34 / 50
第2章
第33話:二度ある事は三度ある
しおりを挟む
やらなければいけない事が多過ぎて、あっという間に二十日経った。
最短の十五日は無理だったが、二十日で大魔境突破の条件が整った。
万全を期すために、期限ギリギリまで調教を続けるべきだと言う者もいた。
俺の事を心配して言ってくれているのは分かるが、余計なお世話だ。
これ以上リヴァーデール男爵領に残して来たスライムを放置できない。
「カーツリーダー、本当に乗竜や駄竜を連れて行かれるのですか?」
サブクランリーダーが本気で心配してくれている。
もの凄く回復しているとはいえ、元の弱く年老いた姿を知っているのだ。
弱い竜のせいで、実験が失敗するかもしれないと心配しているのだろう。
「ああ、連れて行く、あれだけ大口を叩いたんだ、結果は示さないとな」
アルへシラス王国には、俺に好意的な者もいれば敵意を持っている者もいる。
その両方に、俺を殺すのではなく利用した方が国の為だと思わせる。
思わせられないと、全力で殺しにかかって来る。
俺に好意的だからといっても安心できない。
王家王国に忠義の貴族は、大切な家族を殺してでも王家王国の為に働く。
まして他人でしかない俺の事など、眉一つ動かさずに殺すだろう。
アルへシラス王国首脳陣全員に、俺は生かしておいた方が良いと思わせる。
そのためには、駄竜も大魔境を突破せせられる実力を見せないといけない。
軍竜の裸竜を突破させる程度では、もう驚かれないだろう。
「分かりました、もう何も言いません、御無事を祈っております」
「無事に戻って来て下さい、待っています」
「成功されると信じています、早く戻って来て下さい」
「カーツリーダーは必ず突破されると信じています」
「二度成功されたのです、三度目も成功されると信じています」
色仕掛けの女性騎士候補を始めとしたクランメンバーに見送られた。
三度目ともなると、大魔境突破に対する不安はなかった。
★★★★★★
「大魔境を突破してきました、少し休ませてください」
三度目の大魔境突破も死傷する事なく成功した。
二度目と同じように、目的のリヴァーデール男爵領に戻って来られた。
少しだけ疲れていたが、休む事無く男爵に帰領報告した。
「よく無事に戻った、三度も成功させるなんて、もう何の不安もない。
問題は率いた竜の生存率だ、何頭やられたんだ?」
「一頭もやられていませんよ、九頭率いて九頭全部突破させました」
「なんと、被害なしだと、信じられん!」
「信じられないと言われても、やって見せたんですから信じてください。
嘘や誤魔化しがないかは、密偵の報告と照らし合わせてください。
出発した時に九頭だったと証言してくれるはずです」
「すまん、疑っている訳じゃない、あまりの快挙に、口にしてしまっただけだ。
これほどの快挙を成し遂げたカーツ殿を、もてなさない訳にはいかん。
領地をあげてお祝いするから、ここにいてくれ」
「気持ちはうれしいのですが、仮設住宅が気になります。
長くても五日で帰って来る予定だったのに、三十日も留守にしてしまった。
スライムの餌に用意していた雑竜が腐っていると思う」
「ああ、それなら大丈夫だ、俺が毎日様子を見ていた。
カーツ殿がカギを預けていた土木スキル持ちの猟師から鍵を借りた。
実験中のスライム箱は開けなかったが、厩舎の掃除は毎日やった。
陰干ししていた雑竜も、腐る前に氷室に放り込んである」
「それは有難うございます、そこまでしていただけると思っていませんでした。
ですが、それでも、スライムの事が心配です。
餌も水も与えられずに三十日も経っているのです。
もしまだ生きているなら、今直ぐ行って餌を与えないといけません」
「スライムの何がそんなに大切なのかは分からないが、あれだけの実績を示したカーツ殿が大切だと言うのだ、邪魔をする訳にはいかんな。
分かった、祝賀会はカーツ殿の手が空いた時にする。
できるだけ早く祝賀会を開けるように、何でも手伝うぞ」
「手伝ってくださると言うのでしたら、スライムの餌を売ってください。
家畜の餌にする血や内臓で構いません、直ぐに仮設住宅に運んでください。
いえ、僕が運べる分は全部手渡ししてください、今直ぐください」
「おい、おい、おい、スライムよりも竜の餌だろう。
消耗しきっている竜達の餌を準備してやる、どれだけ用意したらいい?」
「竜達は大丈夫です、満腹なので餌の必要はありません。
安心して寝られる場所さえあれば大丈夫です」
「……何を言っているんだ、理解できないんだが、何をやったんだ?!」
「何を驚いているのです、驚くような事ではないでしょう?」
「馬鹿野郎、驚く事だ、大魔境突破は命懸けの不眠不休だろう?!」
「命懸けなのも不眠不休なのも否定しません、その通りです。
ですが、食事ができない訳ではありません。
特に竜は、走りながら魔蟲や雑竜を食べられます。
今回も安全な迂回路を使って、害竜や強大な魔獣を避けられました。
好きな物を選んで食べたりはできませんでしたが、満腹にはできました」
「……そうか、俺が無知なのだな、分かった、スライムの餌を用意する」
「では僕は先に仮設住宅に行って準備してきます。
もしかしたら疲れて寝てしまうかもしれませんが、その時は起こしてください」
「そのまま寝ていろ、快挙を成し遂げた日くらいは休め。
スライムの餌やりくらい俺がやってやる」
「それは困ります、餌を与えない実験をしているスライムもいるのです。
もし寝てしまっていたら、蹴り飛ばしてでも起こしてください!」
最短の十五日は無理だったが、二十日で大魔境突破の条件が整った。
万全を期すために、期限ギリギリまで調教を続けるべきだと言う者もいた。
俺の事を心配して言ってくれているのは分かるが、余計なお世話だ。
これ以上リヴァーデール男爵領に残して来たスライムを放置できない。
「カーツリーダー、本当に乗竜や駄竜を連れて行かれるのですか?」
サブクランリーダーが本気で心配してくれている。
もの凄く回復しているとはいえ、元の弱く年老いた姿を知っているのだ。
弱い竜のせいで、実験が失敗するかもしれないと心配しているのだろう。
「ああ、連れて行く、あれだけ大口を叩いたんだ、結果は示さないとな」
アルへシラス王国には、俺に好意的な者もいれば敵意を持っている者もいる。
その両方に、俺を殺すのではなく利用した方が国の為だと思わせる。
思わせられないと、全力で殺しにかかって来る。
俺に好意的だからといっても安心できない。
王家王国に忠義の貴族は、大切な家族を殺してでも王家王国の為に働く。
まして他人でしかない俺の事など、眉一つ動かさずに殺すだろう。
アルへシラス王国首脳陣全員に、俺は生かしておいた方が良いと思わせる。
そのためには、駄竜も大魔境を突破せせられる実力を見せないといけない。
軍竜の裸竜を突破させる程度では、もう驚かれないだろう。
「分かりました、もう何も言いません、御無事を祈っております」
「無事に戻って来て下さい、待っています」
「成功されると信じています、早く戻って来て下さい」
「カーツリーダーは必ず突破されると信じています」
「二度成功されたのです、三度目も成功されると信じています」
色仕掛けの女性騎士候補を始めとしたクランメンバーに見送られた。
三度目ともなると、大魔境突破に対する不安はなかった。
★★★★★★
「大魔境を突破してきました、少し休ませてください」
三度目の大魔境突破も死傷する事なく成功した。
二度目と同じように、目的のリヴァーデール男爵領に戻って来られた。
少しだけ疲れていたが、休む事無く男爵に帰領報告した。
「よく無事に戻った、三度も成功させるなんて、もう何の不安もない。
問題は率いた竜の生存率だ、何頭やられたんだ?」
「一頭もやられていませんよ、九頭率いて九頭全部突破させました」
「なんと、被害なしだと、信じられん!」
「信じられないと言われても、やって見せたんですから信じてください。
嘘や誤魔化しがないかは、密偵の報告と照らし合わせてください。
出発した時に九頭だったと証言してくれるはずです」
「すまん、疑っている訳じゃない、あまりの快挙に、口にしてしまっただけだ。
これほどの快挙を成し遂げたカーツ殿を、もてなさない訳にはいかん。
領地をあげてお祝いするから、ここにいてくれ」
「気持ちはうれしいのですが、仮設住宅が気になります。
長くても五日で帰って来る予定だったのに、三十日も留守にしてしまった。
スライムの餌に用意していた雑竜が腐っていると思う」
「ああ、それなら大丈夫だ、俺が毎日様子を見ていた。
カーツ殿がカギを預けていた土木スキル持ちの猟師から鍵を借りた。
実験中のスライム箱は開けなかったが、厩舎の掃除は毎日やった。
陰干ししていた雑竜も、腐る前に氷室に放り込んである」
「それは有難うございます、そこまでしていただけると思っていませんでした。
ですが、それでも、スライムの事が心配です。
餌も水も与えられずに三十日も経っているのです。
もしまだ生きているなら、今直ぐ行って餌を与えないといけません」
「スライムの何がそんなに大切なのかは分からないが、あれだけの実績を示したカーツ殿が大切だと言うのだ、邪魔をする訳にはいかんな。
分かった、祝賀会はカーツ殿の手が空いた時にする。
できるだけ早く祝賀会を開けるように、何でも手伝うぞ」
「手伝ってくださると言うのでしたら、スライムの餌を売ってください。
家畜の餌にする血や内臓で構いません、直ぐに仮設住宅に運んでください。
いえ、僕が運べる分は全部手渡ししてください、今直ぐください」
「おい、おい、おい、スライムよりも竜の餌だろう。
消耗しきっている竜達の餌を準備してやる、どれだけ用意したらいい?」
「竜達は大丈夫です、満腹なので餌の必要はありません。
安心して寝られる場所さえあれば大丈夫です」
「……何を言っているんだ、理解できないんだが、何をやったんだ?!」
「何を驚いているのです、驚くような事ではないでしょう?」
「馬鹿野郎、驚く事だ、大魔境突破は命懸けの不眠不休だろう?!」
「命懸けなのも不眠不休なのも否定しません、その通りです。
ですが、食事ができない訳ではありません。
特に竜は、走りながら魔蟲や雑竜を食べられます。
今回も安全な迂回路を使って、害竜や強大な魔獣を避けられました。
好きな物を選んで食べたりはできませんでしたが、満腹にはできました」
「……そうか、俺が無知なのだな、分かった、スライムの餌を用意する」
「では僕は先に仮設住宅に行って準備してきます。
もしかしたら疲れて寝てしまうかもしれませんが、その時は起こしてください」
「そのまま寝ていろ、快挙を成し遂げた日くらいは休め。
スライムの餌やりくらい俺がやってやる」
「それは困ります、餌を与えない実験をしているスライムもいるのです。
もし寝てしまっていたら、蹴り飛ばしてでも起こしてください!」
77
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説

パーティのお荷物と言われて追放されたけど、豪運持ちの俺がいなくなって大丈夫?今更やり直そうと言われても、もふもふ系パーティを作ったから無理!
蒼衣翼
ファンタジー
今年十九歳になった冒険者ラキは、十四歳から既に五年、冒険者として活動している。
ところが、Sランクパーティとなった途端、さほど目立った活躍をしていないお荷物と言われて追放されてしまう。
しかしパーティがSランクに昇格出来たのは、ラキの豪運スキルのおかげだった。
強力なスキルの代償として、口外出来ないというマイナス効果があり、そのせいで、自己弁護の出来ないラキは、裏切られたショックで人間嫌いになってしまう。
そんな彼が出会ったのが、ケモノ族と蔑まれる、狼族の少女ユメだった。
一方、ラキの抜けたパーティはこんなはずでは……という出来事の連続で、崩壊して行くのであった。

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる