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第1章

第1話:婚約破棄

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「これより絶対神にスキルを乞い願い奉る重大な儀式を行う!
 どのような結果になろうと、貴族の家に生まれた誇りを忘れない!
 身分の低い者から順に前に出よ!」

 王城で一番豪華絢爛な場所、神殿室に大神官の言葉が響く。
 僕たち、神与スキル祈願式に参加している者の緊張が一気に高まる。
 いや、周囲にいる両親や兄姉も緊張している。

 ここで、神与されるスキル次第で、これからの人生が決まってしまうから当然だ。
 絶対神、この世界唯一の神から授かるスキル次第で、貴族ではなくなってしまう。
 愛情の薄い両親だと、悪いスキルを授かった子供を家から追放してしまうのだ。

 そう、愛情の薄い両親、陰で種馬と言われている愚か極まりない父。
 自分の趣味、舞踏会以外には何の興味もない身勝手な母。

 ここ数年のスキル祈願式で農民や職人が使うスキルを神与された異母兄姉達。
 その全員が家から追放されたのを考えれば、正室腹の俺でも安心できない。

 唯一家に残っている年上の兄姉は、貴族スキルの中では最低の剣士スキルを神与された異母兄だけだ。

「ホウィック男爵家令嬢アリーナ、神与スキルは農夫」

「キャアアアアア~!」
「「「「「アァアアアアア!」」」」」」

 男爵家でも最も序列が低いホウィック男爵の令嬢が、絶望のあまり卒倒した。
 神殿室にいる大半の貴族が、痛ましい結果に同情の声を上げる。
 極少数、性根の腐った奴だけが愉快そうに口元を歪めている。

 そんなに人の不幸が楽しいのか、腐れ外道共!
 その極少数の中に異母兄と王太女がいるのが腹立たしい。
 性根の腐った王太女が俺の婚約者という現実に、吐き気がする!

 転生して公爵家の生まれたのは良かったが、親も婚約者も最悪だ。
 王侯貴族の世界は身分制度が厳しくて吐き気がする。
 同時に厳しい弱肉強食社会の平民社会の好きになれない。

 だが、どんな世界であろうと生きていくしかない。
 八十歳で死んだ人間の知識と経験があるから、新生児の頃から色々やった。
 特に王太女と婚約させられてからは、急いで対策を考えて色々やった。

「シーフォード男爵家令息ニーコ、神与スキルは剣士」

「やったぁ~!」
「「「「「オオオオオ!」」」」」」

「静まりなさい、絶対神の御前ですぞ!」

 シーフォード男爵家の令息ニーコが歓喜の雄叫びを上げ、周囲の者が同調した。
 そんな貴族にあるまじき態度を大神官がたしなめる。

 一気に神殿室が静寂に包まれのは、絶対神の機嫌を損ねたくないからだ。
 これから神与スキルの授与を待つ上級貴族に睨まれたくないからだ。
 多くの上級貴族たちは、自分の子女の運命に胸を痛めているのだから。

 暇そうに、つまらなさそうにしている父と王太女が彼らと対照的だ。
 異母兄は、父と王太女が可愛く思える、ヘビのような目で俺を睨んでいる。
 俺が貴族スキルを神与されないように、絶対神に祈っているのだろう。

「モンタギュー男爵家令息トーマス、神与スキルは機織」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「「「「「キャアアアアア!」」」」」

 両親が子煩悩で有名なトーマスが、絶望のあまり頭を掻きむしって絶叫する。
 一人息子が貴族でいられない神与スキルなので、両親も天を仰いでいる。
 周りの貴族たちも、両親に同情して絶望の声をあげたのだろう。

 大神官もトーマスと両親に同情したのか、叱責の声を上げない。
 叱責はしないが、冷たい目と苛立たしそうな雰囲気を醸し出している

 毎年何十人という貴族子女を相手に神与スキルの儀式をしているのだ。
 いちいち胸を痛めていたら心を病むから、しかたがないと思う。

「大丈夫だ、お前を平民に落としはしない!
 平民の女で良いスキルを神与された者を嫁に迎える。
 その嫁を当主にしてお前の子、孫に期待するから大丈夫だ!」

「モンタギュー男爵家、気持ちは分かるが、私的な事は家で話しなさい」

「はっ、申し訳ありません、大神官猊下」

 モンタギュー男爵家は優しい、心から一人息子を大切にしている。
 自分が生きている間の事だけを考える当主なら、親戚から嫁を迎える。

 貴族家の当主として恥ずかしくない本家や親せきから嫁を迎える。
 少しでも家格を上げるために、有力な上級貴族家から嫁を迎える。

 だがそれだと、トーマスの立場が決定的に弱くなる。
 嫁に迎えた者が別の男との間に子供を作っても、トーマスは文句を言えない。
 平民出身の嫁ならトーマスの立場が強くなるから、みじめな思いを防げる。

