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第1章

第10話:アルへシラス王国王都冒険者ギルド

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「タリファ王国王都冒険者ギルドの割符を持っているのですが?」

 冒険者でごった返しているかと思ったが、意外と閑散としていた。
 そのお陰でベテランに見える男性受付の所を選べた。
 何が悲しくて、女性である事を武器に冒険者を操る受付を選ばないといけない。

「確認させて頂いて宜しいでしょうか?」

「これです」

「……全額現金で換金されるのですか?」

「はい、最初は会員になって預ける予定だったのですが、変えました」

「宜しければ考えを変えた理由を教えていただけますか?」

「ここに来る前に商業ギルドで割符を換金しようとしたのですが……」

 壮年の受付男性に商業ギルドであった事を話した。
 
「そういう事情で、ギルドが信用できると確信できるまでは預けられません」

「それでは、ギルドが信用できると思われたら、全額預けてくださるのですか?」

「ええ、護衛の兵士がいてくれるので不安は少ないですが、それでも大金を持っていると心配になります。
 冒険者ギルドが信用できると判断したら、今回引き出した金額だけでなく、商業ギルドで手に入れた賠償金も預けます」

「そうですか、だとしたら、今からギルドの会員になっていただけるのですね?」

「はい、僕が入っても良いのなら、冒険者ギルドの会員になります」

「それはとてもありがたいお話なのですが、この国の市民権を持っていないと、どこのギルドの会員にもなれないのですが、ご存じですか?」

「はい、この国に限らず、ほとんどの国が同じ規約になっていますよね?」

「はい、このギルドも共通の所は変わりません。
 後々問題にならないように、念のために説明させていただきます。
 市民権を持たない者はギルドの会員になれません。
 多くの職人ギルドでは、弟子になるなら見習市民権をもらえますし、一人前になったら正式な市民になれます。
 ただ準軍事組織である冒険者ギルドでは、入会すれば市民権を買う事ができます。
 商業ギルドや各種職人ギルドと違って、単独で狩りをする人も多いからです。
 だから、冒険者に限って六千アルという安価な値段で市民権が買えます。
 その代わり、冒険者ギルドと国が出す強制依頼は断れません」

「戦争になった時に戦わせる為ですね、分かっています。
 それでも、六千アルで市民権が買えるなら、今直ぐ買います。
 市民権を買えば、冒険者ギルドの正会員として今直ぐ活動できるのですね?」

「はい、アルへシラス王国の冒険者市民として活動できます」

「冒険者市民とこの国で生まれ育った市民との違いはありますか?
 冒険者市民になったら、この国の土地や家は買えますか?」

「冒険者市民と他の市民に差はありません。
 土地も家も買えます、ただ、必要もない土地を買い占めると捕まります。
 利敵罪を適用されて殺される事もあります、気を付けてください」

「俺は軍竜を六頭持っているのですが、繁殖を考えているのです。
 上手くやれば、一頭の雌から百頭の子供が育ちます。
 雄一頭に雌五頭なので、五百頭の子供を育てるかもしれないのです。
 広大な牧場が欲しいのですが、利敵罪を疑われますか?」

「何の根回しもせずに、突然竜の牧場を開くと疑われます。
 敵の侵攻に合わせて竜を暴れさせると疑われたら、利敵罪に問われます。
 どうしても自分で竜牧場を開きたいのなら、ある程度の賄賂が必要です」

「賄賂は嫌いなんですが、他に方法はありませんか?」

「既存の竜牧場と手を組む方法があります。
 優秀な雄をお持ちなら、雌に種付けして子供を半分もらえばいい。
 そうすれば自前の牧場は不要になります。
 雌に子供を生ませたいなら、厩舎を借りる方法があります」

「既存竜牧場との提携と厩舎借りですか、確かにそれなら大金も不要ですね。
 おすすめの牧場はありますか?」

「幾つかありますが、何か希望はありますか?」

「色々あって、王都警備隊の許可がないと王都から出られないのです。
 だから、王都内の竜牧場だと助かります。
 もしくは、王都警備隊に顔が効いて、制限を突破できる人ですね。
 そういう人を選んでもらえますか?」

「今直ぐは無理ですが、何人か心当たりがありますから、交渉してみます」

「ありがとうございます、宜しくお願い致します。
 それと、冒険者ギルド直営の宿で泊まりたいのですが、空いていますか?」

「貴男ならもっと高級な宿に泊まれるでしょう?」

「俺は自分の寝心地よりも軍竜達の安全を優先します。
 どんな高級宿よりも、冒険者ギルドの厩舎が安全でしょう?」

「いや、さすがに貴族の方々が使われる高級宿にはかないません。
 確かに冒険者ギルドも、冒険者の相棒である竜は大切にします。
 ですが、貴族の力を恐れる高級宿の厩務員ほどではありません」

「いや、いや、そこが一番大切で心配な所です。
 貴族の方が利用するような高級宿に、平民が軍竜を六頭も持ち込むのです。
 貴族よりも立派な軍竜だと、言い掛かりをつけられます。
 貴族の権力で愛竜を奪われるのは耐えられない」

「なるほど、そういう視点で考えた事はありませんでした。
 確かに、竜好きはもちろん、金が好きな者も、平民の竜を奪いますね。
 その点で言えば、貴族と言えど、準軍事組織である冒険者ギルドの竜はそう簡単には手出しできないですね」

「ええ、だから冒険者ギルドの宿に泊まりたいのですが、空はありますか?」

「部屋のグレードはどうされます、最高級の部屋に泊まられますか?」

「寝られればどこでは良いとは言いませんが、最高級までは求めません。
 これでも冒険者ですから、夜営も普通にします。
 ただ、雑魚寝だけは嫌なので、個室を頼みます」

「最低の個室だと、二等個室になりますが、いいですか?」

「はい、それでお願いします」

「あのう、泊る場所が決まったら報告に戻れと言われているのですが?」

 ずっと黙っていた見張りの兵士が話しかけてきた」

「ええ、良いですよ、というか、僕に断る必要ないですよね?」

「それが、戻る時は騎士宣誓してもらえと言われていますのです」

「分かりました、王都から出ないと騎士宣誓します」

「ありがとうございます!」

 お礼を言われたら罪悪感で胸がチクチクと痛む。
 俺はもう公子でも騎士でもないから、騎士宣誓をしても無効だ、何の意味も無い。

 平民が騎士宣誓しても、誰も相手にしない、信用などされない。
 騎士扱いされないから、騎士の名誉や義務に縛られる事もない。
 だから、騎士宣誓して王都を出ないと誓った俺が、王都を出ても何の問題もない。

 さて、定番のイベントが起きないのだが、どうなっているのだろう?
 この世界の神は、物語と現実は違うと言いたいのか?
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