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第1章

第14話:閑話・強制査察(悪質クランリーダー視点)

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「待て、本気か、俺が侯爵閣下と懇意なのを知っているだろう?!」

「黙れ、侯爵家が後ろ盾であろうと、これ以上王都で好き勝手はさせん!」

「兵士の分際で舐めた口ききやがって!
 お前程度の兵士、首にするくらい簡単なのだぞ!」

「ふん、自分の力ではなく侯爵閣下の力を使ってだろう?
 これまでは侯爵の力を借りて好き勝手できただろうが、もう終わりだ。
 王都警備団団長閣下と王都行政官閣下が激怒されたんだ。
 お前と侯爵の繋がりを示す証拠など山ほどある。
 これまでやってきた悪事を、全部侯爵がやらせていた証拠になる」

「ふん、少々の悪事など手柄があれば見逃される。
 強制依頼で何度も軍功を重ねているんだ、あの程度の事は見逃される。
 俺達の兵力は王国の役に立っている、少々の事では切り捨てられない。
 何より侯爵家の軍事力は王国も失えない、侯爵閣下が罪に問われる事などない!」

「そう思いたければ思っていろ!
 証拠になる品は押収するし、証人になる者は連行する。
 邪魔するならこの場で殺してやるからかかって来い!」

 おかしい、おかし過ぎる、なぜ正面から侯爵に喧嘩を売れる?
 決定的な証拠を見つけられたのか、それとも俺が侯爵家から切り捨てられたのか?
 戦場で役に立ち、汚れ仕事も引き受けて来た俺達以上に使える奴を見つけたのか?

「何か勘違いがあったようだ、こちらにも悪い所があったのかもしれない。
 もしかしたら、クランメンバーの中に性根の腐った奴がいたのかもしれない。
 もしそういう奴がいたのなら、俺が責任を持って処罰する。
 だから今回だけは穏便に済ませてくれ」

「ふん、今更何を言っても遅いんだ、ボケ!
 王都警備団で真っ当な者達は、ずっとお前らを腹立たしく思っていたのだ!
 お前達から賄賂を受け取っている騎士や兵士を増悪していたんだ!
 ようやく皆まとめてぶち殺せる機会がやって来たんだ!
 穏便に済ませる訳がないだろう、ボケ!
 徹底的に調べろ、証拠を押収しろ、少しでも抵抗する者は本部に連行しろ!」

「「「「「おう!」」」」」

 本当にどうなっているんだ?
 王国の権力状況も、王都警備団内の権力状況も計算して、要所を押さえていた。
 こんなに急に力関係がひっくり返るはずがない!

「一切抵抗するな、これは何かの誤解か罠だ、必ず我らの正義は証明される」

「「「「「ぷっふ!」」」」」

 俺様が一生懸命演技しているのに、下っ端の分際で笑いやがった!

「何が可笑しい、ぶち殺すぞ!」

「「「「「すみません、お頭!」」」」」

 糞、王都警備団の連中がいない時だったら、笑った連中を半殺しにできたのに!
 本当に忌々しい連中だ、証拠品がいるというなら、さっさと選んで持って行け!

「おい、こら、待て、それをどこから持って来た?!
 それがいくらすると思っているんだ、それは百万アルもする名剣だぞ!」

「ほう、これはお前の物だというのだな?」

「え、いや、それは、違う、俺のもんじゃない……俺のもんじゃない。
 昨日ギルドハウスで悪さをした奴、除名追放した奴がもって来た物だ。
 奴が百万アルすると言っていたから、そう信じていただけだ」

「みっともない上に苦しい言い訳だな、そんな言い訳はもう通用しない。
 これが盗品や脅迫して奪った物なら、お前も犯罪者奴隷落ちだ!
 侯爵がやらせた証拠がでてきたら、もう言い逃れが効かなくなる
 侯爵だけでなく、侯爵派全員が厳しい処罰を受けるのはもう直ぐだ。
 その時が来たら、お前の頭と身体が泣き別れになる!」

 下っ端兵士が上の威を借りていきがりやがって!

「……俺様が何時までも下手に出ていると思うなよ!」

「ほう、俺を殺す気か、好いだろう、いつでも殺せや!
 公務で調査中の王都警備団兵を殺してタダですむと思うなよ。
 侯爵の失脚前にお前らをぶち殺せるなら、よろこんで死んでやるよ!」

 ★★★★★★

 どうなってやがる、王都警備団の強制捜査が終わったと思ったら、王都冒険者ギルドからの強制出頭命令だと?!
 これまでは何をやっても職員が文句を言いに来るだけだっただろうが!

「駄目ですお頭、取り付く島もありません。
 出頭と命令に従わずに俺を代理に寄こしたから、クランは解散、全クランメンバーは追放だと通告されました」

「何だと、そんな横暴を黙って聞いて来たのか、ボケ、役立たずが!」

「ヒィイイイイイ、申し訳ありません!
 ですがお頭、率いて行った連中と脅かせて言われていた通り、脅かしたんです。
 ですが、ギルドいた連中、全員が敵に回ったんです。
 これまでは俺達に同調していた連中も、見て見ぬふりしていた連中も、全部敵に回って俺達を殴る蹴りして、ギルドから追い出したんです。
 その上で、クラン解散と全メンバーの追放を言われたんです。
 ギルドに行った俺達だけではどうしようもありません」

「ちっ、役立たずが、おい、侯爵の所にやった奴はまだ戻って来ないのか?

「はい、未だに戻って来ません……どうしやすか?」

「どうしやすかだと、どうするかなんて決まっているだろう。
 これまで通り、侯爵の力を借りて全部もみ消すんだよ」

「ですがお頭、今度ばかりは、これまでのようにはいかないんじゃありませんか?」

「あん、何言ってやがる、俺様に逆らう気か?!」

「いえ、とんでもないです、お頭に逆らう気は毛ほどもありません。
 ですが、今回の王都警備団と冒険者ギルドに態度は、これまでと違い過ぎます。
 ここまであからさまに態度が違うと、何か大きな変化があったに違いありません」

「そんな事はお前に言われなくても分かっている!」

「お頭、侯爵閣下の所に行かせた奴が戻って来なかったら、覚悟を決めませんか?」

「侯爵が俺達を裏切ったと言いたいのか?」

「使いにやった奴が戻って来なかったら、そういう事かと」

「分かった、形だけ頭を下げるだけなら侯爵でも団長でもマスターでも同じだ。
 ここで切り札を使うぞ、侯爵の犯罪を証明する物を持ってこい」

「はい!」
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