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第2章

第42話:違和感

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 寅さん達の活躍で、子供を誘拐した連中は捕らえられた。
 事もあろうに、俺に絡んで来た悪質冒険者が所属したクランのメンバーだった。
 激怒した男爵は、襲って来た連中全員に激しい拷問を加えた。

 男爵の性格なら即座に皆殺しにするかと思ったが、違っていた。
 百戦錬磨だから、その場の怒りよりも背後関係が気になったのかもしれない。
 背後に誰がいるのかを確かめて、黒幕も始末する気なのかもしれない。

 その点は納得できるのだが、どうしても気になる事があった。
 誘拐されかけたのが男爵の子供ではなく、狂竜騒動の子供だった事だ。

 領民の子供ならまだ分かるが、男爵領に大損害を与えかけた子供達だぞ。
 男爵が子供好きだとしても、そんな子供達のために、あれほど悲痛な声で助けを求めるとは思えない。

 男爵が度外れた子供好きという可能性も、全く無いとはいえない。
 だが、男爵は領主であり、責任感が強い。

 領民を全滅させる可能性があった騒動を引き起こした子供を、あれほど悲痛な声を上げて助けようとするのには、何とも言えない違和感がある。

「男爵、あの子供の事だが……」
「カーツ様、緊急の来客でございます。
 タリファ王国から商業ギルドのマスターが会いたいと来られておられます。
 至急に話さなければいけない重大な事があると申されています」

 俺が男爵に話を聞こうとしたその時、男爵の執事が部屋の外から話しかけてきた。
 男爵と子供の関係は気になるが、それよりもタリファ王国からわざわざ商業ギルドのマスターが会いに来た、理由の方がもっと気になる。

「分かった、会おう、男爵、申し訳ないが話をする部屋を借りたい」

「今日は本当に助かった、心から感謝する。
 部屋を貸すくらい何でもない、好きに使ってくれ。
 とても大切な話だと思うから、誰も近づかせないようにする」

「ああ、そうしてくれると助かる、お茶もいらない」

「お茶は最初にセットで置かせてく、話が終わったら呼んでくれ」

「ありがとう、そうさせてもらうよ」

 俺は男爵の好意に甘えて部屋を貸してもらった。
 俺の竜牧場の方が密談に向いているのだが、あそこには俺と竜達しかいない。 
 部屋は幾らでもあるのだが、客を歓待する家臣や使用人が一人もいない。

「クリスティアン公子殿下、お元気で何よりでございます」

 タリファ王国の商業ギルドマスターがズバリ俺の正体を言う。

「良く分かったね、俺は死んだことになっているのではないのかい?」

 アンドレア王女とゲオルクはしつこく俺を探しているようだが、俺が生きていると都合が悪いのか、大魔境で魔獣に襲われて死んだと発表していた。
 前回の大魔境突破でタリファ王国に行った時に、クランメンバーが言っていた。

「有能で評判だった殿下が生きていいると都合が悪いのでしょう。
 死んだ事にしないと、神与の儀式で平民になられたとしても不安なのでしょう。
 まして今回は、もしかしたら貴族スキルかもしれないのに平民落ちさせたのです。
 殿下を慕う貴族や平民が、殿下を奉じて謀叛するのが怖いのでしょう」

「俺にそんな気はないよ、そんな野望はないよ」

「殿下、私も商業ギルドを預かるマスターです。
 職員と会員、その家族や従業員の生活、いえ、命を預かっております。
 常に情報を集めて、何が起きても対処できるようにしております。
 例の割符の一件で、この国の商業ギルドと殿下の情報を急いで集めました。
 割符の件がなくても、危険なアルへシラス王国は常に警戒しいていたのです。
 殿下が何をされているのか、この国に何を要求されているのか、知っております」

「傀儡王位の事かい、あれは絶対に受け入れられない要求をしただけだよ」

「嘘を言われないでください、殿下なら可能な事ではありませんか。
 野心に満ちたこの国の王なら、一時的に受け入れてもおかしくはありません。
 十年後二十年後に、十分な体制を築いでから殿下を殺す。
 それまでは傀儡にしておくくらい平気でやる方です」

「良く分かっているね、この国の王ならそれくらいやるだろうね。
 だが俺としては、それだけの時間が稼げたら十分だ」

「殿下はそれで好いでしょう。
 十年間でアルへシラス王国を打倒できる力を蓄えられる事でしょう。
 ですが我々平民は違います、その十年で何人殺されるか分かりません。
 アルへシラス王国の支配下で塗炭の苦しみを味わうのです」

「そこまで酷くはないさ、むしろ、アンドレア王女とゲオルクが治めるタリファ王国よりは住みやすい国になるのではないか?
 マスターが気にしているのはタリファ王国の事ではないだろう?
 商業ギルドとギルドに携わる人たちの事だろう?
 この国の商業ギルドのようなやり方を押し付けられたくないのだろう?」

「殿下を利用しようと思っても無駄ですね」

「ああ、そうだね、黙って利用されてやるほどお人好しじゃない。
 これでも商業ギルドに所属して商売をしていたんだ。
 騙し騙される商人の世界で生きてきたんだ、何の利益もなく手を貸す気はない。
 この国に担がれて傀儡の王になるよりも多くの利が得られるのでなければ、マスターに担がれる気はないぞ」

「傀儡の王ではなく、真の王になっていただくというのはどうでしょうか?
 商業ギルドが全力で支えさせていただきます、今の王家を打倒されませんか?」

「成功率が低いね、この国の王に担がれる方が確実に傀儡王になれる。
 傀儡であろうと、一度王に成れたら後はどうにでもなるからね」

「商業ギルドだけではありません、冒険者ギルドも味方いたします。
 心ある多くの貴族も今も状態を憂いております。
 殿下がその気になられたら、過半数の貴族が味方に参じます」

「言葉だけでなく、実際にそれだけの味方がいるのを証明してくれ。
 この国に担がれたら安全確実に王に成れると分かっているのに、金はあっても武力はない商業ギルドだけに担がれるほど馬鹿じゃない」
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