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第一章
第2話:告発
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ロマンシア王国暦215年2月1日王城大審理の間
「国王陛下、マルティクス・フラヴィオ・ロマンシア王子を、婚約者であるマリア・フラヴィオ・ガッロ公爵令嬢に対する自殺強要の罪で告発させていただきます。
証拠は王子から令嬢に送られた手紙と紙に残った毒薬でございます」
ロレンツォは、自殺強要の罪が権力で握り潰される事の無いように準備していた。
マリアお嬢様が毒を飲んでから二十日以上経つが、怒りの感情は収まるどころか更に燃え上がり、裁判長の席にいる国王に殺意に籠った視線を送るほどだった。
「知らぬ、私はそのような手紙を書いていない」
最初から苛立ちを隠そうともしていなかったマルティクス王子が、被告席から怒鳴りつける。
「公爵家の傍流の分際で、王子である私を告発するは、身の程を知れ!
私が書いていないと言っているにもかかわらず、手紙の写しを学園や社交の場で広めた事、不敬にも程があるぞ!」
「黙りなさい、マルティクス!
ここは高貴な王侯貴族の正邪を確かめる神聖な場なのだ。
王子ともあろう者が、そのように騒ぎ立てた上に、地位を振りかざして訴えを握り潰そうとするなど、恥知らずにも程がある」
国王陛下が不利になるような事を口にする王子を叱りつけた。
少しでも有利な状態で話しを聞いてやりたい親心だったが……
「そんな、父王陛下は私が悪いと申されるのですか?!
公爵家の養子ごときが王子を訴えていいと申されるのですか?!」
国王は内心大きなため息をついていた。
優秀だと聞いていた長男がそれほどでもない事に落胆していた。
「これまで学園で何を学んできたのだ!?
最下級の男爵家であろうと、王侯貴族の誇りを傷つけられた場合は訴えられる。
この程度の事は、学園に入る前に覚えなければならない最低限の知識だぞ?!」
「それは建前なのではありませんか?
公爵家までなら適応されますが、王族には適応されないと聞いております」
ぐっと我慢してきた国王だったが、限界を超えてしまった。
「お前達はこれまで何をしていたのだ?!」
国王はマルティクス王子の側に控えている傅役と教育係に、明らかな叱責を込めて問い質した。
愛する長男を愚かに育てた者達に殺意すら抱いていた。
「恐れながら国王陛下、王妃殿下には何度も奏上させて頂いておりますが、マルティクス王子は我々の諫言や指導を受け入れてくださいません。
何事も自分の都合の良いように捻じ曲げて受け取られるのです。
王子の立場を振りかざして指導を拒否されるのです」
「なんだと?!
王妃に奏上していたというのは間違いないのだな?!」
行き場の無くなった国王の怒りは王妃に向かった。
「この期に及んで嘘偽りなど申しません。
問題になった時の事を考えて、控えも残させて頂いています。
出せと申されるのでしたら、屋敷に残した控えを提出させていただきます」
国王の怒りが一気に萎んでいった。
公式書類に控えを残しておくのは常識だったが、今回はそれだけではなかった。
王子が後に問題を起こすと確信していたからこそ、傅役と教育係は奏上分の控えを大切にとっていたのだ。
そこまでしなければいけないほど、王子は持って生まれた資質に問題があるのだ。
「……マルティクス、傅役と教育係達は、お前が何を教えても自分の都合がいいように捻じ曲げてしまうと言っているが、間違いないか?」
「いえ、この者達は自分の都合の良いように嘘を言っているのです。
私は確かに王家は特別な存在だと聞きました。
特別な存在だからこそ、貴族を従え国を治めているのだと聞きました。
そのような特別な存在である王家の者が、家臣である貴族に訴えられるはずがないではありませんか」
「……ではその王族の中でも特別な存在である余がはっきりと言って聞かせる!
王族であろうと罪を犯した者は訴えられるのだ。
そしてマルティクス、お前はガッロ公爵家から訴えられている」
「その訴えは間違っております。
私はそのような手紙を書いていません。
書いていない手紙を理由に訴えられるのは間違っています」
国王はその場に蹲って頭を抱えたい思いに陥っていた。
王子のあまりに愚かな言動に、泣きたいほど情けない思いだった。
王族の印章には絶大な権力が伴っている。
間違って使われてしまったら、最悪の場合は国が失われる可能性すらあった。
血で血を洗う王位継承権争いの時代には、王族の印章付きの手紙を利用して、王家の血が全く流れていない貴族が国を奪おうとした事すらあったのだ。
そこまではいかなくても、王族の印章を悪用する事で、莫大な金を集める事もできれば、罪のない者を陥れる事もできる。
この場で訴えられている事も、王子の印章と便箋を使った自殺強要なのだ。
印章と便箋が使われている以上、自分は書いていないと言っても通用しない。
本当に誰かに盗まれて利用されていたとしても、それは管理不十分であり、問答無用で重罪に処される、絶対に許されない重大な過失なのだ。
女にだらしない所だけが唯一の欠点と言われている国王だが、子煩悩な所も欠点だったようで、明らかな罪がある王子をどう助けたらいいか頭を悩ませていた。
「国王陛下、マルティクス・フラヴィオ・ロマンシア王子を、婚約者であるマリア・フラヴィオ・ガッロ公爵令嬢に対する自殺強要の罪で告発させていただきます。
証拠は王子から令嬢に送られた手紙と紙に残った毒薬でございます」
ロレンツォは、自殺強要の罪が権力で握り潰される事の無いように準備していた。
マリアお嬢様が毒を飲んでから二十日以上経つが、怒りの感情は収まるどころか更に燃え上がり、裁判長の席にいる国王に殺意に籠った視線を送るほどだった。
「知らぬ、私はそのような手紙を書いていない」
最初から苛立ちを隠そうともしていなかったマルティクス王子が、被告席から怒鳴りつける。
「公爵家の傍流の分際で、王子である私を告発するは、身の程を知れ!
