44 / 50
第2章
第43話:両天秤
しおりを挟む
「我々冒険者ギルドも殿下に命を預けさせていただきます。
殿下を奉じて現王家を滅ぼし、殿下を推戴いたします」
タリファ王国の商業ギルドマスターが俺に決起を頼んできた日から四日後、今度は冒険者ギルドのマスターがやって来て決起を頼んで来た。
武力をもっている冒険者ギルドのマスターがやって来て決起を頼んで来た。
「この国の王よりも勝ち目のある体制を築かない限り神輿にはならん」
俺は、軽々しく約束するほど馬鹿でもないしいお調子者でもない。
約束をした事は、自分と愛する者達の命に係わらない限り守る。
だからこそ、簡単に応じる事はできない。
「分かっています、できる限り早く、貴族の方々の誓詞をお持ちします」
そうだ、分かっているじゃないか、さすがマスターだ。
商業ギルドの金と冒険者ギルドの武力だけでは、まだ足らないのだ。
貴族の金と武力が無ければ、この国、アルへシラス王国には対抗できない。
「俺を騙すための偽誓詞が一枚でも混じっていたら、お前を殺す」
「分かっております、公子殿下に本気で命を預ける者だけを集めます」
両天秤に掛けている訳ではないが、どちらにも想いがある。
アルへシラス王国には、こちらから傀儡王にしろと言ってしまった。
向こうが約束を守る姿勢を見せている限り、こちらから破棄できない。
とはいえ、タリファ王国の両ギルドマスターは幼い頃からの知人だ。
両ギルドで会員として活動していた時から、何度も交渉した間柄だ。
アルへシラス王国の占領下で処刑される事になったら、多少は胸が痛む。
「そうか、次来る事があったとしても、リヴァーデール男爵領で待っていてくれ。
城に匹敵するような竜牧場は完成しているが、俺以外の人間が一人もいない。
お茶の一杯も出せないし、大魔境の突破で不在の時も多い」
「この国の商業ギルドも冒険者ギルドも信用できないのでしたら、家のギルドから人を送らせていただきますが、いかがでしょうか?」
「いや、俺は誰も信用していない、人よりも竜やスライムの方が信用できる。
城と変わらない竜牧場の守りは竜とスライムがしてくれる、人は必要ない」
「では、竜を買ってまいりましょうか?
買った竜を運ぶのに家の冒険者使わせていただきますが?」
「竜の良し悪しは自分の目で確かめるし、側に他人がいるだけで安心できない。
どうしてもアルへシラス王国に人を入れたいのなら、男爵領に滞在させろ。
竜牧場は大魔境を突破できる竜の繁殖と調教を行う所だ。
俺以外の人間は、この国の王であろうと立ち入らせない。
空濠から中に入った者は問答無用で殺す、分かったな」
「はい、人を入れる時はリヴァーデール男爵領に留まらせていただきます。
今ひとつだけお聞かせください、殿下は何時男爵領に行かれるのですか?」
「大魔境突破の前後には報告に行くようにしている。
早くて三日に一度、遅くても五日に一度は報告に行く」
「それは、その気になれば二日で大魔境を往復できるという事ですか?!」
「そうだが、それがどうした、単に駆け抜けるだけの事だ。
日が昇るのと同時に入って日が沈む前に駆け抜ける。
一晩休んで同じように駆け抜けるだけの事だ、大した事ではない」
「殿下がその気になられたら、明日にでもアルへシラス王国の騎士団が大魔境を抜けて、タリファ王国に攻め込んで来るのですか?!」
「それはない、それは流石に無理だ、まだ竜も人も訓練ができていない。
全ての竜が俺の支配下に入って、恐怖でおかしくなった騎士が竜にどんな命令をしても、竜が俺の指示を優先するようになるまでは無理だ」
「軍事大国、アルへシラス王国の騎士ともあろう者が、恐怖のあまりおかしな命令を竜に下したりするのですか?!」
「ああ、大魔境の奥深くに住む魔獣や竜は、人間の根源的な恐怖を刺激する。
徹底的に鍛えられた騎士だからこそ、逃げずに無謀な突撃をしてしまう。
