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第三章:謀略
第54話:依怙贔屓
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1628年8月2日:江戸城中奥:柳生左門友矩15歳
「左門には小姓組番と書院番を全て任せたい」
「上様、流石にそれはやり過ぎでございます」
「何を申す、大番方以外の番方は六人衆の支配としたのだ。
その六人衆のなかでも余が最も信頼するのは左門じゃ。
左門以外の誰に余の親衛隊を任せよと申すのか?!」
「松平伊豆守と阿部豊後守がいます。
兄は勿論ですが、朽木民部少輔と三枝左衛門佐がいます」
兄上と拙者は何の処分も受けずに生きている。
困った事だが、上様が依怙贔屓して無理矢理処分されないようにしたのだ。
堀田と金森は許し難い不忠があって上意討ちにされた事になった。
つまり、兄上と拙者が独断で殺した堀田と金森は、上様の命令で拙者達が殺した事になったのだ。
上様の身勝手には本当に困るが、うれしいとも思ってしまう。
「朽木民部少輔には御先手組を任そうと思っている」
上様は幕府の番方をできるだけ子飼いの支配下に置こうとしているようだ。
年寄衆に邪魔されることなく幕政を思いのままにしたいのだろう。
有力大名に対する威嚇もあるのかもしれないが、もう気にする事はないと思う。
「三枝左衛門佐には何を任されるのですか?」
三枝殿を含めた拙者達六人衆は従五位上となった。
まあ拙者は以前から従五位上だったのだが、その分別で依怙贔屓されてしまった。
依怙贔屓は官位だけでなく領地と名乗りもだ。
朽木殿は先祖代々名乗っている民部少輔に拘られたが、他の者達は官位にふさわしい名乗りに変える事になった。
「鉄砲百人組四つを預ける事になる」
上様は幕府の鉄砲戦力を全て子飼いで固める気だ。
ならば拙者が何一つ預からないという訳にはいかない。
だが小姓組番と書院番の二つとも預かるというのはやり過ぎだ。
「上様、小姓組番は預からせていただきますが、書院番は別の方にお任せください。
二つとも預かるのは拙者の分を超えております」
「駄目じゃ、余の親衛隊を預かるのは左門以外にはない」
「親衛隊と申されるのでしたら、小十人と新番も近習と言っていい立場です。
それぞれを六人衆が分け持つべきだと思います」
「駄目じゃ、伊豆守と豊後守は才はあるが心からの信頼はない。
二人に直接番方を預ける気にはなれぬ。
二人は政務を中心に仕えてもらう。
左門には両番を、十兵衛には新番と小十人組を任せる」
困った、本当に困った。
上様の言う事が完全に間違っている訳ではない。
だがもう少し他の者も信じてもらいたい。
いや、堀田と金森の事を考えれば信じきれないのもしかたがないか?
上様の性癖を利用して幕政を私しようとする者がいたのだ。
それでなくても親の愛を信じられない上様が、更に人間不信になってしまうのも当然だった。
ここは上様が無条件で信じられる者達だけで諫言すべきか?
それとも今回は上様のしたいようにして頂くべきか?
忠輝公や正之も交えて話し合うべきだろう。
「上様、両番方の支配を正式に広められるのは今暫らくお待ちください。
それでなくとも拙者は異常な加増を受けているのです。
これ以上の権力は身を滅ぼしてしまいます。
兄上達と相談して、上様の意に沿う形で何か方法を考えてみます」
「左門がそこまで申すのならしばらくだけ待ってやろう。
だが幕府の番方を四人が分け持つ事だけは絶対じゃ。
大御所と忠長が生きている限り妥協は許さん!」
「分かっております。
父上からも尾張と紀伊が不穏な動きをしていると聞いております。
配下の伊賀者達からも加藤家が不審な動きをしていると知らせがありました。
誰がどの番方を受け持つか、四人で話し合わせていただきます」
松平忠輝37歳:相模小田原藩五万石・従四位下・上総介・左近衛権少将
:十万三千石に加増・権中納言となる
松平正之18歳:播磨明石藩十万石・従五位下・肥後守
保科正光65歳:信濃高遠藩四万石(保科正之改め松平正之の付家老)
:従五位下・肥後守
柳生宗矩58歳:総目付:一万三千石陣屋大名
:従五位下・但馬守から大和守となる
:築城権を与えられ陣屋大名から城主大名と成る
三枝守恵33歳:小姓組番頭:一万石陣屋大名:上野を中心に点在
那和藩 :三枝虎吉の孫、三枝昌吉の五男
那和陣屋 :父昌吉が辞退した上野一万石で大名になる
:取り潰された上野豊岡藩一万石を加増されて二万石に。
:従五位下・但馬守から従五位上・左衛門佐となる。
:周辺の天領を一万石加増して三万石となる。
朽木稙綱23歳:小姓組番頭:一万石陣屋大名:近江朽木を中心に点在
朽木藩 :朽木元綱が関ヶ原で石田三成を裏切って許されるが減封
朽木谷城 :二万石から九九五〇石にされる
:兄二人を押しのけて当主になるのではなく、別家として継ぐ
:本家は九九五〇石の旗本として移封される。
:軍功により武蔵相模の飛び地一万石を加増されて二万石となる。
:従五位下・民部少輔から従五位上となる。
:近江の幕領旗本領を再偏して一万石加増の三万石となる。
:江戸費用の蔵相模の飛び地一万石はそのまま。
柳生三厳22歳:書院番頭:一万石陣屋大名:武蔵に点在
:軍功により一万石加増されて武蔵六浦藩に転封二万石となる。
:築城権が与えられた。
:従五位下・大和介
:長弟友矩の美濃高須藩五万三千石を引き継ぎ三万三千石の加増。
柳生友矩15歳:出羽上山藩四万石
上山城 :従五位上・上野介
:出羽上山藩四万石に加えて美濃高須藩五万三千石分加増。
:美濃高須藩五万三千石から下総古河藩十六万二千石に加増
:出羽上山藩四万石はそのまま領地とされる
「左門には小姓組番と書院番を全て任せたい」
「上様、流石にそれはやり過ぎでございます」
「何を申す、大番方以外の番方は六人衆の支配としたのだ。
その六人衆のなかでも余が最も信頼するのは左門じゃ。
左門以外の誰に余の親衛隊を任せよと申すのか?!」
「松平伊豆守と阿部豊後守がいます。
兄は勿論ですが、朽木民部少輔と三枝左衛門佐がいます」
兄上と拙者は何の処分も受けずに生きている。
困った事だが、上様が依怙贔屓して無理矢理処分されないようにしたのだ。
堀田と金森は許し難い不忠があって上意討ちにされた事になった。
つまり、兄上と拙者が独断で殺した堀田と金森は、上様の命令で拙者達が殺した事になったのだ。
上様の身勝手には本当に困るが、うれしいとも思ってしまう。
「朽木民部少輔には御先手組を任そうと思っている」
上様は幕府の番方をできるだけ子飼いの支配下に置こうとしているようだ。
年寄衆に邪魔されることなく幕政を思いのままにしたいのだろう。
有力大名に対する威嚇もあるのかもしれないが、もう気にする事はないと思う。
「三枝左衛門佐には何を任されるのですか?」
三枝殿を含めた拙者達六人衆は従五位上となった。
まあ拙者は以前から従五位上だったのだが、その分別で依怙贔屓されてしまった。
依怙贔屓は官位だけでなく領地と名乗りもだ。
朽木殿は先祖代々名乗っている民部少輔に拘られたが、他の者達は官位にふさわしい名乗りに変える事になった。
「鉄砲百人組四つを預ける事になる」
上様は幕府の鉄砲戦力を全て子飼いで固める気だ。
ならば拙者が何一つ預からないという訳にはいかない。
だが小姓組番と書院番の二つとも預かるというのはやり過ぎだ。
「上様、小姓組番は預からせていただきますが、書院番は別の方にお任せください。
二つとも預かるのは拙者の分を超えております」
「駄目じゃ、余の親衛隊を預かるのは左門以外にはない」
「親衛隊と申されるのでしたら、小十人と新番も近習と言っていい立場です。
それぞれを六人衆が分け持つべきだと思います」
「駄目じゃ、伊豆守と豊後守は才はあるが心からの信頼はない。
二人に直接番方を預ける気にはなれぬ。
二人は政務を中心に仕えてもらう。
左門には両番を、十兵衛には新番と小十人組を任せる」
困った、本当に困った。
上様の言う事が完全に間違っている訳ではない。
だがもう少し他の者も信じてもらいたい。
いや、堀田と金森の事を考えれば信じきれないのもしかたがないか?