私が書いていないと言っているにもかかわらず、手紙の写しを学園や社交の場で広めた事、不敬にも程があるぞ!」
「黙りなさい、マルティクス!
ここは高貴な王侯貴族の正邪を確かめる神聖な場なのだ。
王子ともあろう者が、そのように騒ぎ立てた上に、地位を振りかざして訴えを握り潰そうとするなど、恥知らずにも程がある」
国王陛下が不利になるような事を口にする王子を叱りつけた。
少しでも有利な状態で話しを聞いてやりたい親心だったが……
「そんな、父王陛下は私が悪いと申されるのですか?!
公爵家の養子ごときが王子を訴えていいと申されるのですか?!」
国王は内心大きなため息をついていた。
優秀だと聞いていた長男がそれほどでもない事に落胆していた。
「これまで学園で何を学んできたのだ!?
最下級の男爵家であろうと、王侯貴族の誇りを傷つけられた場合は訴えられる。
この程度の事は、学園に入る前に覚えなければならない最低限の知識だぞ?!」
「それは建前なのではありませんか?
公爵家までなら適応されますが、王族には適応されないと聞いております」
ぐっと我慢してきた国王だったが、限界を超えてしまった。
「お前達はこれまで何をしていたのだ?!」
国王はマルティクス王子の側に控えている傅役と教育係に、明らかな叱責を込めて問い質した。
愛する長男を愚かに育てた者達に殺意すら抱いていた。
「恐れながら国王陛下、王妃殿下には何度も奏上させて頂いておりますが、マルティクス王子は我々の諫言や指導を受け入れてくださいません。
何事も自分の都合の良いように捻じ曲げて受け取られるのです。
王子の立場を振りかざして指導を拒否されるのです」
「なんだと?!
王妃に奏上していたというのは間違いないのだな?!」
行き場の無くなった国王の怒りは王妃に向かった。
「この期に及んで嘘偽りなど申しません。
問題になった時の事を考えて、控えも残させて頂いています。
出せと申されるのでしたら、屋敷に残した控えを提出させていただきます」
国王の怒りが一気に萎んでいった。
公式書類に控えを残しておくのは常識だったが、今回はそれだけではなかった。
王子が後に問題を起こすと確信していたからこそ、傅役と教育係は奏上分の控えを大切にとっていたのだ。
そこまでしなければいけないほど、王子は持って生まれた資質に問題があるのだ。
「……マルティクス、傅役と教育係達は、お前が何を教えても自分の都合がいいように捻じ曲げてしまうと言っているが、間違いないか?」
「いえ、この者達は自分の都合の良いように嘘を言っているのです。
私は確かに王家は特別な存在だと聞きました。
特別な存在だからこそ、貴族を従え国を治めているのだと聞きました。
そのような特別な存在である王家の者が、家臣である貴族に訴えられるはずがないではありませんか」
「……ではその王族の中でも特別な存在である余がはっきりと言って聞かせる!
王族であろうと罪を犯した者は訴えられるのだ。
そしてマルティクス、お前はガッロ公爵家から訴えられている」
「その訴えは間違っております。
私はそのような手紙を書いていません。
書いていない手紙を理由に訴えられるのは間違っています」
国王はその場に蹲って頭を抱えたい思いに陥っていた。
王子のあまりに愚かな言動に、泣きたいほど情けない思いだった。
王族の印章には絶大な権力が伴っている。
間違って使われてしまったら、最悪の場合は国が失われる可能性すらあった。
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そこまではいかなくても、王族の印章を悪用する事で、莫大な金を集める事もできれば、罪のない者を陥れる事もできる。
この場で訴えられている事も、王子の印章と便箋を使った自殺強要なのだ。
印章と便箋が使われている以上、自分は書いていないと言っても通用しない。
本当に誰かに盗まれて利用されていたとしても、それは管理不十分であり、問答無用で重罪に処される、絶対に許されない重大な過失なのだ。
女にだらしない所だけが唯一の欠点と言われている国王だが、子煩悩な所も欠点だったようで、明らかな罪がある王子をどう助けたらいいか頭を悩ませていた。
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