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第1章

第16話:リヴァーデール男爵領

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「話がついた、大魔境近くのリヴァーデール男爵領に行ってもらう」

 冒険者ギルドのマスターを相手にギリギリの交渉をした十日後。
 王都の外に出る許可、大魔境近くに拠点を置く許可がおりた。
 軍事大国アルへシラス王国でも有数の騎士が治める領地だった。

 寅さんは十日間で百頭の雌竜に種付けをした、絶倫である。
 冒険者ギルドは、竜牧場が不正を行わないように見張ってくれるそうだ。
 それでも予定通り見張りを雇った、一つの竜牧場に一人の冒険者を送り込んだ。

 自分の竜牧場を築くリヴァーデール男爵領は、魔境に続く森の中にある。
 男爵の領都は材木と土で築かれた城壁に守られていた。
 昼の間は男達が魔境で狩りをしている男爵領の警戒は、とても厳重だった。

 俺が以前助けた、猟師村に近い場所にあった。
 男爵領に行くのに、これまでと同じように十五人の兵士が護衛についた。

「待て、顔の分からない者は通せない!」

「我々は王都警備団所属の兵である。
 団長の命令で男爵領に滞在する客人を護衛してきた。
 早に城門を開け、領主館に案内せよ!」

「今日客人が来るとは男爵閣下から聞かされていない。
 並の騎士十騎人分もの戦闘力がある軍竜を、六頭も中には通せない」

「門番として警戒するのは立派だが、我らの姿を見れば分かるだろう。
 王都警備団の兵士を警戒するなど、愚かにもほどがあるぞ!」

 十五人の兵士を率いる廿長が怒りを抑えながら門番に言う。

「王都警備団の兵士殿や本物の客人を門前払いする非礼は十分承知している。
 後に死罪になる覚悟も決めている。
 だから、何を言われても、男爵閣下が戻られるまでは中に入れられない。
 治安が悪化していて、偽物の紹介状持って村を襲う盗賊がいる。
 王都警備団の制服や鎧を装備して村を襲った盗賊もいた。
 男爵閣下が戻られるまで待たれるか、時間をつぶしていただきたい」

 主人や領民の為に死を賭して戦う男は美しい。
 十中八九王都警備団だと分かっているが、万が一の時のために自分の命を賭ける。
 そんな覚悟の決まった男の姿は、見とれてしまうくらい美しい。

「男爵閣下は何時ぐらいに戻られる?」

「猟師を率いて大魔境に入られたから、日暮れ前には戻られる」

「だったら俺達も大魔境に入って狩りをする。
 日暮れまで狩りをしてから戻って来る、それで良いか?」

「ありがとうございます、そうしていただけると助かります」

 もうすっかり死を受け入れた門番が清々しい表情をしている。

「付き合ってもらって悪いですね」

 俺は十五人の兵士全員に向かって言った。

「いや、構わない、むしろ助かった、あのままでは門番を殺すしかなかった。
 カーツ殿が引いてくれたから、我々も引けた。
 王都の外がこれほど危険で、盗賊が跳梁跋扈しているとは思わなかった」

 十五人の兵士と共に大魔境に入った、愛する竜達六頭を率いて大魔境に入った。
 危険極まりない大魔境だが、なんだか懐かしく感じてしまう。
 
 愛する軍竜達は栄養を補給したいのだろう、目に付く魔蟲を次々と食べる。
 俺はブーメランとカーリを駆使して鳥や魔鳥、大型の魔蟲を狩る

 弱く小さい魔蟲や鳥には、強力無比だが鏃しか当たる場所のない合成長弓よりも、当たる面積が多いブーメランとカーリが効果的なのだ。

 ある程度強くて大きな魔獣には、強力無比で貫通力の強い合成長弓を使う
 シカ系魔獣、フロスト・ディア七頭の群れを見つけ、合成長弓で次々と仕留める
 素早く軍竜から降りて腹を裂き、内臓をだし肉質が悪くならないようにする