過去何度も繰り返された大魔境突破の失敗は、それが原因だ」
「分かりました、今直ぐ占領されないのでしたら、少し時間をかけます。
殿下に見放されないように、しっかりと調べてから味方を増やします」
「ああ、好きにしてくれ、俺はもう竜牧場に帰る」
★★★★★★
タリファ王国の両ギルドマスターが接触をした後は、しばらく穏やかだった。
両ギルドマスターは無理に人も竜も送り込んでこなかった。
アルへシラス王国の方も何も言ってこなかった。
アルへシラス王国は国王と首脳陣の間で意見がまとまらないのかもしれない。
あるいは、俺を殺す気になって隙を伺っているのかもしれない。
まあ、一番可能性があるのは、単なる計算違いだ。
あの悪質なクランが自滅した事で、人柱にする予定の人間がいなくなった。
犯罪者奴隷や冒険者はいるが、これからも戦いが続くのに、無駄な死傷者は極力出したくないのが普通だ。
「今日も張り切って大魔境を突破するぞ」
「「「「「クルルルルル!」」」」」
「「「「「クルルルルル!」」」」」
今日も愛竜達が元気よく返事をしてくれる。
俺に返事をして良いのは愛竜とクラン竜達だけだ。
貴族から預かった乗竜達は返事をする事も許されていない。
二十回も大魔境を突破しているので、よほどの不運がなければ失敗しない。
貴族達から預かった乗竜も、最後の五頭を突破させれば約束は完了だ。
クランメンバーに突破させる約束はあるが、それはもう少し引き延ばす。
サブクランリーダーを含めた九割以上の人間は心服させた。
彼らなら、俺がアルへシラス王国の敵になってもついていてくれる。
と思うが、油断はしない、だから突破はまだやらせない。
ウギャアアアアオ
寅さんが迂回しようとしているのに、執拗に追いかけてくる竜がいる。
最近では追われる事もなくなっていたのに、どうなっているのだ?
殿下を奉じて現王家を滅ぼし、殿下を推戴いたします」
タリファ王国の商業ギルドマスターが俺に決起を頼んできた日から四日後、今度は冒険者ギルドのマスターがやって来て決起を頼んで来た。
武力をもっている冒険者ギルドのマスターがやって来て決起を頼んで来た。
「この国の王よりも勝ち目のある体制を築かない限り神輿にはならん」
俺は、軽々しく約束するほど馬鹿でもないしいお調子者でもない。
約束をした事は、自分と愛する者達の命に係わらない限り守る。
だからこそ、簡単に応じる事はできない。
「分かっています、できる限り早く、貴族の方々の誓詞をお持ちします」
そうだ、分かっているじゃないか、さすがマスターだ。
商業ギルドの金と冒険者ギルドの武力だけでは、まだ足らないのだ。
貴族の金と武力が無ければ、この国、アルへシラス王国には対抗できない。
「俺を騙すための偽誓詞が一枚でも混じっていたら、お前を殺す」
「分かっております、公子殿下に本気で命を預ける者だけを集めます」
両天秤に掛けている訳ではないが、どちらにも想いがある。
アルへシラス王国には、こちらから傀儡王にしろと言ってしまった。
向こうが約束を守る姿勢を見せている限り、こちらから破棄できない。
とはいえ、タリファ王国の両ギルドマスターは幼い頃からの知人だ。
両ギルドで会員として活動していた時から、何度も交渉した間柄だ。
アルへシラス王国の占領下で処刑される事になったら、多少は胸が痛む。
「そうか、次来る事があったとしても、リヴァーデール男爵領で待っていてくれ。
城に匹敵するような竜牧場は完成しているが、俺以外の人間が一人もいない。
お茶の一杯も出せないし、大魔境の突破で不在の時も多い」
「この国の商業ギルドも冒険者ギルドも信用できないのでしたら、家のギルドから人を送らせていただきますが、いかがでしょうか?」
「いや、俺は誰も信用していない、人よりも竜やスライムの方が信用できる。
城と変わらない竜牧場の守りは竜とスライムがしてくれる、人は必要ない」
「では、竜を買ってまいりましょうか?
