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第二章:出世
第26話:脅迫
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1626年4月6日:江戸城下:柳生左門友矩13歳
拙者は父上が護衛につけてくれた門弟達に護られて敵を追った。
逃げている敵は黒幕のいる所まで逃げるのか?
それとも拠点となっている隠れ家まで逃げるのか?
先を行く裏柳生が跡をつけやすいようにしてくれている。
それは拙者達の事を考えての事ではない。
拙者が追討ちに加わったのは自分が一皮剥ける為で、事前の策ではない。
「左門も来たのか。
左門は自分の屋敷で敵を待ち受ける役目だったのではないのか?」
今回は逃げる敵を尾行して拠点を襲撃する役目を与えられた者達がいた。
兄上を始めとした元小姓の番頭達だ。
「今日の当番は三枝殿だったのですね」
「運が良いのか悪いのか、相手次第だが……」
三枝殿の申される通りだ。
相手が万石以下の旗本程度なら何の問題もない。
組下の番士の一部が敵に味方したとしても、簡単に潰せる。
問題は敵が万石以上、それも五万石以上の大名だった場合だ。
敵が大大名だった場合、書院番や小姓組の兵力では勝ち目がない。
番士の中に裏切る者や日和見する奴がいるから勝てないのだ。
幕府が一致して叩くのなら簡単に勝てる。
どう考えても大御所様や大御台所様が邪魔だ。
背後から支えるどころか足元をすくおうとするなど、それでも親か!
「今頃は全ての番方が動員されているだろう。
だが、全員が上様の指示に従うかどうか……」
三枝殿の申される通りだ。
大御所様が今回の件の黒幕だったら、この機会に上様を殺すかもしれない。
大御台所様や駿河大納言様が黒幕だったら、隠蔽しようとするだろう。
「三枝殿、拙者達は己のできる事をするしかありません。
例え小姓上がりの番頭以外が敵に回ったとしても、上様のために命を賭けて戦う気持ちに変わりはありません。
番士の中に従わない者がいたら、斬って捨てればいいのです。
幾らでもお手伝いさせていただきます」
「左門殿にそう言っていただけたら、百万の味方を得た気持ちになります」
「大げさな事を言われても困ります。
拙者ができる事など、武者を鎧ごと叩き斬るくらいの事です。
ただ、父上の門弟達もいてくれます。
上様の命に従わない番士の成敗はお任せください」
拙者がそう言うと、三枝殿配下の番士達が緊張したようだ。
鎧を装備し騎乗している番士達。
口取り中間に馬を引かせているが、少々頼りない。
父祖から武士の心得は叩き込まれているはずなのだが、殺気が感じられない。
これから敵の隠れ家を襲って皆殺しにすると言う気概が感じられない。
まるで女子供を連れて花見にでも行くような軽さだ。
「左門様、敵はこの屋敷に逃げ込みました」
わざと逃がした、敵の跡をつけていた裏柳生が報告してくれた。
他にも裏柳生が跡をつけている敵はいる。
そんな連中が逃げ込んだ屋敷には、父上や兄上達が向かっている。
「ここは誰の屋敷か知っている者はいますか?」
誰一人答えようとしない。
三枝殿配下の与頭はもちろん、番士達の誰も答えない。
雰囲気から知っていると伝わって来る者もいるのに答えない。
俺が脅すべきではないのだが、三枝殿が言わないとなると……
「今答えないで、後で交流があると分かれば、一味同心とみなされるぞ。
上様が寵愛する小姓の屋敷を二度も襲ったのだ。
一味同心と分かれば、親兄弟はもちろん一族全てが連座される。
大御所様や大御台所様に泣きつけば助かると思っているのか?
稲葉様を始めとした御年寄衆も、この件は許し難いと言われている。
かねてから上様を立ててくださっていた、酒井様もこの度の件は激怒されている。
大御所様や大御台所様が何と言おうと、上様の小姓を務めた事のある我らは、絶対に許さぬぞ!」
「拙者も上様の剣術指南役を務める柳生家の次男だ。
家の面目にかけて襲撃してきた者共は許さない。
上様からは、御城下で鉄砲を使う許可も頂いている。
敵だと分かった家には、容赦なく鉄砲を撃ちこみ焼き討ちをかける。
立花家や鍋島家、細川家などと言った大名門弟衆も助太刀してくれる。
上様に逆らう謀叛人は誰であろうと捻り潰してくれる!」
「丹後守様でございます!
