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第1章

第20話:見張り

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「カーツ殿、街の周りに不審なモノがうろついている、気をつけられよ」

 リヴァーデール男爵領にお世話になりだして三日目に言われた。
 俺もここを見張っている奴がいる事には気が付いていた。
 ただ、この国の密偵か、敵対している誰かの密偵か分からなかった。

「はい、俺も気が付いていましたが、国の密偵ではないのですね?」

「……ふむ、絶対に違うとは言えないが、国の密偵はもっと優秀だ。
 あえて外部に依頼するという手段もあるが、カーツ殿にその価値はない」

「俺はもう無価値になりましたか?」

「冒険者ギルドのマスターに啖呵を切ったのだろう。
 あの啖呵は王国の有力者の間で噂になっている、俺も聞いて大笑いしたよ」

「だったら命を狙われてもおかしくないですね」

「いや、むしろ良く言ってくれたという者が圧倒的だ。
 特に古参の貴族がもの凄くよろこんでいる。
 古参衆は、最近の謀略を駆使したやり方に反感を持っていたのだ。
 以前のように、力押しで戦うのだと息巻いている」

「だとしたら国の密偵や刺客の可能性は低いですね」

「ああ、絶対違うとは言えないが、可能性はとても低い。
 カーツ殿は、密偵を送って来る敵に思い当たる奴はいないか?」

「最も可能性があるとしたら、賠償金をふんだくった商業ギルドですね。
 次に可能性があるのが、俺がきっかけで壊滅的損害を受けた冒険者クランです。
 ああ、そうだ、忘れていた、僕のせいで当主が処刑された侯爵がいましたよね?
 名前は知りませんが、その侯爵家の跡継ぎや家族の可能性があります。
 それと、侯爵を頭に派閥を組んでいた貴族が軒並み処分されましたよね?
 侯爵の遺族や一派が、復讐するために探っている可能性もありますね」

「なるほど、どの連中もカーツ殿に並々ならぬ恨みがあるな。
 商業ギルドの件は聞いているが、アルへシラス王国王都商業ギルドの割符の受け取りを拒否する商業ギルドや商人が現れて、大混乱になっているそうだ。
 割符の受け取りを拒否された商人の中には、商機を逃がして大損した者もいる。
 商業ギルドに賠償を求めて大問題になっている」

「男爵閣下は儲けられましたか?」

「俺はそっち方面は全く駄目なのだ。
 下手に手を出したら大損をするから、高みの見物をさせてもらっている。
 ただ、カーツ殿のお陰で大儲けした貴族も多い。
 表立って礼を言う者はいないが、好意的に見ている貴族がいる」

「ですが、逆に大損した貴族もいるのではありませんか?
 大損した商人と関係している貴族からは、忌み嫌われている気がします」

「ワッハハハハ、確かにそうだ、連中からは恨まれているな。
 だが気にするな、商業ギルドの関係者も、大損したのも、侯爵派だ」

「これは本気で刺客を警戒した方が良いですね」

「ああ、そうだな、ヤケクソになって刺客を放つ者がいるかもしれない。
 だが、ほんとんどの侯爵派は、刺客を雇う金があるなら家の立て直しに使う。
 国王陛下の勘気を解くために、次の戦いに備えて兵を集めて武器を買う」

「そんな事をしたら、謀叛を言い立てられて討伐されませんか?」

「事前に国王陛下や重臣の方々に、挽回の為に戦争で頑張ると言っておくのだ。
 軍事強国の我が国では、それで謀叛は疑われない」

「それを良い事に、謀叛を実行する者がいなければ良いのですが」

「その時は古参衆が陣頭に立って粉砕するだろう。
 俺も領民軍を率いて自慢の槍裁きを見せられる、謀叛してくれた方が良い」

★★★★★★

 初めて見張りを見つけた日は、人数も五人だったのでそれほど気にしなかった。
 だが、見張りが五人から十人、十人から二十人と増えていった。
 十日後には五十人にまで増えてしまい、捨てて置けなくなった。

「カーツ殿、さすがに笑っていられなくなった。
 戦える男達が大魔境に入っている間に襲われたら、シャレにならん。
 特に職人や女子供や砦を出てカーツ殿の竜牧場を造っている状況ではな」

「男爵閣下なら簡単に皆殺しにできるでしょうに」

「ふん、爵位をもらっていなければ文句を言って追い払う。
 文句を言っても引かなければ、皆殺しにする。
 だが、爵位をもらってしまったから、勝手に国民を殺せない」

「苦しい言い訳は止めましょう。
 無断に男爵領に入っているんです、その気になれば殺せるでしょう?
 はっきり言ってくださいよ、迷惑料を払えと。
 あいつらはお前のせいで集まったのだから、お前が迷惑料を払えと」

「幾ら俺でもそんな露骨には言えん、とはいえ、上手く遠回しにも言えん。
 カーツ殿は分かっているようだから飾るのは止めよう、幾ら払ってくれる?」

「最終的には皆殺しにしてくれるのですよね?」

「ああ、今集まって来ている連中だけなら、俺独りで簡単に皆殺しにできる」

「だったら多少のお金は払わせていただきます。
 補償はできませんが、狩りに行けない人達を雇います、
 狩りで得られるくらいの日当で、竜牧場の建築をやってもらいます」

「それはいい、猟師は一人につき二百アル、俺は千アルだ」

「そこそこの職人でも一日四十アルで、熟練の職人でも一日六十アルですよ」

「猟師としての稼ぎを保証すると言ったではないか。
 俺が猟を指揮するのだ、四千アルくらいの獲物は簡単に狩れる。
 カーツ殿も一日に十万アルくらい稼いでいるではないか。
 俺だって本気で狩れば一日に十万アルくらい稼げるぞ」

「それは俺が六頭の軍竜を駆使しているからですよ。
 狩った獲物を軍竜に運ばせる事ができるからです」

「それは俺も同じだ、猟師達に俺が狩った獲物を運ばせられる。
 俺と猟師が組めば、カーツ殿同じかそれ以上の利益がある。
 現にこれまでずっと毎日十万アルくらい稼いできた。
 猟師が一人に二百アル、俺が千アルというのは格安の特別料金だぞ」

「う~ん、困りましたね、そんなに払うと相場が狂ってしまう。
 弓兵の日当相場が百二十アル、上級騎士の日当が五百八十アルですよ。
 猟師達が乗っている竜は良くて乗竜、大多数は駄竜ですよね。
 軍竜に乗っているのは男爵閣下だけですよね、国が払う傭兵の日当が高くなってしまいますよ、それでも良いのですか?」

「う~む、それはそうだが、個人ではなくチーム、領主軍として評価しろ」

「領主軍として総合評価するのですね、分かりました。
 歴戦の傭兵団を雇うとか、敵の貴族を寝返らせるお金だと考えましょう。
 確かに、男爵閣下が狩った分を猟師が運ぶなら、俺と同じくらい稼げますね。
 猟師は一日二百アル、男爵閣下は一日千アルで結構です。
 その代わり、竜牧場造りは急いでください」

「おう、任せておけ」
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