買った竜を運ぶのに家の冒険者使わせていただきますが?」
「竜の良し悪しは自分の目で確かめるし、側に他人がいるだけで安心できない。
どうしてもアルへシラス王国に人を入れたいのなら、男爵領に滞在させろ。
竜牧場は大魔境を突破できる竜の繁殖と調教を行う所だ。
俺以外の人間は、この国の王であろうと立ち入らせない。
空濠から中に入った者は問答無用で殺す、分かったな」
「はい、人を入れる時はリヴァーデール男爵領に留まらせていただきます。
今ひとつだけお聞かせください、殿下は何時男爵領に行かれるのですか?」
「大魔境突破の前後には報告に行くようにしている。
早くて三日に一度、遅くても五日に一度は報告に行く」
「それは、その気になれば二日で大魔境を往復できるという事ですか?!」
「そうだが、それがどうした、単に駆け抜けるだけの事だ。
日が昇るのと同時に入って日が沈む前に駆け抜ける。
一晩休んで同じように駆け抜けるだけの事だ、大した事ではない」
「殿下がその気になられたら、明日にでもアルへシラス王国の騎士団が大魔境を抜けて、タリファ王国に攻め込んで来るのですか?!」
「それはない、それは流石に無理だ、まだ竜も人も訓練ができていない。
全ての竜が俺の支配下に入って、恐怖でおかしくなった騎士が竜にどんな命令をしても、竜が俺の指示を優先するようになるまでは無理だ」
「軍事大国、アルへシラス王国の騎士ともあろう者が、恐怖のあまりおかしな命令を竜に下したりするのですか?!」
「ああ、大魔境の奥深くに住む魔獣や竜は、人間の根源的な恐怖を刺激する。
徹底的に鍛えられた騎士だからこそ、逃げずに無謀な突撃をしてしまう。
過去何度も繰り返された大魔境突破の失敗は、それが原因だ」
「分かりました、今直ぐ占領されないのでしたら、少し時間をかけます。
殿下に見放されないように、しっかりと調べてから味方を増やします」
「ああ、好きにしてくれ、俺はもう竜牧場に帰る」
★★★★★★
タリファ王国の両ギルドマスターが接触をした後は、しばらく穏やかだった。
両ギルドマスターは無理に人も竜も送り込んでこなかった。
アルへシラス王国の方も何も言ってこなかった。
アルへシラス王国は国王と首脳陣の間で意見がまとまらないのかもしれない。
あるいは、俺を殺す気になって隙を伺っているのかもしれない。
まあ、一番可能性があるのは、単なる計算違いだ。
あの悪質なクランが自滅した事で、人柱にする予定の人間がいなくなった。
犯罪者奴隷や冒険者はいるが、これからも戦いが続くのに、無駄な死傷者は極力出したくないのが普通だ。
「今日も張り切って大魔境を突破するぞ」
「「「「「クルルルルル!」」」」」
「「「「「クルルルルル!」」」」」
今日も愛竜達が元気よく返事をしてくれる。
俺に返事をして良いのは愛竜とクラン竜達だけだ。
貴族から預かった乗竜達は返事をする事も許されていない。
二十回も大魔境を突破しているので、よほどの不運がなければ失敗しない。
貴族達から預かった乗竜も、最後の五頭を突破させれば約束は完了だ。
クランメンバーに突破させる約束はあるが、それはもう少し引き延ばす。
サブクランリーダーを含めた九割以上の人間は心服させた。
彼らなら、俺がアルへシラス王国の敵になってもついていてくれる。
と思うが、油断はしない、だから突破はまだやらせない。
ウギャアアアアオ
寅さんが迂回しようとしているのに、執拗に追いかけてくる竜がいる。
最近では追われる事もなくなっていたのに、どうなっているのだ?
72
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
そんな事も分からないから婚約破棄になるんです。仕方無いですよね?
ノ木瀬 優
恋愛
事あるごとに人前で私を追及するリチャード殿下。
「私は何もしておりません! 信じてください!」
婚約者を信じられなかった者の末路は……
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。
固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる