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「この程度ではダメよ、ジュリア。
もっと本気でかかってきて」
「そうは言われても、お嬢様に傷ひとつつけても、私の首が飛んでしまうのです。
本気でなんて戦えませんよ」
アイリスはとても困っていた。
王太子の婚約者に選ばれてしまったことで、危機感が強くなり、今まで以上に武芸と魔術の訓練をしようとしたのだが、指南役でもある戦闘侍女のジュリアが、二の足を踏んでしまうのだ。
戦闘侍女は特殊な役目だ。
護衛なら屈強な男に任せる方が確実だ。
だが男の護衛が、歴史上何度も大問題を起こしてしまっていた。
王妃の護衛を任された男が、事もあろうに王妃と不義を重ね、王妃に自分の子供を生ませたことがあったのだ。
しかもその自分の子供を、王位につけようと悪事と不忠を重ねたのだ。
歴史上事件として残されているのは、もっとも地位の高い王家の話だが、同じような話は、貴族士族はもちろん、裕福な商家や地主にも伝わっている。
そこで現れたのが、宦官と戦闘侍女という役目だった。
だが宦官は直ぐに問題を起こした。
立身出世のために、男性器を切除するような人間たちだ。
金や権力のために平気で悪事を働いた。
主家を蝕み裏切る事件が頻発した。
結局残ったのが戦闘侍女だった。
女性の仕事が限られ、栄達が難しい世界で、唯一武芸で女が立身出世できるのだ。
主人に認められたら、女ながら一家を構える事ができるのだ。
もっとも、たいがいの場合は自分の子供ではなく、甥を養子として迎えるのだ。
だが主君に恵まれた者は、決婚も許され、自分の子供に家を継がせることができるので、士族に生まれた女性が必ず一度は目指す憧れの役目だ。
その中でも貴族の令嬢を護る役目と、王家の後宮を護る役目は、戦闘侍女の中でも最も憧れられている。
二つの役目とも、王女や貴族令嬢を護る役目柄、舞踏会や晩餐会にも同席しなければいけない。
最も無防備となる化粧室にまでついていく必要がある。
だからそれ相応の地位が与えられることになる。
単なる士族家の令嬢では押しが弱すぎるのだ。
貴族とまではいかなくても、士族家の当主、特に名誉ある騎士の称号を与えておかないと、傍若無人な貴族家当主や令息から、護衛対象の令嬢を護れないのだ。
戦闘侍女のジュリアは、士族位でも一番高い准男爵の地位を与えられていた。
女ながら準男爵家の当主なのだ。
それを維持したいと守りに入る気持ちを、アイリスも責める事はできなかった。
だが同時に、自分の命を危険にさらす事もできない。
そこで考えたのが、深夜密かに屋敷を抜けだし、森に入って鍛錬する事だった。
もっと本気でかかってきて」
「そうは言われても、お嬢様に傷ひとつつけても、私の首が飛んでしまうのです。
本気でなんて戦えませんよ」
アイリスはとても困っていた。
王太子の婚約者に選ばれてしまったことで、危機感が強くなり、今まで以上に武芸と魔術の訓練をしようとしたのだが、指南役でもある戦闘侍女のジュリアが、二の足を踏んでしまうのだ。
戦闘侍女は特殊な役目だ。
護衛なら屈強な男に任せる方が確実だ。
だが男の護衛が、歴史上何度も大問題を起こしてしまっていた。
王妃の護衛を任された男が、事もあろうに王妃と不義を重ね、王妃に自分の子供を生ませたことがあったのだ。
しかもその自分の子供を、王位につけようと悪事と不忠を重ねたのだ。
歴史上事件として残されているのは、もっとも地位の高い王家の話だが、同じような話は、貴族士族はもちろん、裕福な商家や地主にも伝わっている。
そこで現れたのが、宦官と戦闘侍女という役目だった。
だが宦官は直ぐに問題を起こした。
立身出世のために、男性器を切除するような人間たちだ。
金や権力のために平気で悪事を働いた。
主家を蝕み裏切る事件が頻発した。
結局残ったのが戦闘侍女だった。
女性の仕事が限られ、栄達が難しい世界で、唯一武芸で女が立身出世できるのだ。
主人に認められたら、女ながら一家を構える事ができるのだ。
もっとも、たいがいの場合は自分の子供ではなく、甥を養子として迎えるのだ。
だが主君に恵まれた者は、決婚も許され、自分の子供に家を継がせることができるので、士族に生まれた女性が必ず一度は目指す憧れの役目だ。
その中でも貴族の令嬢を護る役目と、王家の後宮を護る役目は、戦闘侍女の中でも最も憧れられている。
二つの役目とも、王女や貴族令嬢を護る役目柄、舞踏会や晩餐会にも同席しなければいけない。
最も無防備となる化粧室にまでついていく必要がある。
だからそれ相応の地位が与えられることになる。
単なる士族家の令嬢では押しが弱すぎるのだ。
貴族とまではいかなくても、士族家の当主、特に名誉ある騎士の称号を与えておかないと、傍若無人な貴族家当主や令息から、護衛対象の令嬢を護れないのだ。
戦闘侍女のジュリアは、士族位でも一番高い准男爵の地位を与えられていた。
女ながら準男爵家の当主なのだ。
それを維持したいと守りに入る気持ちを、アイリスも責める事はできなかった。
だが同時に、自分の命を危険にさらす事もできない。
そこで考えたのが、深夜密かに屋敷を抜けだし、森に入って鍛錬する事だった。
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