
王も心ある家臣から見放されている。
そう申されたではありませんか」
「分かった、時間をかけて王家が自壊するように罠を仕掛ける。
王家にガッロ公爵家の分離独立を宣言する」
「はい、承りました。
王城に使者を送っておきます。
交流の深い貴族家とも断交する事になります。
別れの挨拶に、舞踏会や晩餐会を開かなくてもいいのですか?」
「マリアお嬢様がまだ仮死状態なのに、そんな事ができるか!
だが、何の挨拶もなしに王都を離れる訳にもいかないな。
お嬢様が当主に成られた時に、俺の礼儀知らずで責められる事があってはならん。
急いで手紙を書くから、正使を送る準備をしていてくれ。
だが、王国軍が攻め込んできた時の準備を優先しろよ」
怒りのあまり普段の智謀を失っていたロレンツォだったが、側近が諫言するだけでなく献策までしてくれたので、冷静さを取り戻した。
冷静な頭で王家を滅亡させるための策を考え直した。
ロマンシア王国から分離独立すると宣言したガッロ公爵家に対して、王国の方から戦いを仕掛けてくれれば、マリアお嬢様をあまり哀しませる事なく王家を滅ぼせる。
王家を滅ぼした事に関しては胸を痛められるだろうが、公爵家の家臣や使用人を護る為に仕方がなかったと思ってくれれば、その痛みは小さくてすむ。
フェデリコが本気になれば、王城など一瞬で瓦礫の山にできる。
王都の民を巻き込むことなく王家を滅ぼすことができる。
だがロレンツォの実力を知っている者は誰もいない。
一緒に狩りに行った事のある元冒険者達も、知っているのは実力の一端だけだ。
王国と公爵家の実力差を知っている王国の首脳部が、愚かな王や傲慢な王族を説得できれば、ロレンツォはマリアお嬢様を護って公爵領に帰る事ができる。
今の公爵領なら、ロマンシア王国との国交を断絶しても全く困らない。
困るのは魔獣肉や生産品を手に入れられなくなる王国側だ。
ロレンツォがその気になったら、膨大な備蓄量の穀物を安価に輸出する事で、王国の農業を壊滅に追い込む事も可能だ。
王国が適切に対応すれば莫大な利益を生む事も可能だが、私利私欲に走る近臣が口にする、抜け道の有る当たり障りのない政策を優先する国王がいるのだ。
まず間違いなく対応に失敗して王国農政を破綻させる。
側近は、そこまで考えて諫言献策したのだった。
普段のロレンツォなら即座に思いつくような策なのに。
側近達は、マリアお嬢様の事が絡むと著しく能力を下げてしまう主君に歯噛みする想いをしていたが、同時に慈愛の精神を持つマリアお嬢様の事も敬愛していた。
「お任せください閣下。
マリアお嬢様を蔑ろにした王家が許せないのは我々も同じでございます。
閣下の名を穢すことなく、お嬢様を哀しませる事もない、王家を陥れる策を考えてご覧に入れます」
「そうか、そこまで言ってくれるのなら、お前達の策を楽しみに待とう」
「ありがたき幸せでございます」
「これは当面の軍資金だ、遠慮せず全て使え。
必要なら幾らでも渡すから遠慮せずに言え」
ロレンツォには側近が考えている策が大体分かっていた。
その策を行うには莫大な資金が必要な事も分かっていた。
だから公爵家の公的資金だけでなく、自分が冒険者時代に稼いだ莫大な秘匿資金も渡したのだ。
本当なら保管してある魔獣も売却して工作資金にしたいのだが、そのためには自分が直接冒険者ギルドに行かなければいけない。
自分が留守にしている間のマリアお嬢様の警備が心配で、一瞬でも公爵屋敷を離れられないロレンツォだった。
ロレンツォは頭を悩ませていた。
側近達には自信満々に言ったが、自分が係わった事をマリアお嬢様に悟られずに、譜代と王家を根絶やしにするのはとても難しかった。
ロレンツォが直接王家を滅ぼす事はもちろん、公爵家の戦力も使えない。
友好的な貴族家を使う事も、冒険者を使う事もできない
迂回して資金や武器を渡して謀叛させたとしても、マリアお嬢様に気付かれてしまう事は明らかだった。
第3王子のヤコブなら謀叛を起こしてもおかしくはないのだが、前後の事件を考えれば、ロレンツォが係わっていると疑われるのは避けられない。
ヤコブの謀叛が成功した後で、ロレンツォがヤコブを殺したら、口封じしたのだと噂されるだろう。
「根絶やしは諦めるか?」
「マリアお嬢様に悟られないように、根絶やしを諦められますか?
分離独立程度に止められますか?
