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第二章:出世
第11話:書院番頭
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1626年1月19日:江戸城中奥:柳生左門友矩13歳
自分の好みではない大嫌い方法を使った甲斐があった。
正直あんな方法で兄上を立身出世させた事には忸怩たる思いがある。
今も思い出すだけで苦いものが胃から口に上がってくる。
だがそのお陰で、堀田を見る譜代旗本の怒りと嫉妬が理解できた。
兄上を同じ立場にしてしまったが、本来味方であるはずの旗本衆が敵なのだ。
上様の寵愛を失った時、拙者達は二度と立ち上がれないくらい叩かれるだろう。
だからこそ、堀田はこれまで以上に形振り構わず上様の寵愛を確保しようとする。
そのために上様を追い込む事になろうともだ。
暗主であろうと、一度忠誠を誓った以上これを見逃す訳にはいかない。
「左門、お前のお陰で親父殿を追い越す立身出世ができた」
「いえ、兄上の御助言がなければ死んでいた身です。
役目や領地には代えられない恩がございます」
兄上が色々教えてくださり、拙者の蒙を啓いてくださらなかったら、今頃堀田を斬った罪で切腹させられていた。
切腹させられることなく、逆に上様の寵愛を一身に受けていた可能性もある。
だがその時には、父上に殺されていた事だろう。
拙者を殺すと決めたら、必勝を期して裏柳生を総動員して襲ってきただろう。
幼い頃から顔見知りの者同士が殺し合う。
下手をすれば刺客の一人が兄上だった可能性もある。
兄弟で殺し合うなど生き地獄だ!
「兄弟なのだ、恩などと大げさな事を言うな。
助け合って一族を盛り立てようではないか。
親父殿と新次郎伯父上のような関係にならないようにしようぞ」
「はい、そうですね、兄上」
「本来武士の役目は家で受け持つ。
戦場で当主が打たれたら、次期当主か先代当主が後を引き継ぐ。
俺の場合は跡継ぎもいないし、剣術指南役の親父殿が一緒に来る事もない。
だから上様にお願いして、男子が生まれるまで左門を跡継ぎにした」
「そんな?!
上様お気に入りの小姓である拙者が上様の側を離れる事などありません」
「それは上様の親衛隊である書院番と小姓組も同じだ。
万が一俺が戦場で打たれる時は、上様の近く、お前と同じ場所にいる時だ。
俺の跡を継いで上様を護るのは当然の事であろう」
確かに兄上の申される通りかもしれない。
上様は大御所様や駿河大納言様を毛嫌いしておられる。
大御所様の影響が強い番頭達を交代させたいのは理解できる。
「確かに兄上の申される通りですね」
同時に、上様の意のままに動かせる番方を側から離される事はない。
特に兄上と堀田が頭を務める番方は親衛隊中の親衛隊だ。
ただ、堀田は状況も弁えずに拙者や兄上に襲いかかってくるかもしれない。
「そんなに心配するな、左門。
組下に入った者達を俺が鍛える。
本人達にその気があるのなら、柳生の道場で鍛える。
堀田ごときに後れを取るような番方にはせぬ」
「兄上が本気になられたのなら最強の書院番ができます」
書院番には番頭の兄上の下に八十一人の配下がいる。
副将と言える与頭が一騎。
三百石級の旗本から五十騎の番士が選ばれる。
死傷しない限り交代する事のない番付きの与力が十騎。
同じく死傷しない限り交代しない番付き同心が二十人。
更に上記の六十一騎二十人の家臣も兵力として数えられる。
軽く計算しただけでも六百二十人の兵力がある。
彼ら全員を今より一段二段強くできれば、最強の番方になるだろう。
自分の好みではない大嫌い方法を使った甲斐があった。
正直あんな方法で兄上を立身出世させた事には忸怩たる思いがある。
今も思い出すだけで苦いものが胃から口に上がってくる。
だがそのお陰で、堀田を見る譜代旗本の怒りと嫉妬が理解できた。
兄上を同じ立場にしてしまったが、本来味方であるはずの旗本衆が敵なのだ。
上様の寵愛を失った時、拙者達は二度と立ち上がれないくらい叩かれるだろう。
だからこそ、堀田はこれまで以上に形振り構わず上様の寵愛を確保しようとする。
そのために上様を追い込む事になろうともだ。
暗主であろうと、一度忠誠を誓った以上これを見逃す訳にはいかない。
「左門、お前のお陰で親父殿を追い越す立身出世ができた」
「いえ、兄上の御助言がなければ死んでいた身です。
役目や領地には代えられない恩がございます」
兄上が色々教えてくださり、拙者の蒙を啓いてくださらなかったら、今頃堀田を斬った罪で切腹させられていた。
切腹させられることなく、逆に上様の寵愛を一身に受けていた可能性もある。
だがその時には、父上に殺されていた事だろう。
拙者を殺すと決めたら、必勝を期して裏柳生を総動員して襲ってきただろう。
幼い頃から顔見知りの者同士が殺し合う。
下手をすれば刺客の一人が兄上だった可能性もある。
兄弟で殺し合うなど生き地獄だ!
「兄弟なのだ、恩などと大げさな事を言うな。
助け合って一族を盛り立てようではないか。
親父殿と新次郎伯父上のような関係にならないようにしようぞ」
「はい、そうですね、兄上」
「本来武士の役目は家で受け持つ。
戦場で当主が打たれたら、次期当主か先代当主が後を引き継ぐ。
俺の場合は跡継ぎもいないし、剣術指南役の親父殿が一緒に来る事もない。
だから上様にお願いして、男子が生まれるまで左門を跡継ぎにした」
「そんな?!
上様お気に入りの小姓である拙者が上様の側を離れる事などありません」
「それは上様の親衛隊である書院番と小姓組も同じだ。
万が一俺が戦場で打たれる時は、上様の近く、お前と同じ場所にいる時だ。
俺の跡を継いで上様を護るのは当然の事であろう」
確かに兄上の申される通りかもしれない。
上様は大御所様や駿河大納言様を毛嫌いしておられる。
大御所様の影響が強い番頭達を交代させたいのは理解できる。
「確かに兄上の申される通りですね」
同時に、上様の意のままに動かせる番方を側から離される事はない。
特に兄上と堀田が頭を務める番方は親衛隊中の親衛隊だ。
ただ、堀田は状況も弁えずに拙者や兄上に襲いかかってくるかもしれない。
「そんなに心配するな、左門。
組下に入った者達を俺が鍛える。
本人達にその気があるのなら、柳生の道場で鍛える。
堀田ごときに後れを取るような番方にはせぬ」
「兄上が本気になられたのなら最強の書院番ができます」
書院番には番頭の兄上の下に八十一人の配下がいる。
副将と言える与頭が一騎。
三百石級の旗本から五十騎の番士が選ばれる。
死傷しない限り交代する事のない番付きの与力が十騎。
同じく死傷しない限り交代しない番付き同心が二十人。
更に上記の六十一騎二十人の家臣も兵力として数えられる。
軽く計算しただけでも六百二十人の兵力がある。
彼ら全員を今より一段二段強くできれば、最強の番方になるだろう。
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