一度目は悪役令嬢、二度目は鍼灸師、三度目はもう一度悪役令嬢、今度は聖女に陥れられたりしません。

３話

　アイリスは屋敷が寝静まってから抜け出した。
　動きやすい乗馬服に着替えていた。
　貴族の嗜みとして、アイリスも乗馬を学んでいた。
　狩猟にも行ったことがあった。
　王都には貴族のために狩猟場があるのだ。
　当然だがそのための服をアイリスは持っていた。
　公爵家の令嬢として恥ずかしくない服装をたくさん持っていた。

　アイリスの目的は、その狩猟場で秘孔術を試すことだった。
　本当は人間で試したかったが、直ぐに人体実験をするわけにはいかない。
　人体実験の前に、動物実験をする必要がある。
　アイリスの前世は人間専門の鍼灸師だったが、動物の経絡もツボも勉強したことがあるし、ペットの犬や猫に鍼灸治療を施したこともある。

　単に勉強しただけなら、馬に対する鍼灸治療は結構勉強していた。
　単なるペットの鍼灸術よりも、大金がかかっている競走馬の鍼灸治療は、症例数が多く研究も進んでいて、勉強するには面白かったのだ。
　馬なら公爵家にも結構いて、動物実験するにはいいのだが、二度目の人生で堅実な暮らしをしてきたアイリスには、恐ろしいほど高価な軍馬や乗馬を、実験に使うことができなかった。

　アイリスは密かに学んでいた魔法を使い、素早く狩猟場にたどり着いた。
　防御魔法と身体強化魔法を使い、いざという時に備えた。
　そして最初に見つけたキツネを相手に秘孔術の実験をした。
　キツネはイヌ科の動物だから、日本の獣医師と中国の中医が、ペットや家畜用に研究発表した鍼灸論文を参考に、実験を繰り返した。

　だがそうなると、どうしても治療を優先した技になる。
　よくて身体強化身体補助の技になる。
　それも大切なモノだが、攻撃に仕える秘孔術も研究したかった。
　わずかに知っているのは忍者に伝わる三稜針だけで、それだけでは役にたたない。
　知っている全ての経穴を一つ一つ試し、刺す深さと時間を変えて検証する。
　二つ以上の経穴を組み合わせて、刺す順番と深さ、刺している時間を変えて、どんな効果が出るのか試した。

　毎晩狩猟場に通って動物実験を続けた。
　キツネ、タヌキ、ウサギ、イヌ、オオカミ、シカ、イノシシと、動物を変えて検証したが、ついにサルを使って実験することになった。
　この頃には、経穴を刺して敵の身体を破壊する技を見つけていた。
　だが実戦で使うとなれば、殺し合いの最中に、小さな経穴に的確に当て、正しい深さにまで刺し、必要な時間刺し続けなければならない。

　実戦で使うには不便極まりない技だという事が分かった。
　だが知識として面白過ぎた。
　知識欲の強いアイリスは、秘孔術の研究に夢中になっていた。