ですが分離独立に止められても、内乱で民が苦しむような事になれば、お嬢様は胸を痛められますよ」
ロレンツォが内政や謀略の為に王都に置いている最側近だけあって、ひと言漏らしただけでロレンツォの考えを悟っていた。
「そうだな、公爵家の民さえ幸せならいい。
そんな風に考えられるマリアお嬢様ではないからな。
全ての人々に幸せになってもらいたい。
そう心から願っておられるからな」
「お嬢様の為に我慢されるのは嫌なのですか?」
「……マリアお嬢様の為ならどんな事だって我慢できる。
だが、お嬢様に自殺を強要したマルティクスだけは絶対に許せない!」
「でしたら、適当な落としどころを探されてはいかがですか?」
「落としどころだと?!
形だけの幽閉で我慢しろと言うのか?!
それも1年も待たずに恩赦で無罪放免だぞ!
マリアお嬢様をフェデリコの側妃にする屈辱を我慢しろ言うのか!」
「閣下、何時もの冷静さを失っておられます」
「……分かった、マリアお嬢様を哀しませないように交渉をしろと言うのだな」
「はい、民が苦しまない方法ならお嬢様も哀しまれません。
直接直ぐに報復するのではなく、時間をかけて徐々に苦しませるのです。
もう既にマルティクスは信望を失っている。
そう申されたのは閣下です。
王も心ある家臣から見放されている。
そう申されたではありませんか」
「分かった、時間をかけて王家が自壊するように罠を仕掛ける。
王家にガッロ公爵家の分離独立を宣言する」
「はい、承りました。
王城に使者を送っておきます。
交流の深い貴族家とも断交する事になります。
別れの挨拶に、舞踏会や晩餐会を開かなくてもいいのですか?」
「マリアお嬢様がまだ仮死状態なのに、そんな事ができるか!
だが、何の挨拶もなしに王都を離れる訳にもいかないな。
お嬢様が当主に成られた時に、俺の礼儀知らずで責められる事があってはならん。
急いで手紙を書くから、正使を送る準備をしていてくれ。
だが、王国軍が攻め込んできた時の準備を優先しろよ」
怒りのあまり普段の智謀を失っていたロレンツォだったが、側近が諫言するだけでなく献策までしてくれたので、冷静さを取り戻した。
冷静な頭で王家を滅亡させるための策を考え直した。
ロマンシア王国から分離独立すると宣言したガッロ公爵家に対して、王国の方から戦いを仕掛けてくれれば、マリアお嬢様をあまり哀しませる事なく王家を滅ぼせる。
王家を滅ぼした事に関しては胸を痛められるだろうが、公爵家の家臣や使用人を護る為に仕方がなかったと思ってくれれば、その痛みは小さくてすむ。
フェデリコが本気になれば、王城など一瞬で瓦礫の山にできる。
王都の民を巻き込むことなく王家を滅ぼすことができる。
だがロレンツォの実力を知っている者は誰もいない。
一緒に狩りに行った事のある元冒険者達も、知っているのは実力の一端だけだ。
王国と公爵家の実力差を知っている王国の首脳部が、愚かな王や傲慢な王族を説得できれば、ロレンツォはマリアお嬢様を護って公爵領に帰る事ができる。
今の公爵領なら、ロマンシア王国との国交を断絶しても全く困らない。
困るのは魔獣肉や生産品を手に入れられなくなる王国側だ。
ロレンツォがその気になったら、膨大な備蓄量の穀物を安価に輸出する事で、王国の農業を壊滅に追い込む事も可能だ。
王国が適切に対応すれば莫大な利益を生む事も可能だが、私利私欲に走る近臣が口にする、抜け道の有る当たり障りのない政策を優先する国王がいるのだ。
まず間違いなく対応に失敗して王国農政を破綻させる。
側近は、そこまで考えて諫言献策したのだった。
普段のロレンツォなら即座に思いつくような策なのに。
側近達は、マリアお嬢様の事が絡むと著しく能力を下げてしまう主君に歯噛みする想いをしていたが、同時に慈愛の精神を持つマリアお嬢様の事も敬愛していた。
「お任せください閣下。
マリアお嬢様を蔑ろにした王家が許せないのは我々も同じでございます。
閣下の名を穢すことなく、お嬢様を哀しませる事もない、王家を陥れる策を考えてご覧に入れます」
「そうか、そこまで言ってくれるのなら、お前達の策を楽しみに待とう」
「ありがたき幸せでございます」
「これは当面の軍資金だ、遠慮せず全て使え。
必要なら幾らでも渡すから遠慮せずに言え」
ロレンツォには側近が考えている策が大体分かっていた。
その策を行うには莫大な資金が必要な事も分かっていた。
だから公爵家の公的資金だけでなく、自分が冒険者時代に稼いだ莫大な秘匿資金も渡したのだ。
本当なら保管してある魔獣も売却して工作資金にしたいのだが、そのためには自分が直接冒険者ギルドに行かなければいけない。
自分が留守にしている間のマリアお嬢様の警備が心配で、一瞬でも公爵屋敷を離れられないロレンツォだった。
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