柳生友矩と徳川家光

克全

文字の大きさ
上 下
25 / 57
第二章:出世

第25話:再襲撃

しおりを挟む
1626年4月6日:江戸柳生左門家屋敷:柳生左門友矩13歳

「左門様、また屋敷の外に胡乱な連中が集まっております」

 眠っていたら用人に起こされた。

「今度はどうするのだ?」

「今回は呼子を使いません。
 連中に襲撃させて生死を問わず捕らえます。
 生死を問わず馬に縛り付け、武家地寺社地町人地を問わず引き回すそうです」

「その時の反応を見て、どの家が関係しているのか確かめるのか?」

「はい、大殿からの指図でございます」

「そのために、これだけの裏柳生を集めたというのか」

 柳生荘二千石に住む領民は二千人弱。
 三千石に加増されてからの領民は三千人弱。

 幼い者や足腰の立たなくなった老人以外は全員戦えるように鍛錬させている。
 領民一丸となって、隣り合う領地と生存をかけて戦っていた戦国乱世の名残だ。

 特に新陰流が伝わってからは、領民一丸となって領地を守り流派を守る気概が高まったと聞いている。

 隠し田が見つかり、今まで持っていた領地と荘官の権利を失ったのが大きかった。
 大和から伊賀に移住させられそうになったのも、逆に領民との絆を強めた。

 その結果として、外に出て戦える領民が老若男女合わせて千人はいる。
 そのうちの上位百人が今この屋敷にいる。
 裏柳生と言われる忍者と同じ役目ができる連中だ。

「放て!」

 だだだだだーん!

 屋敷の中から雨戸に向けて一斉に鉛玉が放たれる。
 父上と兄上が総力を使って集めた、十匁を放つ士筒が百丁。
 雨戸の厚みなど関係なく、庭に入り込み雨戸を開けようとした襲撃者を殺す。

 だーん!

「徳川家に楯突く謀叛人を皆殺しにしろ!」
「正体を暴いて親兄弟皆殺しにするのだ!」
「連座で本家も分家も叩き潰して一族皆殺しだ!」

 寝込みを襲うつもりだった襲撃者達が驚きのあまり固まっている。
 前回の呼子を知っているからこそ、順調に庭に入り込めたのを拙者達の油断や驕りだと思っていたのだろう。

 まさか御城下で堂々と鉄砲を放つとは思っていなかったのだろう。
 それも、百丁もの鉄砲を一斉に放つなど想像もしていなかったのだろう。
 驚きのあまり、自分達が卑怯な襲撃者だという事も忘れて棒立ちになっている。

 そこを柳生新陰流を修めた猛者たちが斬り込む!
 殺すことなく戦闘力を奪う為に、右手首を切り落とす。
 普通の状態なら指を狙うのだが、今回は虚を突くことができたので手首を落とす。

 最初の突撃で庭に入り込んでいた連中は生きたまま捕らえる事ができた。
 屋敷の外で見張っていた連中は、素早く次の玉を込めた者が士筒で狙い撃った。
 生きて逃げ出した連中もいたが、そんな連中の跡を裏柳生がつけている。

 手首を斬り落とした連中も、同じように逃がして敵の黒幕を暴く事も考えた。
 だがあまりに人数が多いと尾行する者が見つかり殺される可能性がある。

 それに、覚悟の決まった奴だと、黒幕の所に逃げ込まずに切腹してしまう。
 そんな事を考えると、生きたまま捕らえるべきだという結論になった。

 決して自害できないようにしておいて、戦国から伝わる拷問で自白させる。
 町奉行所では決して認められない、地獄の責め苦のような拷問だ。

 上様に取って代わろうという連中は、絶対に許す訳にはいかない。
 それが例え上様の実の母親であろうと弟であろうとだ。
 情け容赦なくぶち殺してくれる!

「左門様、ここは我らにお任せください。
 これほど良い実戦経験の機会はございません。
 腕利きの護衛をつけさせていただきますので、一緒に行かれてください」

 父上が派遣してくれた手練れの門弟が拙者に自由を与えてくれた。
 情けない話だが、拙者はまだ人を斬った事がない。
 まだ小姓とはいえ、上様に仕えする武芸者として情けない話しだ。

「分かった、この好意を無にしたりはしない。
 この機会を生かして必ず人を斬ってくる」

「最初は色々と思う事もございます。
 上手く斬れない者もおります。
 あまり焦る事なく落ち着いてやられたらいいのです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...