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第二章:出世
第23話:献策
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1626年4月4日:江戸城中奥:柳生左門友矩13歳
「上様、今の伊賀者や甲賀者に忍者をやらせようとしても無理があります」
「それはどういうことだ?」
書院番頭として登城した兄上を上様が呼びつけられた。
寝所に連れ込むのかと思ったら、伊賀者や甲賀者について下問された。
上様は裏柳生が忍者としても働けることをどこで知られたのだろう?
「今の伊賀者がついている役目は、その場から離れる事ができません。
現役の当主は、役目を放棄して調べ物ができないのです」
「百人組があるではないか?」
「今の百人組は、忍者としての働きよりも鉄砲足軽としての働きを優先しています。
忍者として敵地に送り込むのなら、無役の者でなければなりません。
役目に就いていたとしても、閑職でなければなりません。
それに、東照神君の頃に比べて物の値が随分と上がっております。
三十俵二人扶持では、忍者として敵地に潜入する銭金がありません」
「敵地に入るのに何故銭金が必要なのだ?」
「敵地で長く働くには拠点が必要になります。
その拠点を購入するには、銭金が必要になってまいります」
「町人として町人地に家を借りればいいであろう。
町人が借りられる程度の金なら、微禄の者達でも用立てられるであろう」
「上様、敵は上様の対し奉り敵対するような者でございますぞ。
町人地であろうと厳しく警戒をしております。
部屋を借りるにも保証人が必要になります。
縁も所縁もない流れ者に部屋を貸してくれるはずがございません。
部屋を貸してもらえるような信用を得るには、銭金と時間が必要なのです。
そこで手を抜くと、簡単に露見して殺されてしまうのです。
上様がどうしても伊賀者や甲賀者に忍者の役目を与えたいのでしたら、心利いた無役の者にお手元の金をお与えになり、忍者組を立ち上げてください」
「閑職で自由になる金が必要だと?
では東照神君はどのようになされていたのだ?」
「それがしのような若年者に、東照神君の御業は分かりません。
実際に忍者をどのように使うかは、戦国乱世を生き延びてこられた、古強者の大名の方々にお聞きに成った方が宜しいでしょう。
我が父に命じられてもある程度の事はお教えできるでしょうが、幕府ほどの大きな存在が使う忍者となると、規模が違い過ぎます」
「……戦国乱世の古強者と言っても数多くいる。
具体的に誰に聞けばいいのだ?」
「そうでございますね、今伊賀を支配下に置き、大和大納言秀長殿の下で忍者を使っていたと言われている、藤堂様が一番に思い浮かびます。
東照神君と何度も謀略戦を戦われたという伊達様でもよいでしょう。
東照神君すら何度も煮え湯を飲まされた真田様ならばよい話が聞けるでしょう。
この御三方に話を聞かれれば、忍者を上手く使いこなせると思われます」
「ふむ、確かにどの者達も一癖も二癖もある者達だ。
だがその者達に話を聞く前に、そなたの父、又右衛門からも話を聞きたい。
明日時間のある時に会う。
下城したら十兵衛からそのように伝えよ」
「承りました、下城したら父にそのように申し付けます」
やれ、やれ、明日は父上と会わなければいけないのだな。
色々と思う所はあるし、小姓として上様に仕える姿を見られるのは嫌だが、兄上が寝所に呼ばれて上様と戯れるのを、護衛として部屋の外で聞くよりはいい。
「では十兵衛、これからが本番だ。
余は疲れたから寝所で休むが、十兵衛には部屋の中で護衛を務めてもらう。
左門には部屋の外で警備をしてもらう。
寝所で休んだ後は汗を流す、湯殿の準備をしておけ」
結局それか!
上様の頭の中にはそれしかないのか?!
「上様、昼の間は御自重なされてください。
政務が終わられたらお相手させていただきます」
「もうやらねばならない事は終わらせてある。
十兵衛に会う事を考えて、急ぎ片付けておいたのだ。
先ほど言った通り、余が満足するまで相手を務めてもらうぞ。
武士に二言はなのであろう?」
「上様、今の伊賀者や甲賀者に忍者をやらせようとしても無理があります」
「それはどういうことだ?」
書院番頭として登城した兄上を上様が呼びつけられた。
寝所に連れ込むのかと思ったら、伊賀者や甲賀者について下問された。
上様は裏柳生が忍者としても働けることをどこで知られたのだろう?
「今の伊賀者がついている役目は、その場から離れる事ができません。
現役の当主は、役目を放棄して調べ物ができないのです」
「百人組があるではないか?」
「今の百人組は、忍者としての働きよりも鉄砲足軽としての働きを優先しています。
忍者として敵地に送り込むのなら、無役の者でなければなりません。
役目に就いていたとしても、閑職でなければなりません。
それに、東照神君の頃に比べて物の値が随分と上がっております。
三十俵二人扶持では、忍者として敵地に潜入する銭金がありません」
「敵地に入るのに何故銭金が必要なのだ?」
「敵地で長く働くには拠点が必要になります。
その拠点を購入するには、銭金が必要になってまいります」
「町人として町人地に家を借りればいいであろう。
町人が借りられる程度の金なら、微禄の者達でも用立てられるであろう」
「上様、敵は上様の対し奉り敵対するような者でございますぞ。
町人地であろうと厳しく警戒をしております。
部屋を借りるにも保証人が必要になります。
縁も所縁もない流れ者に部屋を貸してくれるはずがございません。
部屋を貸してもらえるような信用を得るには、銭金と時間が必要なのです。
そこで手を抜くと、簡単に露見して殺されてしまうのです。
上様がどうしても伊賀者や甲賀者に忍者の役目を与えたいのでしたら、心利いた無役の者にお手元の金をお与えになり、忍者組を立ち上げてください」
「閑職で自由になる金が必要だと?
では東照神君はどのようになされていたのだ?」
「それがしのような若年者に、東照神君の御業は分かりません。
実際に忍者をどのように使うかは、戦国乱世を生き延びてこられた、古強者の大名の方々にお聞きに成った方が宜しいでしょう。
我が父に命じられてもある程度の事はお教えできるでしょうが、幕府ほどの大きな存在が使う忍者となると、規模が違い過ぎます」
「……戦国乱世の古強者と言っても数多くいる。
具体的に誰に聞けばいいのだ?」
「そうでございますね、今伊賀を支配下に置き、大和大納言秀長殿の下で忍者を使っていたと言われている、藤堂様が一番に思い浮かびます。
東照神君と何度も謀略戦を戦われたという伊達様でもよいでしょう。
東照神君すら何度も煮え湯を飲まされた真田様ならばよい話が聞けるでしょう。
この御三方に話を聞かれれば、忍者を上手く使いこなせると思われます」
「ふむ、確かにどの者達も一癖も二癖もある者達だ。
だがその者達に話を聞く前に、そなたの父、又右衛門からも話を聞きたい。
明日時間のある時に会う。
下城したら十兵衛からそのように伝えよ」
「承りました、下城したら父にそのように申し付けます」
やれ、やれ、明日は父上と会わなければいけないのだな。
色々と思う所はあるし、小姓として上様に仕える姿を見られるのは嫌だが、兄上が寝所に呼ばれて上様と戯れるのを、護衛として部屋の外で聞くよりはいい。
「では十兵衛、これからが本番だ。
余は疲れたから寝所で休むが、十兵衛には部屋の中で護衛を務めてもらう。
左門には部屋の外で警備をしてもらう。
寝所で休んだ後は汗を流す、湯殿の準備をしておけ」
結局それか!
上様の頭の中にはそれしかないのか?!
「上様、昼の間は御自重なされてください。
政務が終わられたらお相手させていただきます」
「もうやらねばならない事は終わらせてある。
十兵衛に会う事を考えて、急ぎ片付けておいたのだ。
先ほど言った通り、余が満足するまで相手を務めてもらうぞ。
武士に二言はなのであろう?」
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