 次々と神与スキルの儀式が続く。
 割合的には、五人に一人が貴族にふさわしいスキルを神与されている。
 とはいえ優秀なスキルはいない、貴族として最低限の剣士スキルばかりだ

 五人に一人だと平均的な割合だから、当たり年でも外れ年でもない。
 こんな割合だから、貴族はできるだけ多くの子供をもうける。
 子供が五人いて、やっと自分の子供が跡を継げる割合だ

「ハーディング男爵家令嬢アンケ、神与スキルは槍士」

「きゃあああああ、やったぁ~!」
「「「「「オオオオオ!」」」」」」

 今日初めて剣士以外のスキルが神与されたので、アンケが歓喜の声を上げる。
 剣士よりも上位とされているスキルだから、喜びを抑えられなかったのだろう。
 周囲の人たちも大神官に睨まれるのが分かっていて、歓声が抑えられない。

「静まりなさい、絶対神の御前ですぞ!」

 大神官の注意で神殿室は静かになったが、熱気は残った。
 この勢いで上位のスキルが神与されて欲しいと思っている。

 この後始まる子爵以上の貴族子女たちに対する祈願式。
 多くの人が上位スキルを授かるように願っている。

 ★★★★★★

「ベイルー公爵家公子クリスティアン、前へ出なさい」

 ようやくだ、ようやく俺の順番がやってきた。
 神殿室内は、期待の熱気、不安の冷気に混在している。
 この国で二番目に序列の高い家に生まれたから、待ち時間が長かった。

 アンケ嬢の後から儀式を受けた人間が全滅したから、神殿室の雰囲気が悪い。
 神与されたのが農民や職人のスキルばかりだったから、最悪の雰囲気だ。
 これで俺が農民や職人のスキルだったら、今年は外れ年と言われるのだろう。

 異母兄が射殺さんばかりの視線を向けてくる。
 俺が農民や職人のスキルを神与されるように願っているのだろう。
 王太女が俺を睨みながら時々異母兄に視線を送っている。

「ベイルー公爵家公子クリスティアン、神与スキルはブリーダー」

 神殿室の中にいる貴族たちが固まっている。
 これまでに神与されたスキルを事前に調べていた俺も、ブリーダーは初耳だ。
 意味的には育種家だから、農民というよりは牧夫かな、少なくとも貴族ではない。

「何だその聞いた事もないスキルは?!
 そんなおかしなスキルを神与された者など王家に迎えられん!」

 普段から女性らしくない乱暴な言葉使いをする、王太女が毒づく。

「お待ちください、王太女殿下、まだどのようなスキルか分かっていないのです」

 大神官が俺をかばってくれるが、止めてくれ、絶好の機会なのだ!

「調べればわかるとでも言うのか?!」

「それは……」

「長年神与の儀式を行って来た大神官も知らないスキルなのだろう?
 世界中の神与スキルを調べ、スキルで貴族の爵位を定めた王家が知らないのだ。
 とはいえ意味は分かる、ブリーダースキルは育種家であろう。
 だったら平民のスキルだ、牧夫と同じスキルだ。
 そんなスキルが貴族にふさわしいはずがない」

「まだ貴族に相応しくないスキルだとは言い切れません。
 良く調べればはっきりするかもしれません。
 世界中の教会に連絡して調べてからでも遅くはありません」

「ふん、わらわが王家に相応しい神与スキルを持っているのだ。
 婿など最低限の貴族スキルがあれば良い。
 もう公爵家には貴族に相応しい男子がいるではないか。
 時間をかけて調べる必要などない、破棄だ、婚約破棄だ!
 王太女として宣言する、ベイルー公爵家公子クリスティアンとの婚約を破棄する」

 ……王女の奴、前世の記憶を持った転生者か?
 普通に婚約解消と言えば良いだろう。
 前世に観たアニメや読んだ小説に影響されて、こんな機会を待っていたのか?

 それとも、スキルの詳細が分かる前に俺を殺す気なのか?
 俺を貶める雰囲気を作って、殺しても批判が出ないようにしているのか?
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