上 下
4 / 6
第一章

第4話:逃亡

しおりを挟む
「追え、追え、追え、絶対逃がすな」

 先生が殺されてしまった。
 大臣が人道のためと言って魔族の治療を頼んできた時から、絶対に罠だと思い、先生には近づかないように助言したのだが……
 人間に寝返った魔族なのか、それとも人質でも取られているのか、あるいは魔術で操っていたのか、先生は魔族に奇襲されて殺されてしまった。
 魔族との融和を説いていた先生が、助けようとしていた魔族に殺された状況を作り出せば、愚かな生徒を魔族との戦いに誘導できるだろう……

「あいつは危険だ、絶対に逃すな、殺してしまえ」

 生徒達に聞こえない所まで逃げられたようだ。
 だがその分、遠慮せずに俺を殺すことができるのか、大声をあげている。
 問題は城壁を飛び越えることができるかどうかだ。
 防御結界が展開されていて、逃げ出すことができない可能性がある。
 その時には城門から逃げなければいけないが、絶対に閉められている。
 門番を脅かして開けさせるか、破壊できるか試してみるかだが……
 ここで俺の実力を見せてしまうと、追手は十分な用意を整えてしまうな。

「矢だ、矢を射かけろ、魔術師も攻撃に加われ」

 それにしても、やはり俺達は体裁が整えられた所だけを見せられていたのだな。
 王都の広い地域が見たことのない貧民街になっている。
 貧しい生活なのだろう、痩せ細った人々がボロボロの服を着て、まるで幽鬼のような青白い顔で座り込んでいる。
 ろくに食べる事もできなくて体力がないのだろうな。

 ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン。

 いくつもの矢が俺のいる場所に向かって放たれる。
 飛行術はまだ隠していて、屋根や地面を蹴って素早く翔けているから、狙いは全然正確ではない。
 だが俺の移動する場所に待ち受けるように兵士がいるから、連絡する魔術があるのかもしれないが、予測や予言の魔術はないのだろう。
 もしそんなモノがあるなら、俺は逃亡前に捕まっていたはずだ。

 パッ、パッ、パッ、パッ、パッ。

 魔術の矢が正確に俺をとらえたが、全く痛くない。
 想像力で展開した防御魔法が効果を表している。
 確かめたいわけではないが、この国の伝わる呪文から発動する魔術だけでなく、異世界人が想像で創り出した魔術的現象も効果がある事が確かめられた。
 では、これはどうだ。

 俺は魔法袋から取り出した石を魔力で弾いて、城壁の上を通過できることを確認して、次にこの国の魔術で創り出した魔術矢も通過できる事を確認した。
 それでも万が一の事を考えて、自分が城壁の上を通過するまで、石と魔術矢を放って通過できる事を確認し続けた。
 やった、何とか王都の外に出れたぞ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界から転生

omot
ファンタジー
異世界から私たちのいる世界へと転生してきたソラのお話

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。

八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。  彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。  しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。    ――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。  その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

転生令嬢の幸福論

はなッぱち
ファンタジー
冒険者から英雄へ出世した婚約者に婚約破棄された商家の令嬢アリシアは、一途な想いを胸に人知の及ばぬ力を使い、自身を婚約破棄に追い込んだ女に転生を果たす。 復讐と執念が世界を救うかもしれない物語。

ものひろいの能力もらったけど魔法と恋愛に夢中です。

紫雲くろの
ファンタジー
前代未聞の転生者特典を大量使用、チートVSチートなど今までにないド派手バトル描写が多いので、俺つえーに飽きた人にオススメです。 ごく一般的な社畜だった主人公コウは事故により異世界転生を果たす。 転生特典でもらった一定間隔でランダムにアイテムが手に入る能力”ものひろい”により 序盤にて伝説級アイテムの聖剣を手に入れて世界最強かと思いきや、そこに転生特典を奪う強敵が現れたり、リアルチートの元嫁が来たりと忙しい日々を送る。 チートマシマシ&強敵マシマシ、バトルラブコメ物語。 こちらの作品もよろしくおねがいします。こちらはギャグ増々でお送りしてます。 豪運少女と不運少女 小説家になろう様にも投稿しております。

転生したら、犬だったらよかったのに……9割は人間でした。

真白 悟
ファンタジー
 なんかよくわからないけど、神さまの不手際で転生する世界を間違えられてしまった僕は、好きなものに生まれ変われることになった。  そのついでに、さまざまなチート能力を提示されるが、どれもチートすぎて、人生が面白く無くなりそうだ。そもそも、人間であることには先の人生で飽きている。  だから、僕は神さまに願った。犬になりたいと。犬になって、犬達と楽しい暮らしをしたい。  チート能力を無理やり授けられ、犬(獣人)になった僕は、世界の運命に、飲み込まれていく。  犬も人間もいない世界で、僕はどうすればいいのだろう……まあ、なんとかなるか……犬がいないのは残念極まりないけど

処理中です...