出羽上山藩四万石、松平丹後守様の屋敷でございます!」
「そのほうだけは一味同心でないと証言してやる。
他の者は襲撃犯の一味同心だから隠そうとしたと証言する。
首を洗って待っていろ!」
拙者は父上が護衛につけてくれた門弟達に護られて敵を追った。
逃げている敵は黒幕のいる所まで逃げるのか?
それとも拠点となっている隠れ家まで逃げるのか?
先を行く裏柳生が跡をつけやすいようにしてくれている。
それは拙者達の事を考えての事ではない。
拙者が追討ちに加わったのは自分が一皮剥ける為で、事前の策ではない。
「左門も来たのか。
左門は自分の屋敷で敵を待ち受ける役目だったのではないのか?」
今回は逃げる敵を尾行して拠点を襲撃する役目を与えられた者達がいた。
兄上を始めとした元小姓の番頭達だ。
「今日の当番は三枝殿だったのですね」
「運が良いのか悪いのか、相手次第だが……」
三枝殿の申される通りだ。
相手が万石以下の旗本程度なら何の問題もない。
組下の番士の一部が敵に味方したとしても、簡単に潰せる。
問題は敵が万石以上、それも五万石以上の大名だった場合だ。
敵が大大名だった場合、書院番や小姓組の兵力では勝ち目がない。
番士の中に裏切る者や日和見する奴がいるから勝てないのだ。
幕府が一致して叩くのなら簡単に勝てる。
どう考えても大御所様や大御台所様が邪魔だ。
背後から支えるどころか足元をすくおうとするなど、それでも親か!
「今頃は全ての番方が動員されているだろう。
だが、全員が上様の指示に従うかどうか……」
三枝殿の申される通りだ。
大御所様が今回の件の黒幕だったら、この機会に上様を殺すかもしれない。
大御台所様や駿河大納言様が黒幕だったら、隠蔽しようとするだろう。
「三枝殿、拙者達は己のできる事をするしかありません。
例え小姓上がりの番頭以外が敵に回ったとしても、上様のために命を賭けて戦う気持ちに変わりはありません。
番士の中に従わない者がいたら、斬って捨てればいいのです。
幾らでもお手伝いさせていただきます」
「左門殿にそう言っていただけたら、百万の味方を得た気持ちになります」
「大げさな事を言われても困ります。
拙者ができる事など、武者を鎧ごと叩き斬るくらいの事です。
ただ、父上の門弟達もいてくれます。
上様の命に従わない番士の成敗はお任せください」
拙者がそう言うと、三枝殿配下の番士達が緊張したようだ。
鎧を装備し騎乗している番士達。
口取り中間に馬を引かせているが、少々頼りない。
父祖から武士の心得は叩き込まれているはずなのだが、殺気が感じられない。
これから敵の隠れ家を襲って皆殺しにすると言う気概が感じられない。
まるで女子供を連れて花見にでも行くような軽さだ。
「左門様、敵はこの屋敷に逃げ込みました」
わざと逃がした、敵の跡をつけていた裏柳生が報告してくれた。
他にも裏柳生が跡をつけている敵はいる。
そんな連中が逃げ込んだ屋敷には、父上や兄上達が向かっている。
「ここは誰の屋敷か知っている者はいますか?」
誰一人答えようとしない。
三枝殿配下の与頭はもちろん、番士達の誰も答えない。
雰囲気から知っていると伝わって来る者もいるのに答えない。
俺が脅すべきではないのだが、三枝殿が言わないとなると……
「今答えないで、後で交流があると分かれば、一味同心とみなされるぞ。
上様が寵愛する小姓の屋敷を二度も襲ったのだ。
一味同心と分かれば、親兄弟はもちろん一族全てが連座される。
大御所様や大御台所様に泣きつけば助かると思っているのか?
稲葉様を始めとした御年寄衆も、この件は許し難いと言われている。
かねてから上様を立ててくださっていた、酒井様もこの度の件は激怒されている。
大御所様や大御台所様が何と言おうと、上様の小姓を務めた事のある我らは、絶対に許さぬぞ!」
「拙者も上様の剣術指南役を務める柳生家の次男だ。
家の面目にかけて襲撃してきた者共は許さない。
上様からは、御城下で鉄砲を使う許可も頂いている。
敵だと分かった家には、容赦なく鉄砲を撃ちこみ焼き討ちをかける。
立花家や鍋島家、細川家などと言った大名門弟衆も助太刀してくれる。
上様に逆らう謀叛人は誰であろうと捻り潰してくれる!」
「丹後守様でございます!
出羽上山藩四万石、松平丹後守様の屋敷でございます!」
「そのほうだけは一味同心でないと証言してやる。
他の者は襲撃犯の一味同心だから隠そうとしたと証言する。
首を洗って待っていろ!」
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