 内臓を軍竜に与えて栄養補給させ、七頭の獲物を軍竜の荷籠突っ込む
 鳥や魔鳥、大型の魔蟲は狩りに付き合ってくれた十五人に兵士に分配する。

 賄賂は受け取れなくても、獲物が多くて捨ててしまわなければいけない物は、受け取っても処罰されないだろう。

 それが例え月給くらいの価値がある魔鳥や魔蟲でもだ。
 もう全員手がふさがってしまい、これ以上狩っても運べないので、男爵領に戻る

「先ほどは我が家の門番が失礼をしてしまった。
 門番には私が厳罰を与えておくので許してもらいたい。
 御客人と王都警備団の方々には、男爵家の当主としておわびする。
 この通りだ、申し訳なかった。」

 日暮れ前に男爵領に戻ると、リヴァーデール男爵が門前で立って待っていた。
 自分が最上級の出迎えをする事で、門番の命だけは助ける考えなのだろう。
 その無言の態度に男の心意気を感じた。

 客人や王都警備団の兵士といっても平民に過ぎない。
 男爵家の当主に頭を下げられたら、それ以上の追及はできなくなる。
 まあ、少なくとも俺は、最初から追及する気はない。

「頭をお上げください、男爵閣下。
 辺境の地がどれだけ危険なのか、門番殿から教えていただきました。
 知らなければ、王都警備団の兵士に偽装した盗賊に殺されるかもしれなかった。
 感謝こそすれ、怒りなどは全くありません」

「我々王都警備団も同じ思いです。
 盗賊の跳梁跋扈を許している、王国警備団に責任がある。
 ただ王都警備団の役目の邪魔をしたので、全く何の罰も与えない訳にはいかない。
 主人である男爵閣下から、適当を思われる𠮟責を与えてくだされば結構です」

「御客人と王都警備団の方々にそう言って頂けると助かる。
 忠義の門番当人を殺したくない気持ちはもちろんだが、老いた両親、結婚間もない妻、生まれたばかりの子供が働き手を失って飢えなくてすむから助かる」

「では、改めて自己紹介させていただきます。
 冒険者ギルドのマスターと王都警備団団長に紹介してもらいました。
 カーツ・ターナというタリファ王国出身の冒険者です。
 今回は新しい竜牧場を開くためにやってきました。
 色々と御迷惑をかけると思いますが、宜しくお願いします」

「紹介状にも書かれていましたが、竜牧場を開いてもらえるとの事ですね。
 その立派な竜の血が、我が領の竜達に入るだけでも大助かりだ。
 領地を上げて協力させてもらう」

 儀式的な挨拶が終わると、少し寛いだ歓迎会となった。
 男爵とその家族が精一杯のもてなしをしてくれた。
 王都警備団の十五人には、悪い印象を覆そうとした大歓迎が行われた。

 辺境の男爵領が平民兵士に行うには過ぎた歓迎で、兵士達が恐縮していた。
 これで王都警備団に、男爵領の悪い話は流れないだろう。

 男爵への引継ぎが終わると、十五人の兵士は王都に帰って行った。
 思っていた以上にあっさりとした護衛任務終了だった。
 何かと言い訳をして、護衛を延長するかと思ったが、違っていた。

 俺の言葉を受けて、開戦理由など必要ないと思ったのかもしれない。
 俺など何時誰に殺されても構わないと思ったのかもしれない。
 そういう決断がアルへシラス王国首脳陣の間で決まったのかもしれない。

 あるいは、リヴァーデール男爵領の領民が兵士並みに強いのかもしれない。
 男爵領の領民は、戦争になれば男爵家の領民兵として動員される存在だ。
 滅多にはないが、王国正規兵よりも強い領民兵もいる。

「カーツ殿、新し牧場をどこに造るか相談したいのだが、良いか?」
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