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第三章:謀略
第56話:討伐
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1630年5月7日:江戸城中奥:柳生左門友矩17歳
拙者達が上様に死を賭した諫言してからの動きは異常だった。
良く上様が謀殺されなかったと思う。
六人衆を中心に忠輝公や正之公が動いたのが大きかったのだろう。
いや、表の動きだけではここまでの事はできなかった。
春日局を中心とした大奥の動きや、千姫や勝姫といった女達が裏で動いてくれたからこそ、有力大名が全員上様に味方したし譜代大名も裏切らなかった。
最初に駿河大納言様が江の不義の子として処刑された。
加藤肥後守は謀叛に加わったと改易流刑となったが、処刑は回避された。
正室が東照神君の孫姫で、嫡男が外曾孫だからだ。
上様は返す刀で尾張徳川家を討伐する軍を起こされた。
駿河大納言が不義の子だと知っていたのに、謀叛に手を貸したという罪でだ。
尾張公も最初は抗弁していたが、遂には幕府相手に戦おうとされた。
紀伊公は勿論、多くの大名にも参陣を呼び掛けた。
上様に幽閉されている大御所様を助け出して幕政を正すとい言い分でだ。
だが、誰も味方しなかった。
紀伊公も勝ち目無しと考えて幕府に味方しようとされた。
加賀前田家を筆頭に有力外様衆が全員幕府についたのだから当然だ。
忠輝公と正之公だけでなく、流罪となっていた忠直公を越前一門の頭領と認めて復帰させ、北陸方面軍を率いさせたのが大きかった。
これまで大御所に踏みつけられていた一門が表舞台に戻れることを示したのだ。
戦々恐々としていた豊臣所縁の大名達が命を賭けて上様の忠誠を示そうとした。
いや、それだけでなく、駿河大納言様に仕えていた家臣達も参陣した。
元々幕臣なのに、大御所の命令で仕方なく駿河大納言様付となったのだ。
駿河大納言様と江の失態のせいで処刑されたり改易されたりは嫌だろう。
だが、それにしても、拙者が指揮を執っていいのかと思ったが、上様の命令ならば仕方がない。
忠長公の家臣が上様の味方に付けば、上様の言い分の方が正し事になるし……
尾張討伐軍の先陣は拙者が承った。
本来なら主君に連座して処刑もしくは切腹を命じられる者達。
駿河大納言忠長公に仕えていた者達が命懸けで尾張徳川軍と戦った。
尾張徳川軍は、最初は堅城の誉れ高い名古屋城に籠城しようとした。
だが、幕府の大筒全てを使った砲撃を受けて籠城を続けられなくなった。
幕府から付けられた家老や給人家臣が裏切るという噂を流したのも大きかった。
現に目の前に、駿河大納言忠長公に仕えていた家老や給人家臣が名古屋城を責めているのだから説得力がある。
籠城を続けても勝ち目がないと判断した尾張公は全軍を率いて討って出られた。
その勢いは凄かったが、自分が名誉の戦死をとげれば子弟が幕府の旗本に戻れると言われた、駿河大納言忠長公の元家臣達も凄かった。
尾張徳川軍と拙者の率いる軍が激突した。
最初は拙者の軍が一方的に鉄砲で叩いた。
駿府軍、古河軍、幕府御先手組鉄砲軍、鉄砲百人組軍の連合射撃だ。
尾張徳川軍は拙者の軍に辿り着く前に完全に戦意を失った。
それくらい激しい堅固な陣地からの鉄砲射撃だった。
安全な陣地からの一方的な連側射撃が有効だと頭では分かっていたが、実際に自分で指揮してみて、想像以上に凄まじい攻撃だった。
戦意を失って散り散りに逃げようとする尾張軍を、小姓組番、書院番、小十人番、新番が徹底的に叩き殺していく。
現場指揮を執っていた、上様子飼いの六人衆が手柄を独占したのだ。
だが六人衆が手柄を独占しては、大名旗本衆から恨みを買う事になる。
公平な指揮官なら、ちゃんと全員に手柄を立てる機会を与えなければならない。
その場が紀伊徳川家だった。
上様は返す刀で参陣を許さなかった紀伊徳川家に詰問使を送られた。
紀伊公は必死で弁明されたが、駿河大納言様に送った手紙を出され、信じていた家臣に裏切られて進退窮まられた。
『幕府に帰参したい者は討伐軍に加われ、名を残したい者だけ余と共に城に残れ』と言われた紀伊公は、四十日間籠城した後で討ってでられた。
討って出られた紀伊公を、迎え討つ幕府軍の先陣として手柄を得る機会を与えられたのは、忠輝公と正之公、越前一門を率いる忠直公の三人だった。
三人に組み込まれた全大名も多少なりとも手柄を得る機会を与えられた。
紀伊公は華々しく戦われたが、最後は家臣の介錯で切腹された。
ここに尾張尾徳川家と紀伊徳川家は一度滅ぶ事となった。
だがそれだけでは終わらなかった。
水戸にいる松平中納言は紀伊公の同母弟なのだ。
上様も複雑な心境で悩まれたと思う。
大御所様から学友とされた歳の近い叔父なのだ。
大御所様が付けた監視役と思う時もあれば、一歳上の幼馴染と思う時もある。
だがここで松平中納言から謹慎願いが上様に出された。
同母兄が上様に謀叛を企てて誅殺されたのだ。
何の処罰も受けない訳にはいかないと、自ら謹慎を願い出られたのだ。
これで上様が温情を与えたえる事も厳罰を加える事もできる。
同母弟を理由にすれば厳罰を与えられる。
殊勝である事と叔父である事を理由にすれば温情をかけられる。
残る問題は潰した四つの大藩をどうするのかだ。
特に将軍家を護る藩屏として作られた駿府、尾張、紀伊をどう扱うのか?
