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第三章:謀略
第49話:酒井讃岐守忠勝
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1627年9月29日:江戸城中奥:柳生左門友矩14歳
「上様、今一度御考え直しいただけないでしょうか?」
「大御所に今一度余を殺す機会を与えよと申すのか?」
「そのような事は私の命に賭けて絶対にやらせません。
これまでも上様の命を奪わせるような事はさせませんでした」
「讃岐守が余を守ろうとしてくれていた事は知っている。
だが実際に刀を振るい鉄砲を放って助けてくれたのは柳生だけだ。
讃岐守が裏で大御所や江と繋がっていなかったとは断言できぬ。
禍根を断つために大御所を殺そうとするのを邪魔するという事は、余よりも大御所に忠誠を誓っているという事だ」
「私の忠誠は徳川家に捧げられております。
東照神君に選ばれた上様と大御所様に捧げられております」
「余はともかく、大御所は東照神君が御しやすい憶病者を選ばれただけだ。
そのような者に忠誠を尽くすと口にするようでは、真に徳川家に忠誠を誓っているとは言えぬ」
「天地神明に誓って私の忠誠心に嘘偽りはありません。
大御所様を無罪放免にした方が良いとは申しません。
しかしながら、謀叛の罪で殺すのは幾ら何でもやり過ぎでございます。
足利幕府と同じように内乱を起こしてはなりません」
「足利と同じように内乱を起こさない為に、断固として殺すのだ」
「しかしながら、それでは駿河大納言様が兵を挙げてしまわれます。
実の父親を殺した大罪人を討つという大義名分を掲げ、三百諸侯に味方を募り、上様を殺そうとします。
そうなっては天下を二分する大乱になってしまいます」
「忠長の大嘘と野望を知って味方するような者は、御三家であろうと許さん。
徳川八万騎を率いて滅ぼしてくれる」
「徳川八万騎、その全てが上様にお味方するとは限りません」
「既に死んでいる大御台所の尻に敷かれるような大御所に味方する者など、先祖がどれほどの功臣であろうと一族一門全て根絶やしにしてくれる!」
「上様、東照神君も忠輝公を謀叛の罪で流罪にされましたが、処刑まではされませんでした。
上様も東照神君の後継者を名乗られるのでしたら、大御所様を処刑するのではなく流罪にされるべきだと思います」
「流罪先の大御所を救い出して叛乱を起こそうというのか?」
「情けない事を申されますな!
そのような事は絶対にしません!
上様が信じられない者に大御所様を預けろとは申しません。
上様が心から信頼する者にお預けになればいいのです」
「余が心から信頼する者に預けろだと?
そのような者などおらぬ。
寵愛する者はいるが、心から信頼する者などおらぬ」
「上様……」
昼の上様は本当に優秀だし演技も上手い。
寝所でけつを差し出してせがむ上様を知らなければ、誰一人信頼する者がいないという上様の言葉を信用してしまう。
「上様が大領を与えた元小姓達はどうなるのですか?!
心から信頼しているから領地を与え戦力を整えさせたのではないのですか?!」
「十兵衛や左門達を寵愛して信じているのは確かだ。
だが、その信用は大御所を預けられるほどの信頼ではない。
大御所が余に付けた年寄り達ですら、余を殺そうとする大御所と江を止めることなく見て見ぬ振りを続けたのだ。
自らの命をかえりみずに余の事を助けてくれたのは春日局だけだ。
讃岐守も命懸けで忠長の愚行を止めさせてくれたが、それは女中を止めただけで忠長自身を叱責したわけではない」
「……上様が心から信頼しているのは柳生家の者達だけなのですね。
信頼しているからこそ、わざわざ柳生家の者達の名前を出して、心からの信頼ではないと断言されたのですね。
大御所様を柳生家に預ければ、彼らが真っ先に命狙われると考え、それだけはさせまいとされておられるのですね」
「ふん、余の考えを見抜いたような事を口にするな!
それよりも自分の事を考えろ!
余を殺そうとする大御所と江を見逃し続けたのだ。
死を賜るのは当然だと思わぬか?」
「この命一つで大御所様の命と上様の評判、天下の大乱を防ぐことができるのなら安い物でございます」
「もう止めよ。
讃岐守が何を言うおうと大御所を処刑する事は変わらぬ。
余を殺そうとする者を見逃すほど余は甘くない」
「上様、今一度御考え直しして頂けないでしょうか?
大御所様を生かしながら上様の安全を確保する方法が必ずあるはずです。
左門殿、どうか上様をお止めしてくれ。
貴君の言う事なら上様も聞いてくださるかもしれない。
もう大御台所様は亡くなられているのだ。
大御所様の威信も地に落ちてしまっている。
大御所様と大御台所様に甘やかされ続けた駿河大納言様の評判も悪くなっている。
柳生が仕掛けた謀略は十分効果をだしている。
もう上様の治世を脅かす者などいないのだ。
だから大御所様を弑い奉るのを止めてくれ」
「黙れ讃岐守!
これ以上左門に無理難題を申したら、忠長はお前と江の不義の子とするぞ!
お前と家族だけでなく、本家の酒井雅楽頭家も一族一門皆殺しにするぞ!」
やれ、やれ、他の者がいる前ではできるだけ口出ししたくはなかったのだが……
「上様、そのように感情的になられてはいけません。
讃岐守殿が上様のために命を賭けられたのは間違いのない事でございます。
忠臣の命を賭けた諫言には耳を傾けるべきでございます」
「左門、お前まで余を裏切るのか?!」
「拙者が上様を裏切る事は絶対にありません。
大御所様が絶対に逃げられないように、誰も助ける事ができないよう、上様の命を狙わせないようにする方法がございます。
いえ、大御所を殺すよりも上様が満足される方法がございます」
「上様、今一度御考え直しいただけないでしょうか?」
「大御所に今一度余を殺す機会を与えよと申すのか?」
「そのような事は私の命に賭けて絶対にやらせません。
これまでも上様の命を奪わせるような事はさせませんでした」
「讃岐守が余を守ろうとしてくれていた事は知っている。
だが実際に刀を振るい鉄砲を放って助けてくれたのは柳生だけだ。
讃岐守が裏で大御所や江と繋がっていなかったとは断言できぬ。
禍根を断つために大御所を殺そうとするのを邪魔するという事は、余よりも大御所に忠誠を誓っているという事だ」
「私の忠誠は徳川家に捧げられております。
東照神君に選ばれた上様と大御所様に捧げられております」
「余はともかく、大御所は東照神君が御しやすい憶病者を選ばれただけだ。
そのような者に忠誠を尽くすと口にするようでは、真に徳川家に忠誠を誓っているとは言えぬ」
「天地神明に誓って私の忠誠心に嘘偽りはありません。
大御所様を無罪放免にした方が良いとは申しません。
しかしながら、謀叛の罪で殺すのは幾ら何でもやり過ぎでございます。
足利幕府と同じように内乱を起こしてはなりません」
「足利と同じように内乱を起こさない為に、断固として殺すのだ」
「しかしながら、それでは駿河大納言様が兵を挙げてしまわれます。
実の父親を殺した大罪人を討つという大義名分を掲げ、三百諸侯に味方を募り、上様を殺そうとします。
そうなっては天下を二分する大乱になってしまいます」
「忠長の大嘘と野望を知って味方するような者は、御三家であろうと許さん。
徳川八万騎を率いて滅ぼしてくれる」
「徳川八万騎、その全てが上様にお味方するとは限りません」
「既に死んでいる大御台所の尻に敷かれるような大御所に味方する者など、先祖がどれほどの功臣であろうと一族一門全て根絶やしにしてくれる!」
「上様、東照神君も忠輝公を謀叛の罪で流罪にされましたが、処刑まではされませんでした。
上様も東照神君の後継者を名乗られるのでしたら、大御所様を処刑するのではなく流罪にされるべきだと思います」
「流罪先の大御所を救い出して叛乱を起こそうというのか?」
「情けない事を申されますな!
そのような事は絶対にしません!
上様が信じられない者に大御所様を預けろとは申しません。
上様が心から信頼する者にお預けになればいいのです」
「余が心から信頼する者に預けろだと?
そのような者などおらぬ。
寵愛する者はいるが、心から信頼する者などおらぬ」
「上様……」
昼の上様は本当に優秀だし演技も上手い。
寝所でけつを差し出してせがむ上様を知らなければ、誰一人信頼する者がいないという上様の言葉を信用してしまう。
「上様が大領を与えた元小姓達はどうなるのですか?!
心から信頼しているから領地を与え戦力を整えさせたのではないのですか?!」
「十兵衛や左門達を寵愛して信じているのは確かだ。
だが、その信用は大御所を預けられるほどの信頼ではない。
大御所が余に付けた年寄り達ですら、余を殺そうとする大御所と江を止めることなく見て見ぬ振りを続けたのだ。
自らの命をかえりみずに余の事を助けてくれたのは春日局だけだ。
讃岐守も命懸けで忠長の愚行を止めさせてくれたが、それは女中を止めただけで忠長自身を叱責したわけではない」
「……上様が心から信頼しているのは柳生家の者達だけなのですね。
信頼しているからこそ、わざわざ柳生家の者達の名前を出して、心からの信頼ではないと断言されたのですね。
大御所様を柳生家に預ければ、彼らが真っ先に命狙われると考え、それだけはさせまいとされておられるのですね」
「ふん、余の考えを見抜いたような事を口にするな!
それよりも自分の事を考えろ!
余を殺そうとする大御所と江を見逃し続けたのだ。
死を賜るのは当然だと思わぬか?」
「この命一つで大御所様の命と上様の評判、天下の大乱を防ぐことができるのなら安い物でございます」
「もう止めよ。
讃岐守が何を言うおうと大御所を処刑する事は変わらぬ。
余を殺そうとする者を見逃すほど余は甘くない」
「上様、今一度御考え直しして頂けないでしょうか?
大御所様を生かしながら上様の安全を確保する方法が必ずあるはずです。
左門殿、どうか上様をお止めしてくれ。
貴君の言う事なら上様も聞いてくださるかもしれない。
もう大御台所様は亡くなられているのだ。
大御所様の威信も地に落ちてしまっている。
大御所様と大御台所様に甘やかされ続けた駿河大納言様の評判も悪くなっている。
柳生が仕掛けた謀略は十分効果をだしている。
もう上様の治世を脅かす者などいないのだ。
だから大御所様を弑い奉るのを止めてくれ」
「黙れ讃岐守!
これ以上左門に無理難題を申したら、忠長はお前と江の不義の子とするぞ!
お前と家族だけでなく、本家の酒井雅楽頭家も一族一門皆殺しにするぞ!」
やれ、やれ、他の者がいる前ではできるだけ口出ししたくはなかったのだが……
「上様、そのように感情的になられてはいけません。
讃岐守殿が上様のために命を賭けられたのは間違いのない事でございます。
忠臣の命を賭けた諫言には耳を傾けるべきでございます」
「左門、お前まで余を裏切るのか?!」
「拙者が上様を裏切る事は絶対にありません。
大御所様が絶対に逃げられないように、誰も助ける事ができないよう、上様の命を狙わせないようにする方法がございます。
いえ、大御所を殺すよりも上様が満足される方法がございます」
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