柳生友矩と徳川家光

克全

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第三章:謀略

第39話:襲撃

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1627年5月14日:江戸柳生上野介家上屋敷:柳生左門友矩14歳

 上様の政務が終わって眠られるまでの間、三刻は衆道にのめり込まれた。
 上様に求められて嫌々覚えた性技の限りを尽くして奉公した。
 後背位に戻られることなく、茶臼を好まれているのだけは安心できる。

 上様に三刻ぶっ続けに激しく何度も求められ、剣術で鍛え上げた身体も死闘と寝不足で疲れ果ててしまい、上屋敷に戻ったら直ぐに熟睡してしまった。

 上様からは休みを頂いているので、刻限を気にする事なく眠ることができた。
 受け身とはいえ、同じように寝不足のはずの上様は、連日連夜小姓や元小姓をとっかえひっかえ衆道に励まれている。

 政務は年寄衆に任せる事が多いとはいえ、脅威の体力である。
 その体力を政務にだけ使ってくださればいいのだが……
 いや、政務は年寄衆が肩代わりしてくれるが、子作りだけは上様にしかできない。

「敵襲、敵が襲ってきたぞ!」

 宿直の警備が張り上げる声に飛び起きた。
 またしても屋敷が御襲われてしまった。

「ぎゃあああああ!」
「入れるな、絶対に邸内入れるな!」
「ぎゃっふ!」
「放て、屋敷の外でも構わん、外に潜む者を射殺せ!」

 上様の寵愛深く、小姓の身で四万石もの領地を与えられた拙者を襲う。
 命知らずにも程があるのだが、誰の差し金だろう?
 まあ、並の盗賊なら絶対に避けるはずの拙者を襲う者など限られている。

「拙者も迎え討つ」

「駄目でございます。
 左門様に何かあっては大殿と若殿に合わせる顔がありません。
 有象無象の攻撃など家臣達にお任せください」

 建前上江戸家老となっている裏柳生に諫言されてしまった。
 表向き拙者の家臣となっているが、本当は兄上の家臣だ。
 思いがけず急に大名に成った柳生家には人手が足らなすぎるのだ。

 割り切った恩と奉公の関係でいいなら、何時でも召し抱えられる牢人は沢山いる。
 才の有る者も腕の立つ者も掃いて捨てるほどいる。
 だが、命懸けの忠誠心を持つものは滅多にいない。

 そもそも忠誠心が一朝一夕に育つはずもない。
 父祖代々仕えてこそ本当の忠誠心は育つのだ。
 先祖代々柳生荘の領主であったから、柳生家に全く人材がいない訳ではない。

 だが三千石だった柳生家が、二十五倍以上の合計七万三千石、三つの藩の成ってしまったのだから、人材不足になって当然だ。

 父上と兄上は、裏柳生として働いていた領民を家臣に取立てる事で、腕が立って忠誠心のある家臣を確保された。
 だが拙者には、進んで家臣となってくれる裏柳生がいなかった。

 だが、忠誠心のある腕利き裏柳生が一番必要なのは拙者だ。
 非常識な出世を遂げる小姓や元小姓は多いが、その中でも特に顕著な大出世をしているのが拙者なのだ。

 だだだだだっーん!!!!!
「「「「「ぎゃあああああ!」」」」」

 どうやら宿直の警備兵が鉄砲を放ったようだ。
 普通ならどれほど激しい襲撃を受けようと、江戸御府内で鉄砲は撃てない。
 幕府から厳しい罰を与えられるのを恐れて撃てない。

 だが拙者の柳生上野介家は別だ。
 上様から直々に鉄砲を無制限で放つ許可を受けている。
 前回の襲撃前に与えられた特権がいまだに許されている。

「斬り込め!」
「「「「「うぉおおおおお」」」」」

 今度は宿直の警備兵が斬り込んだようだ。
 我が家の家臣は、大半が直臣陰流を学んでいる。
 忍びの術にも長けた裏柳生だが、一番の特技は剣術なのだ。

「左門様、襲撃は全力で撃退いたしますが、全員は討ち取らないようにしています。
 前回と同じように、わざと逃がして跡をつけます。
 黒幕が分かったら上様に報告していただきます」

「分かっている、以前から想定していた迎撃手順だ。
 だが、本当に上手く行くのか?
 前回の襲撃で、同じように跡をつけて黒幕を叩き潰している。
 二度同じ手が使えるとは思えないのだが?」

「左門様の申される通りでございます。
 敵が愚かでなければ黒幕の所に逃げ込んだりはしないでしょう。
 ですが全ての敵が有能で忠誠心が有るとは限りません。
 それに、最初から大御台所様の所まで辿り着けるとは思っていません。
 江戸で荒事を引き受ける裏世界の者達を殺せれば、御城下が静かになります」

 こいつ、今回の黒幕が大御台所様だとはっきり言い切ったよ。

「ふむ、確かに御城下にいる胡乱な者達を退治できれば上様のためになる。
 黒幕までは辿り着けなくても十分上様の役に立てるか?」

「それに、上手く裏世界に入り込めたら、大御台所様の手足となって働く者達に所までは行けるかもしれません。
 全ての手足を潰せれば、大御台所様も身動きできなくなるでしょう。
 何人もの手先が次々と殺されれば、大御台所様を見限る者も出てきます」

「そうできれば母子で殺し合うような修羅を終わらせる事ができるかもしれない
 手勢は足りているのか?
 多くの裏柳生がこちらに来てくれているが、密偵として各地に派遣されている者も多いのであろう?」

「正直人手が足りなくて困っております。
 犠牲者が増えると、満足に役目が果たせなくなってしまいます。
 そこで左門様にお願いがあるのですが、聞いていただけますでしょうか?」
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