拙者達が上様に死を賭した諫言してからの動きは異常だった。
良く上様が謀殺されなかったと思う。
六人衆を中心に忠輝公や正之公が動いたのが大きかったのだろう。
いや、表の動きだけではここまでの事はできなかった。
春日局を中心とした大奥の動きや、千姫や勝姫といった女達が裏で動いてくれたからこそ、有力大名が全員上様に味方したし譜代大名も裏切らなかった。
最初に駿河大納言様が江の不義の子として処刑された。
加藤肥後守は謀叛に加わったと改易流刑となったが、処刑は回避された。
正室が東照神君の孫姫で、嫡男が外曾孫だからだ。
上様は返す刀で尾張徳川家を討伐する軍を起こされた。
駿河大納言が不義の子だと知っていたのに、謀叛に手を貸したという罪でだ。
尾張公も最初は抗弁していたが、遂には幕府相手に戦おうとされた。
紀伊公は勿論、多くの大名にも参陣を呼び掛けた。
上様に幽閉されている大御所様を助け出して幕政を正すとい言い分でだ。
だが、誰も味方しなかった。
紀伊公も勝ち目無しと考えて幕府に味方しようとされた。
加賀前田家を筆頭に有力外様衆が全員幕府についたのだから当然だ。
忠輝公と正之公だけでなく、流罪となっていた忠直公を越前一門の頭領と認めて復帰させ、北陸方面軍を率いさせたのが大きかった。
これまで大御所に踏みつけられていた一門が表舞台に戻れることを示したのだ。
戦々恐々としていた豊臣所縁の大名達が命を賭けて上様の忠誠を示そうとした。
いや、それだけでなく、駿河大納言様に仕えていた家臣達も参陣した。
元々幕臣なのに、大御所の命令で仕方なく駿河大納言様付となったのだ。
駿河大納言様と江の失態のせいで処刑されたり改易されたりは嫌だろう。
だが、それにしても、拙者が指揮を執っていいのかと思ったが、上様の命令ならば仕方がない。
忠長公の家臣が上様の味方に付けば、上様の言い分の方が正し事になるし……
尾張討伐軍の先陣は拙者が承った。
本来なら主君に連座して処刑もしくは切腹を命じられる者達。
駿河大納言忠長公に仕えていた者達が命懸けで尾張徳川軍と戦った。
尾張徳川軍は、最初は堅城の誉れ高い名古屋城に籠城しようとした。
だが、幕府の大筒全てを使った砲撃を受けて籠城を続けられなくなった。
幕府から付けられた家老や給人家臣が裏切るという噂を流したのも大きかった。
現に目の前に、駿河大納言忠長公に仕えていた家老や給人家臣が名古屋城を責めているのだから説得力がある。
籠城を続けても勝ち目がないと判断した尾張公は全軍を率いて討って出られた。
その勢いは凄かったが、自分が名誉の戦死をとげれば子弟が幕府の旗本に戻れると言われた、駿河大納言忠長公の元家臣達も凄かった。
尾張徳川軍と拙者の率いる軍が激突した。
最初は拙者の軍が一方的に鉄砲で叩いた。
駿府軍、古河軍、幕府御先手組鉄砲軍、鉄砲百人組軍の連合射撃だ。
尾張徳川軍は拙者の軍に辿り着く前に完全に戦意を失った。
それくらい激しい堅固な陣地からの鉄砲射撃だった。
安全な陣地からの一方的な連側射撃が有効だと頭では分かっていたが、実際に自分で指揮してみて、想像以上に凄まじい攻撃だった。
戦意を失って散り散りに逃げようとする尾張軍を、小姓組番、書院番、小十人番、新番が徹底的に叩き殺していく。
現場指揮を執っていた、上様子飼いの六人衆が手柄を独占したのだ。
だが六人衆が手柄を独占しては、大名旗本衆から恨みを買う事になる。
公平な指揮官なら、ちゃんと全員に手柄を立てる機会を与えなければならない。
その場が紀伊徳川家だった。
上様は返す刀で参陣を許さなかった紀伊徳川家に詰問使を送られた。
紀伊公は必死で弁明されたが、駿河大納言様に送った手紙を出され、信じていた家臣に裏切られて進退窮まられた。
『幕府に帰参したい者は討伐軍に加われ、名を残したい者だけ余と共に城に残れ』と言われた紀伊公は、四十日間籠城した後で討ってでられた。
討って出られた紀伊公を、迎え討つ幕府軍の先陣として手柄を得る機会を与えられたのは、忠輝公と正之公、越前一門を率いる忠直公の三人だった。
三人に組み込まれた全大名も多少なりとも手柄を得る機会を与えられた。
紀伊公は華々しく戦われたが、最後は家臣の介錯で切腹された。
ここに尾張尾徳川家と紀伊徳川家は一度滅ぶ事となった。
だがそれだけでは終わらなかった。
水戸にいる松平中納言は紀伊公の同母弟なのだ。
上様も複雑な心境で悩まれたと思う。
大御所様から学友とされた歳の近い叔父なのだ。
大御所様が付けた監視役と思う時もあれば、一歳上の幼馴染と思う時もある。
だがここで松平中納言から謹慎願いが上様に出された。
同母兄が上様に謀叛を企てて誅殺されたのだ。
何の処罰も受けない訳にはいかないと、自ら謹慎を願い出られたのだ。
これで上様が温情を与えたえる事も厳罰を加える事もできる。
同母弟を理由にすれば厳罰を与えられる。
殊勝である事と叔父である事を理由にすれば温情をかけられる。
残る問題は潰した四つの大藩をどうするのかだ。
特に将軍家を護る藩屏として作られた駿府、尾張、紀伊をどう扱うのか?
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