柳生友矩と徳川家光

克全

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第一章:プロローグ

第4話:嫉妬

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1624年1月25日:江戸城中奥:柳生左門友矩11歳

「上様に気に入られているからといって思い上がるなよ!」

 男の嫉妬ほど醜いものはないと兄上が言っていたが、本当だった。
 朽木殿や三枝殿は、共に上様に仕える盟友に成れそうだ。
 だが男のくせに嫉妬に狂って暴言を吐き散らす堀田殿は駄目だ。

「思い上がってなどおらん。
 どうすれば上様の蒙を啓く事ができるか考えているだけだ。
 堀田殿も心から上様に仕えるのであれば、よく考えられよ」

 こいつは拙者より四歳年長だったはず。
 十五歳ならば武士としても一人前であろう。
 それなのに婦女子のように嫉妬にかられるとは、情けない。

「おのれ、私の事を馬鹿にしているのか?!」

「堀田殿は義理とはいえ春日局殿の孫であろう。
 春日局殿が、上様のお子を心から望んでいる事も知っているはず。
 それなのに上様の寵を競おうとするなど言語道断ですぞ」

 上様が奥に渡られている時を狙っての嫉妬。
 とても武士とは思えない恥ずべき態度だ。
 
「春日局の事は関係ない。
 私は自分の力で上様に引き立てられているのだ。
 奥での事など小姓の私が考える必要のない事だ」

 愚かすぎて話にならないな。
 春日局殿の引きがなければ堀田殿が上様の小姓に成れるはずがない。
 徳川恩顧の譜代衆がどれだけいると思っているのだ。

 稲葉と堀田の一族は、元々織田家に仕え豊臣家に仕えていたのだぞ。
 そんなお前達が上様の側近に成れたのは、春日局殿のおかげではないか!
 柳生一族の俺が言うのもおかしいが、本来なら譜代衆から小姓が選ばれるべきだ。

「堀田殿が恩知らずなのは拙者の知った事ではない。
 だが上様に仇名すようならば、この命にかけて斬って捨てる。
 貴殿にその覚悟があるのか?!」

「おのれ、小僧の分際で偉そうな事を口にしおって!」

「確かに拙者は堀田殿よりも年若い。
 だが、それでも武士として小姓としての覚悟は定まっている。
 上様を御守りするだけの力は備わっている。
 そうでなければ剣術指南役の父が出仕を許さん。
 柳生新陰流の極意をその身で受けたければ、いつでもかかってこい!」

「くぅ、覚えていろ、ただでは済まさんからな!」

 根性なしにもほどがある!
 自分から喧嘩を売って来て、買われたとたんに震えて逃げ出すとわ!
 情けなさ過ぎて追い討ちをかける気にもならない。

「気をつけろよ、左門。
 ああいう手合いは卑怯下劣な事が得意だ。
 春日局に頼った事などないと言いながら、きっちり手助けしてもらうぞ」

「このようなつまらぬ事で死ぬのは嫌ですが、これも忠義の一つです。
 上様が佞臣を寵愛している事を知らせるために死んでみせましょう」

「分かっているとは思うが、切腹などしても死に損だぞ。
 春日局の力と上様の寵愛で庇われて終わりだ。
 きっちりと斬り殺して禍根を断たねばならぬ」

「分かっております、兄上。
 送られてきた刺客を斬り殺した後で、堀田殿の屋敷の押し入り斬って捨てます」

「小姓が主君の寵愛を競って殺し合う事は古来からよくあったと聞く。
 だがそんなつまらない事に弟を巻き込むわけにはいかない。
 俺が手を打つから、左門は先走らないようにしろ」

「兄上がそう申されるのでしたら、刺客だけを斃して後の始末は任せます。
 そうしてくれ、春日局や稲葉一族に恩を売るいい機会だからな」
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