上様の性癖を利用して幕政を私しようとする者がいたのだ。
それでなくても親の愛を信じられない上様が、更に人間不信になってしまうのも当然だった。
ここは上様が無条件で信じられる者達だけで諫言すべきか?
それとも今回は上様のしたいようにして頂くべきか?
忠輝公や正之も交えて話し合うべきだろう。
「上様、両番方の支配を正式に広められるのは今暫らくお待ちください。
それでなくとも拙者は異常な加増を受けているのです。
これ以上の権力は身を滅ぼしてしまいます。
兄上達と相談して、上様の意に沿う形で何か方法を考えてみます」
「左門がそこまで申すのならしばらくだけ待ってやろう。
だが幕府の番方を四人が分け持つ事だけは絶対じゃ。
大御所と忠長が生きている限り妥協は許さん!」
「分かっております。
父上からも尾張と紀伊が不穏な動きをしていると聞いております。
配下の伊賀者達からも加藤家が不審な動きをしていると知らせがありました。
誰がどの番方を受け持つか、四人で話し合わせていただきます」
松平忠輝37歳:相模小田原藩五万石・従四位下・上総介・左近衛権少将
:十万三千石に加増・権中納言となる
松平正之18歳:播磨明石藩十万石・従五位下・肥後守
保科正光65歳:信濃高遠藩四万石(保科正之改め松平正之の付家老)
:従五位下・肥後守
柳生宗矩58歳:総目付:一万三千石陣屋大名
:従五位下・但馬守から大和守となる
:築城権を与えられ陣屋大名から城主大名と成る
三枝守恵33歳:小姓組番頭:一万石陣屋大名:上野を中心に点在
那和藩 :三枝虎吉の孫、三枝昌吉の五男
那和陣屋 :父昌吉が辞退した上野一万石で大名になる
:取り潰された上野豊岡藩一万石を加増されて二万石に。
:従五位下・但馬守から従五位上・左衛門佐となる。
:周辺の天領を一万石加増して三万石となる。
朽木稙綱23歳:小姓組番頭:一万石陣屋大名:近江朽木を中心に点在
朽木藩 :朽木元綱が関ヶ原で石田三成を裏切って許されるが減封
朽木谷城 :二万石から九九五〇石にされる
:兄二人を押しのけて当主になるのではなく、別家として継ぐ
:本家は九九五〇石の旗本として移封される。
:軍功により武蔵相模の飛び地一万石を加増されて二万石となる。
:従五位下・民部少輔から従五位上となる。
:近江の幕領旗本領を再偏して一万石加増の三万石となる。
:江戸費用の蔵相模の飛び地一万石はそのまま。
柳生三厳22歳:書院番頭:一万石陣屋大名:武蔵に点在
:軍功により一万石加増されて武蔵六浦藩に転封二万石となる。
:築城権が与えられた。
:従五位下・大和介
:長弟友矩の美濃高須藩五万三千石を引き継ぎ三万三千石の加増。
柳生友矩15歳:出羽上山藩四万石
上山城 :従五位上・上野介
:出羽上山藩四万石に加えて美濃高須藩五万三千石分加増。
:美濃高須藩五万三千石から下総古河藩十六万二千石に加増
:出羽上山藩四万石はそのまま領地とされる
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