上 下
32 / 50
第2章

第31話:命令と反抗

しおりを挟む
 俺はタリファ王国に再々入国してから竜の世話に専念した。
 小さく弱く歳を取った竜が多く、能力的にはとても低い竜だ。
 だが、俺が命を預かるのだ、最良のコンディションにする責任がある!

「いいか、まずはしっかりと食べさせることが大切だ、
 食べて体力をつけさせないと調教もできない。
 調教以前に怪我を治す事すらできない。
 怪我の治っていない状態の竜に乗って戦いたいか?」

「「「「「戦いたくありません!」」」」」

「そうだ、どんな竜であろうと、自分が騎乗して戦うのだと考えて世話をするんだ。
 今この状態で攻撃を受けたら、この竜に乗って戦うのだぞ!
 今自分の手元にある武器や金しか使う物がない状態で、どうすれば良いのか。
 どうすれば生き残って栄光をつかめるか、常に考えながら生きるんだ」

「「「「「はい、常に考えて生きます!」」」」」

「俺達の最大の武器は考える力で、次が竜だ、自分の身体ではなく竜だ、忘れるな」

「「「「「はい、忘れません、最大の力は竜です!」」」」」

 五日間しっかりと竜達の御世話をした。
 もちろん、寅さん達が一番可愛いので、最優先は彼らだ。
 寅さん達に従わせる群の一員として、クランの竜を可愛がった。

 クランメンバーには惜しみなく知識を与えた。
 最悪の場合は、小さく弱く年老いた竜で大魔境を突破させられるかもしれない。
 クランメンバーもその恐れがある事を知っているのだろう、真剣に聞き実行する。

 竜が好む獲物を狙った狩りをして、その肉に薬草を入れて食べさせる。
 ブラッシングではないが、鱗と皮の状態を確認しながら皮膚の手入れしてやる。
 必要なら脂を塗り込んで皮と鱗の再生を催す。

 竜の中でも人が家畜化した益竜は、群れをつくる種族が大半だ。
 だからこそ人に従ってくれるのだが、人以上に強い竜に従う傾向がある。
 餌を確保し強い敵から守ってくれる、ボス竜に従う習性があるのだ。
 
 その習性を利用して、クランの竜を寅さんの群れに入れた。
 寅さんの命令に絶対服従するようになってから、口を開けさせて歯の確認をした。
 多くの竜の歯は何度でも生え変わるのだが、たまに生え変わらない個体もいる。

 食べ物は丸呑みで、歯がなくても消化吸収への影響は少ない。
 だが、敵と戦う時には歯の有無が生死を分ける事がある。
 だからしっかり点検して、必要なら義歯を作って接着してやる。

「カーツ殿、ギルドマスターから今いる竜で大魔境を突破しろと指示が来ました」

 サブクランリーダーが伝書鳩の手紙を確認して言う。
 嘘をついていない証拠を見せるためか、鳩の足に付けられた小箱で運ばれてきた、小さな手紙を俺に見せる。

「突破は最短でも今日から二十日、回復が遅れるようなら四十日後になる」

「カーツ殿、これは軍令です、逆らったらただではすみません」

「形だけとはいえ、この作戦の責任者は俺だ。
 失敗すると分かっていて、作戦の決行はできない」

「しかしそれではカーツ殿が処罰されてしまいます」

「真実を誤魔化して国王陛下を騙したから、俺が処罰されるだろう、違うか?」

「何を言っておられるのですか?
 まともな竜を買えなかった私の責任だと言っておられるのですか?」

「もう少し広く周りを見ろ、上司の失敗にも目を配れ、さもないと生贄にされるぞ。
 今回満足な竜を買えなかったのは、ギルドマスターの見積もりが甘かったからだ。
 キッチリとした命令与えずに、次にする事を臭わせてサブに竜を買わせたのは、何かあったらお前達に責任を擦り付けるためだ。
 奴の無能と身勝手の為に、大魔境の突破に失敗して死ぬ気はない」

「失敗の原因がギルドマスターだったとしても、ギルドマスターの責任だったとしても、それが国王陛下に伝わらなければカーツ殿の失敗になってしまいます。
 さっき言っていたのは、その事ですよね?
 しかしそれならまだ言い訳ができますし、厳罰は回避できます。
 ですが命令違反となれば、問答無用で厳罰に処せられてしまいます。
 下手をすれば処刑されてしまいます、命令に従ってください」

「罰せられるくらいなら逃げるだけだ。
 何が哀しくて、卑怯で下劣で無能な奴のために死ななくてはならない。
 寅さん達がいてくれたら、どこに行っても楽々生きて行ける。
 今なら十二頭の駄竜と乗竜もついて来てくれる、糞な国に残る義理はない」

「そんな事をされたら命懸けで止めなければいけなくなります、止めてください!」

「本気で止められると思っているのか?
 全クランメンバーが束になってかかって来ても、寅さん一頭にも勝てないぞ?
 そんなに竜に喰われて死にたいのか?」

「死にたくはありません、ありませんが、命令に背いたら家族が……」

「困った奴だ、アルへシラス王国の権力関係に詳しい者はいるか?
 冒険者ギルドのマスターと敵対している権力者を知らないか?」

「私が知っています、失脚した侯爵派が敵対していました。
 今は力を失っていますが、復権の機会を伺っています。
 船が来た時に手紙を渡して、マスターの横暴と失敗を知らせますか?」

 色仕掛けの女性騎士候補が勢い込んで言う。
 他にも八人ほど同意の表情をしている騎士候補がいる。
 だが、一度王の逆鱗に触れた奴らと手を組むのは危険過ぎる。

「いや、侯爵派と手を組む気はない。
 俺を恨んでいる奴と手を組んでも、何時裏切られるか分からない。
 最悪の場合は、背中から刺されて死ぬ事になる」

「だったらどうされるのですか、本当に逃げてしまわれるのですか?」

「生きてさえいれば何度でもやり直せる、だからまず生き残る術を確保する。
 何時でも逃げられる準備をしておいて、最善を尽くすのだ、覚えておけ。
 その上で聞く、ギルドマスターに出世争いのライバルはいないのか?
 同じ派閥だからと言って味方とは限らないのだぞ」

「知っています、マスターの競争相手を知っています」

「そうか、そいつにマスターの失策を知らせろ、王を騙した事を伝えろ」

「分かりました、直ぐに伝えます!」

「他にいないか、マスターの競争相手を知らないか?」

「「「「「……」」」」」

「だったら次は中立派だ、中立派だから出世に興味が無いとは限らない。
 中立を装いつつ出世の機会を伺っている者もいる。
 そんな奴を知らないか、知っている者に工作を任せるぞ」

「「「「「知っています!」」」」」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

そんな事も分からないから婚約破棄になるんです。仕方無いですよね?

ノ木瀬 優
恋愛
事あるごとに人前で私を追及するリチャード殿下。 「私は何もしておりません! 信じてください!」 婚約者を信じられなかった者の末路は……

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...