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第二章

第49話:苛立ち

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 前世の俺は臆病なのに大雑把で怠け者というどうしようもない性格をしていた。
 ただ責任を持たなければいけない立場に成った時だけは、憶病な性格が影響するのか努力できた。

 転生してこの世界で公爵家の長男に生まれてしまったから、家臣領民の生命と財産を背負うことになったから、何とが努力することができただけだ。
 本心では責任だと放り出して隠棲したいのだ。
 なんとか放りださずにすんだのは、前世の記憶と知識があった事と莫大な魔力の才能があった事、なにより領民に感謝されて事で虚栄心が満たされたからだ。

 もしそれらの事がなければ、早々に責任を放り出してどこかに逃げていた。
 今だって常に逃げたい気持ちと責任感のはざまで心が揺れている。
 一度でも大きな失敗をしてしまったら心が折れる自信がある。
 だから王女に婚約破棄されて父にも追放された時は少し安堵感があった。
 とどめに親友だと思っていたトラウゴットに裏切られて時には、何もかも嫌になって責任を放棄していてもおかしくなかった。

 俺が踏みとどまれたのはリヒャルダとフォルカーのお陰だ。
 彼らが命懸けで助けに来てくれていなかったら、そもそも死んでいたと思う。
 生き延びることができていたとしても、責任を放棄して逃げ出していた。
 リヒャルダとフォルカーに恥ずかしい姿を見せたくないという一心だった。
 特にリヒャルダに愛される人間でいたいというのが大きくて、理想の人間を演じ続けているというのが真実だ。

 だから、王女を殺したり王家を滅ぼしたりしたくない。
 これ以上誰かの命や生活を背負いたくないのだ。
 アーベントロート公爵家の家臣領民だけで、もうお腹が一杯だ。
 バッハシュタイン王国の支配下にある貴族や家臣領民まで背負いたくない。
 心からそう思っているからこそ、インゲボー王女を見逃しているのだ。

 なのに、あの愚かな王女は繰り返し刺客を放ちやがる。
 今もアーベントロート公爵領を狙う有力貴族を味方につけようとしている。
 実の父親である国王や、兄や弟まで殺して戴冠しようとしている。
 インゲボー王女は密かにやっているつもりのようだが、俺とリヒャルダの幸せな生活のために、大賢者に王女の行動を監視させているから全部分かっている。

 大賢者、まだ計算が終わらないか

 ピロロロロ

 直ぐに答えがでません。
 本当に愛が1万以下になってもいいのですか。
 現在の愛は601988ですが59万も使っていいのですか。

 構わないから予測してくれ。
 難しいのは分かっているから、時間がかかっても構わない。
 俺が王位に就かないですむ方法で、インゲボー王女の陰謀を防ぐ方法を、俺とリヒャルダが幸せになれる方法を予測してくれ。
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