柳生友矩と徳川家光

克全

文字の大きさ
上 下
57 / 57
第三章:謀略

第57話:寵臣

しおりを挟む
1630年9月9日:江戸城中奥:柳生左門友矩17歳

「左門、ああ、左門、絶対に放さない。
 ちゃんとするから、頼り切らないから、ずっと側にいて」

「大丈夫でございます。
 拙者はずっと上様の側にいます。
 上様が悪い癖を出されない限り、諌死する事はありません」

 武断政治の極みとも言うべき駿河、尾張、紀伊の討伐は上様の威信を上げた。
 水戸中納言様が同母兄の罪を認めて謹慎した事が更に上様の威信を高めた。
 もう誰も忠輝公が預かっている大御所様の事を口にしなくなった。

 その忠輝公だが、小田原藩から紀伊藩に加増移封となられた。
 尾張藩は流罪を許された忠直公が、高田藩主となっていた嫡男の仙千代様と共に、高田藩士を率いて入られた。

 空いた高田藩二十五万九千石には水戸中納言が入られた。
 二十八万石から二万千石の減知だが、謀叛人の同母弟が受ける処罰としては軽い。
 ただこれまで流動的だった名乗りは松平に決められてしまわれた。

 空いた水戸藩には上様の御舎弟正之公が入られた。
 更に尾張、紀伊、水戸の三家が徳川を名乗る事となった。

 これで徳川を名乗れるのは、将軍家以外では尾張、紀伊、水戸の三家だけと定まったが、忠輝公と忠直公が大人しく上様に従ってくれるかどうか……。

 正之公が治められていた播磨明石藩十万石は、那和藩三万石の三枝殿が五万石に加増されて移封された。
 残る五万石は三枝殿が代官となって管理される事になった。

 那和藩三万石は朽木殿の加増分とされた。
 ただし以前に与えられていた武蔵相模の賄領一万石は返上する事になり、近江朽木二万石と併せて五万石の城主となられた。

 兄上は尾張徳川家を牽制するために拙者の後に高須藩五万三千石に入っていた。
 今後はもっと危険な忠輝公と忠直公を監視牽制する必要があった。

 そこで高須藩五万三千石に加えて忠輝公が移封された小田原藩から五万石が預けられたが、残りの五万三千石は関東郡代預かりとなった。

 問題は拙者だった。
 尾張と紀伊の討伐軍総大将は拙者だったのだ。
 現場指揮官が二万石から五万石の加増だったから……

 拙者に武功をあげさせたい上様の極端な依怙贔屓だった。
 出羽上山藩四万石だけでなく、下総古河藩十六万二千石も加増されているのだ。
 これ以上の加増は徳川恩顧の譜代衆から酷い妬みを買ってしまう。

「左門はちゃんと武勇を示したではないか!
 何を遠慮する事がある。
 妬み嫉みで陰口を言うような奴は討伐してしまえばいいのだ。
 そうすれば左門の武功が証明される」

「上様、やり過ぎはいけません。
 幾ら大領を頂いても衆道働きで得た領地は殉死して返す事になっております。
 どうせ返す領地など幾らあっても意味がありません」

「……左門には殉死してもらう。
 余一人あの世に行くのは寂しい。
 他の者はともかく、左門だけは余と共にあの世に行くのだ」

「分かっております。
 悪癖の時も死を賭して諫言させて頂いたのです。
 上様の亡くなれらた後に生き残ろうとは思いません」

「……だったら、妻を娶り子供を作ることを許す。
 妻を愛する事は許さぬが、子供を作る事だけは許す。
 一人、いや、男子二人だけは子供を作ることを許す。
 それ以降は子供を作ることを許さん!」

「上様、有難き幸せでございます。
 これからも誠心誠意お仕えさせていただきます」

「だから、もっと愛して!
 深く激しく痛いくらい愛して!」

「上様の思し召しのままに」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...